第55話 リーゼとキス
「あら? レベルが上がったわ」
えっ? リーゼはレベルカンストしている筈なのに?
「リーゼ、レベルはカンストしたのじゃなかったの?」
「それが、天の声が聞こえて、レベル199になった」
「…」
驚いた。僕はなんて間抜けなんだ。僕はリーゼの為にリーゼをパーティから追放しようとしていた。これじゃ僕も、あの糞勇者エルヴィンと同じじゃないか? 弱いからパーティから追い出す? 違うだろう? 仲間って、そんなものじゃないよね? リーゼは元々僕が仲間へと思って奴隷商から購入したんだ。それなのに…僕は…気がつくと僕は泣き出していた。
「ご、ごめんよ。リーゼ、ヒルデ…」
「どうしたの? アル? なんで泣くの?」
「下僕は一体どうしたのかしら? …何で泣くの?」
ヒルデとリーゼが僕の顔を見る。
「僕はアマルフィの魔族を倒したら、リーゼをミュラー騎士団長に預けて、パーティから抜けてもらおうと思っていた…それにヒルデの事…勉強できない馬鹿な女の子と思っていた」
「ヒルデ、本当に馬鹿だから、気にしなくていいのに」
「違う、ヒルデは馬鹿なんかじゃない。僕よりずっと頭がいい。僕が情けなく諦めても、ヒルデはあきらめなかった。本当に大切な事がわかっていた。僕に教えてくれた」
「アル…」
ヒルデは僕の手を取ると、ぎゅっと胸にしてくれた。
「気にしないで、アル、ヒルデにとっての勇者様はアルなの、2年前にプロイセン王国の王宮の庭で、ヒルデの大嫌いな蛇から助けてくれた。だからアルはヒルデの勇者なの…」
2年前? 確かに2年位前にプロイセン王国の王宮に呼ばれていた時に庭で蛇を怖がっていた女の子を助けた事がある…ヒルデはそんな事で僕の事を? てっきりセリアの街でホントに一目惚れしたのかと思ったけど、そうじゃなかったんだね。
「下僕…リーゼをミュラーに預けるって、どういう事かしら? もちろん嘘よね? 今のうちなら、お仕置きをしてあげるわ。嘘じゃないなら、二度とお仕置きしてあげないわよ!」
「リ、リーゼ…」
リーゼは目に涙を浮かべていた。奴隷になっても涙を見せなかったリーゼが涙を…
「ごめん。僕が悪かった。リーゼを守りながらの魔王との戦いは難しいと思っていた。でも、僕の間違いだ。君は僕の仲間だ。僕が君を仲間にしたのに…僕は最低だ…」
「今はどう思っているのかしら?」
「リーゼは僕と同じ底辺の戦士…僕達底辺の才能を持つ者は、レベルの上限がないんだろう。だから、リーゼもレベルが99の上限を超える事ができたんだ。リーゼは僕にとっても、みなにとっても重要な仲間だ…なのに僕は」
「下僕はあの世に行って懺悔しなさい!」
そう言って、リーゼは僕の胸に飛び込んで来た。てっきり殴られるかと思った。
「ねぇ? リーゼが今どう思っているか、知りたい?」
「どう思ってるの? 幻滅した?」
「リーゼはね。『リーゼは一生ご主人様と離れたくない。ご主人様がリーゼを手放さないでいてくれて、嬉しい』って思っているの」
「え? リ、リーゼ、キャラが……」
「……リーゼの本音は知っている癖に。これがリーゼの想いよ…」
リーゼは僕の頭を抱き寄せると唇を押し付けてきた。
「リ、リーゼ?」
「……リーゼ、こういうときしか素直になれないから」
唇が離れると、リーゼの恥ずかしそうな表情に魅入られてしまう。
気がつくと、ヒルデと目があった。ヒルデはとても切なそうな顔をしていた、何処かでみたような表情。
いつか、ヒルデとキスする事になるのかな? でも、今は駄目だよね。今、リーゼとキスしたばかりなんだ。いくらなんでも、つい今しがたキスをした娘の前でキスをする度胸はない。
「ヒルデ…ありがとう」
僕はヒルデの頭をぽんぽんと優しく撫でてあげた。
「ヒルデ頑張って良かった。アルに頭ぽんぽんされた~。えへへぇー」
二人が喜んでくれた。こんな僕とキスをして…頭を撫でられただけで喜んでくれて…僕は幸せなのかもしれない。
しかし、そんな中、リーゼが我に返った。それは一旦消滅した魔族の付近からシュミット侯爵が元通りに現れた処を見たからだ。衰弱しているようだが、人だ、魔族ではない。
「魔族って、人に憑依できたとしても、あんな知性を失った状態でどうやって冒険者や騎士団達をどうこうできたのかしら? そもそも、あれじゃシュミット侯爵を演じきれない筈」
「誰かが巧みに操っていたとしたら? 辻褄があうんじゃないかな?」
「なるほどね。馬鹿王女もたまには頭が回転するのね」
「てへへ」
ヒルデ、それ褒められていないからね?
「ねえ、魔族はどうしてシュミット侯爵に憑依したんだろう?」
僕は疑問に思えた。
「それは、魔族の動機を考えれば自ずとわかるわ。魔族の狙いは?」
「僕達勇者パーティだろ? リーゼが教えてくれたじゃないか?」
「じゃ、どうしてリーゼ達はのこのこ魔族の前にいるのかしら?」
「あっ!?」
僕は思わず後ろのティーナ王女を見てしまった。
知っている人が実はいつの間にか他の何かに乗り変わられていたって、凄く怖いことだ。ティーナ王女は本当に僕の知っている王女なのだろうか?
「ええっ? あの、わたくしを疑っていますの? 違いますわよ。わたくしは正真正銘のプロイセン王国の第5王女クリスティーナですわ。ねえ、アンナ? あれ、アンナ?」
気がつくと、ティーナの従者アンナの姿が見えない。一体いつ姿を消したんだ? 途中までティーナ王女を気遣って会場から逃げないでいたのに。
「シュミット侯爵、いえ、魔族を操っていたのは、アンナと見るべきね」
「そ、そんな!? アンナは3年も前からわたくしに仕えてくれて!! 喧嘩もするけど、それ位仲がよろしくてよ!! アンナがそんな大それた事をだなんて!?」
「ティーナ王女。シュミット侯爵とは以前お会いになった事は? それにシュミット侯爵が最近おかしくなったと聞いた事は?」
僕はティーナ王女の抗議を論理的説明した。そうなのだ、おそらく魔族に憑依されたら誰にもわからないんだ。例え身近にいつもいたティーナ王女にだって…
「そ、そんな、アンナが…いや、アンナがわたくしを見捨てて逃げる筈が…」
「ティーナ王女。アンナさんではありません。アンナさんに憑依した魔族が犯人です。魔族に憑依されると衰弱するようです。早急にアンナさんを見つけ出して、アンナさんを取り戻さないと大変です」
「は、はい、わたくしも協力します。ですから、アンナを、アンナを助けて下さい」
僕達はアンナさん救出に動いた。アンナさんの手がかりは意外と直ぐにわかった。
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