第43話 アマルフィのダンジョンへ…の前に海で水着

見渡す限りの青を想わせる青海原や、白と緑のコントラストが美しい白砂青松、さざ波が水面につくり出す波の綾……


「……す、凄い、これが全部海? 陸が見えないよ?」


「や、やだなお兄ちゃん、そんな訳がないでしょう。必ず対岸が……えっ、な、無い!?」


僕と妹のロッテが初めて見る海に恥ずかしい感想を述べていると、ヒルデに笑われた。


「うふふふっ、アルもロッテちゃんも海の知識ないのですね。海の向こうは滝になっているのですよ。ふふっ、ヒルデも海は初めて見ますけど、これは常識ですよ」


いや、海の向こうは多分水平線というヤツだろう、つまり更に先には海があって、その先に大陸があるのかもしれない。


「全く、馬鹿王女は駄犬の分際で生意気よ。でも今日は珍しく正論ね。アルの事を考えすぎて脳が異常状態から、逆に正常に戻ったのかしら?」


「そんなわけないだろっ……海の向こう側は水平線って言うんじゃないの!」


リーゼが珍しく僕じゃ無くてヒルデに毒舌を吐くので、思わず助け船出しちゃった。


「もっともそうな事を言っているけど、私達の水着を見て興奮しているのがバレバレよ」


「いや、興奮なんてしていないです!?」


いや、ホントはちょっと興奮しています。みなアマルフィでビキニの水着を買って着てるんだもの。ほとんど下着同然じゃないか? どうして女の子はあんな心元ない布地で平気なんだろ。


「嘘をつきなさい。何気ない顔をして、ホントは私達の身体を舐めるように見ているのでしょう? 絵に描いたようなムッツリスケベね。気持ちが悪いわね」


むっつりは認めるけど、そこまで言われると傷つくんですけど、マジで。


まあ、そんな訳で僕達はアマルフィの海岸の白い砂浜で遊んでいる。もちろん、こんな事をしている場合じゃない…という事は全員理解している、けど、海だよ?


そんな感じでダンジョン攻略なんてみな何処かに置いて来た僕らに思わぬトラブルが襲った。


「ご、ご主人さまぁぁあ! なんか虫でたぁぁぁぁぁ!」


いきなりフナ虫が出たらしく、リーゼが突然僕に抱き着いてきた。


「ご主人様、こ、怖いよぉ! あの虫何とかしてよぉ!」


「ま、まずは落ち着いて! まずは僕から離れて!」


リーゼは際どい水着で僕に密着してきたのだ。


「うえぇぇぇん! 変な虫は怖いよぉぉぉ!」


何か柔らかいものがあたっていて、凄くいい香りがして、クラクラするんだけど? 僕、白状します。ちょっとエッチな気持ちになっています。


「リーゼちゃん、これはフナ虫よ。無害だし、結構可愛いよ」


ヒルデが素手でフナ虫をむんずと捕まえると、海に逃した。対処方はあっているのか? わからん。


フナ虫が処理されるとリーゼが安堵のため息をついた。


「ふぅぁあああ……怖かったぁあ……」


「あ、あの。リーゼ?」


「何? ご主人様? そんな不思議そうな顔して、変よ?」


「いや、変なのリーゼのほうだろ! 話し方!」


指摘すると、リーゼはハッとした顔になり、


「な、なななな……なんて破廉恥っ! どさくさに紛れて、私の身体に密着させていたのね?」


「ま、待って! リーゼから密着してきたんだよ、僕のせいじゃないよ!」


「近寄らないで! このムッツリ豚野郎!? 変態、一回死んでみる!?」


リーゼは激怒する一方、涙目だった。僕の目の前で醜態…可愛かったな…晒して、凹んだらしい。でも、今日のリーゼはいつもと違った。


「やっちゃったぁ……とうとうやっちゃったよぉぉぉぉ! 私のばかぁ! わたしの本音を言っちゃったよぉ! ご主人様に私の本音があぁあああああああああ!」


いやいや、前から知っていたよ。リーゼは素直になれないけど、本当は可愛い女の子だってこと、いつも照れ隠しだって、丸わかりだから。


リーゼは一人落ち込み、浜辺で、指で好き、嫌い、好き、嫌いと砂浜に延々と書き続けている。


そんなリーゼを眺めていると、油断していた僕にナディヤが襲ってきた。


「せんぱ~い☆ リーゼさんとばかり遊んでいないで、可愛い後輩とも遊んでくださいよ☆」


ナディヤは突然僕に抱き着いてきた。メロンみたいにおっきい胸を僕に押し付けてくる。


リーゼの慎ましい胸と違って存在感が半端ない。


「ありゃ☆ 先輩もしかしてナディヤに女の子を感じているのですね。これはもう、愛の告白をしてもいいですよ!」


「いや、ナディヤ、いきなり飛びついてくるとか酷くない? それに僕は1mmもそんな気持ちないからね!」


「キャピーン☆ 先輩に秒で振られちゃった!」


ナディヤ、僕が告白したら、どんな顔をするんだろうな? いつもウザく絡むのはナディヤの愛情表現だ。そのくせ、恥ずかしがりで、肝心なところになると照れ隠ししてしまう、でも、僕はナディヤが照れ隠しするのを今日は見逃さなかった。


ナディヤが中々僕から離れないので、ヒルデとロッテがつまんなくなったのか、僕の両脇から、僕の手を押し合い引っ張り合いをする。そして、二人共僕の腕にその胸を押し付ける。


「ヒルデが2号さんなんですよ。ヒルデとも遊んでよぉ!」


「お兄ちゃん、鼻の下を伸ばしていないで、可愛い妹の相手もしてよ!」


いや、ロッテは既に妹というよりヤバい僕を狙っている女の子だ。ロッテは兄の僕から見ても可愛い女の子だと思う。でも、ロッテと付き合ったり、ましてや結婚したりしたら、村での僕の評価は変態一直線だ。


「さすが主様! 素敵なボディですね」


魔族のナーガだ。彼女は新参者だからか、少し遠慮がちだったけど、我慢できなくなってきたらしい。僕は確かに騎士学校で1年学んだから、意外と細マッチョなんだ。


「素敵です。ナーガ、主様になら、食べられてもいい!!」


ええっ? 魔族って、そういう感性? 僕は流石にびっくりしてしまった。


でも、そんな感じで束の間の楽しい夏の海を楽しんでいると、


「きゃあああああああっ!」


浜辺で、突如女の子の叫び声がした。僕達は互いの顔を見合わせると、声のした方へ急いで向かった。


そこには、ありえないものがいた。


「ま、まさか、嘘だろう? キラーラビット? ここは街の中だよ?」


南国気分を打ち砕かれた僕達の前に現れたのは…街に侵入できる筈の無い魔物だった。


一体どういう事なんだ? 街には魔物が侵入できる筈がない。


そうだった。僕達はミュラーさんに依頼されてこの街に来たのだった。この街の近くには不思議なダンジョンが発生していて、高レベルの騎士団や冒険者が街で失踪するという謎の事件が起きている。当然魔族絡みだろう。僕達は既に事件に巻き込まれていた。

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