底辺回復術士Lv999 ~幼馴染を寝取られて勇者に追放された僕は王女様達と楽しく魔王を倒しに行ってきます。ステータス2倍のバフが無くなる事に気がついて今更戻ってこいと言われても知りません~
第19話 その頃勇者エルヴィンのパーティでは4
第19話 その頃勇者エルヴィンのパーティでは4
エルヴィンの勇者パーティは新戦力を補充できておらず、困っていた。冒険者ギルドには先日の冒険者ビアンカを見捨てて逃げた事が広まり、誰も 仲間になってくれない。
エルヴィンはパーティ強化担当の貴族ダニエルと面会していた。
「ダニエル様、大変由々しき事態です。仲間が足りません」
「う~ん。一体どういう事なのじゃ? つい3週間前にはダンジョンの第8層を攻略済だったというのに…」
「それが、例の足手まといの底辺回復術士が死んだせいで、仲間の士気が下がってしまって、パーティが上手く機能しないのです」
勇者エルヴィンはもっともそうに言う。彼は未だにステータス2倍のバフが無くなった事に気がつかないのだ。
「仕方ない、我が騎士団の精鋭を1人貸し与えよう。しばらくはそれで我慢せよ」
「ありがとうございます。しかし、国王陛下の指示には背く事になるのではないでしょうか?」
「それは心配するな。貴様のレベルが上がれば全て解決するのじゃ。些末な事は気にするな」
「承知しました」
エルヴィンは常宿に帰った。帰ったら、またフィーネでも抱こうかと考えているのか、薄ら笑いだ。
☆☆☆
あくる日、勇者パーティ強化担当の貴族ダニエルは定例報告の為に王宮に参上していた。国王の謁見の間で、国王が待つ、
「それでどうじゃ? 勇者パーティの成長具合は?」
「はっ! 順調に進んでおります。何せよ歴代最強のスピードで成長しているエルヴィンの勇者パーティですので、私のできる事など何もございません」
躊躇なく嘘の報告をするダニエル、しかし、
「そうだな。何せよ、勇者パーティにはアルベルト殿がおるからな」
「はっぁ!? ア、アルベルトですか? あの底辺回復術士がですか?」
ダニエルは心底驚いた。あのごみの様なアルベルトの事を何故国王は持ち上げる?
「うむ。エルヴィンの勇者パーティが歴代最強なのは、彼のおかげだからな。わしも安心しておる。ところで、アルベルト殿は元気にしておるか?」
「え、ええ、もちろん元気にしております。しかし、何故アルベルト殿にそれ程ご執心なのでございましょうか? アルベルト殿は唯の回復役です。もちろん回復役を軽視するようなつもりはございませんが、やはり勇者パーティの要は勇者であるエルヴィンかと思われます」
ダニエルはアルベルト死亡の事は咄嗟に伏せた。国王の真意がわからない。あんなごみの様な存在を覚えている事自体が信じられない。
「そちの目は節穴か? 先日王女が勇者エルヴィンに逢いたいと言い出して、護衛を引き連れてそなたの屋敷で引き合わせたであろう?」
「はい、王女様も稀代の勇者エルヴィン殿にご興味があるのは致し方ないものかと思われました。無事王女様と勇者パーティの懇親会も滞りなく進み、ご機嫌でお帰りになられました」
そういえば3週間程前のアルベルト殺害の直前に王女が遊びに来た。全く、忙しい時に王族ときたら、呑気なものだ。だが、王女は勇者エルヴィンが気に入った訳だから、将来結婚をする可能性が高い。勇者エルヴィンと懇意にしている自身のこの国への影響力も大きくなると言うものだ。
しかし、私の目が節穴? 一体どういう事だ?
「王女クリスティーナは勇者エルヴィンに逢いに行ったのではない、アルベルト殿に逢いに行ったのだ。しかし、アルベルト殿は懇親会に出席してくれなかったそうでな。次回は頼むぞ。王女はアルベルト殿にすっかり魅了されておってな。私もあれ程人ができた人物ならと理解を示しておる」
「そ、そんば馬鹿な? アルベルト殿は唯の回復役です。何故、王女殿下はアルベルト殿に?」
侯爵ダニエルは体中から汗を吹き出していた。事実なら、アルベルトを殺害した事が露見したら、大変な事になる。いや、露見する事はない筈だ。それより王女がエルヴィンでは無く、アルベルトに興味を持っていた事の方が問題だ。自身の未来の権益が減る。
「王女クリスティーナはな、以前、この王宮でアルベルト殿に逢っていての。それで一目惚れしたらしい。彼は好青年だから無理もない。それに彼はパーティのステータスを常時2倍にする強化魔法の使い手じゃからのう、わっはっは!!」
何だと? ダニエルの額にはおびただしい汗が浮かぶ。そういえば、最近の勇者パーティの弱体化はあのアルベルトを殺害した頃からだ。まさか、そんな…
「…」
「驚いたか? 私も先日王女に同行した騎士が告げてくれたので知ったのじゃ。騎士は王女が興味を持つアルベルト殿の事が知りたくて、つい鑑定の魔法を使ったらしい。しかし、ステータス2倍とは…魔王に止めを刺す勇者パーティは我が国になりそうじゃな。はは、頼もしいわ!」
ダニエルは愕然としたが、悪辣な彼は目まぐるしく計算した。
アルベルトの死は隠すしかない。そして、これ以上勇者パーティが停滞すると、アルベルトの死が露見してしまう。
「そうでしたか。私もアルベルト殿は唯の回復役とは言え、人物は素晴らしい方と感服しておりました。流石国王陛下、王女殿下。お目が高い!」
「はは、私も我が娘ながら、人を見る目があったと自慢したいぞ。その点、あの勇者エルヴィンはギラギラとした目で女性を見るけしからん人物だ。良くない噂ばかり耳にする。魔王の討伐が叶ったなら、地方にでも領地を与えて適当に中央からは遠ざけても構わんだろう」
何だとぉ? それでは私があの糞に媚び諂った努力は一体どうしてくれるのだ? ダニエルは一人焦る。
ダニエルは国王の謁見の間を去ると決意した。勇者パーティを早急に無理やり成長させるしかない。アルベルトはその中で死んだ事にすればいい。その為には騎士を3人、いや5人つけよう。それだけいれば、あのダンジョンは攻略できる。後は、エルヴィンの勇者パーティが魔王を倒してくれるのを祈るよりない。いや、いっそ、勇者パーティが全員全滅して死亡した方が良いのかもしれない。
彼は人類の希望の星を自らの手で消してしまった事になぞ、これっぽっちも興味がなかった。ただ、自身の保身だけを考えるのであった。
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