第7話 初めての冒険は薬草取りからの魔族討伐1

冒険者登録の翌日、早速僕達は初仕事に出掛けた。僕はかなりたくさんの国宝級の剣刀や魔道具を所有していたが、全部収納のユニークスキルでしまっていた。あまり目立ちすぎるのはよくない。装備は底辺回復術士の白のローブから、戦いやすい革をあちこちに使った戦闘服、腰には普通の鉄の剣を装備した。そして、ヒルデは青と白をベースにした金属をあちこちに使った戦闘服、スカートに白い剣を帯刀していた。


「では、いよいよ、記念すべき冒険者としての最初の仕事ですね? 初めての仕事は何がいいのかしら?」


「えっ? 薬草採集に決まっているじゃないか?」


「え………」


僕の回答にどうやらヒルデは不満な様だった。


「聞いていなかったの? 昨日のギルドの説明、最初は用心してくださいって言っていたよね?」


「えっ? 確かに用心深くあるべきとは思いますが…薬草採集ですか? アルさんがですか?」


「多分、規約で最初は薬草採集しかできないと思うよ。昨日ちょっと、ギルドの募集要項に目を通したんだ」


僕の考えに間違いはなかった。例の受付のお姉さんが対応してくれたが、やはり薬草採集しかできない事がわかった。何故かお姉さんは『勇者に』…とか『レベル999の人に』…『薬草採集なんて頼んでしまった』…とか言っていた。規約だから仕方ないのにね?


薬草の場所はこの街から北へ歩いて1時間位の「赤の森」だ。この森は深く、最深部ではAクラスの魔物が出る事もある。もちろん僕達は森の入り口近くの比較的安全な処で薬草を採集する。


僕はヒルデのをエスコートしながら懐かしく森への道を進んだ。まだ勇者パーティで強弱がついていなかった頃、この赤の森は訓練場だった。この森には何度も通った。


季節が変わったせいか、以前とはかなり趣が異なるが、木々や山々の景色は以前と変わらない。まだ幸せだった頃の思い出が蘇る。


「あ! これを渡しておくよ。ポーションだよ」


「ありがとうございます。アルさん。あれ? でも、アルさんは回復術士では?」


「うん、そうだけど、そのエリクシール(最上級回復薬)早く処分したくて」


「エ、エリクシール? そんなのこの国の国王に献上した方がいいのでは?」


「僕、たくさん持っていて、早く使い切りたいんだ。前のダンジョンの外れドロップアイテムで、10万個位あって、これ全部売ると、エリクシールが国宝からただの飲み物になるよ」


「……」


ヒルデは何故か黙り込んだ。そしてしばらく歩くと、


「ありました。薬草です。ギルドの図鑑にそっくりです」


「ホントだ。これを100枚採集して帰ればいいのか?」


その時、何か気持ちの悪い感触が深く、強くなって来た。そして、


「きひゃひゃひゃはっ!! 見つけたぞ! ブリュンヒルト王女! その美しい顔を今、ズタズタにしてさしあげます!!」


何かヤバい内容の声がした。僕はヒルデに確認した。


「君の知り合い?」


「はい、多分…私の祖国を滅ぼした、魔族…」


「…頑張ってね」


やっぱり、トラブルメーカーだった。自分で頑張ってもらおう。簡単に人の手を借りるような子に育てた覚えはない。育ててはいないか?


「ア、アルさん…」


ヒルデは目に涙を浮かべていた。そして、その瞳から一筋の涙の雫が流れた。


「お、お父様の敵、私を逃す為、お父様は…」


ファザコンか? 早く自立した方がいいよ。


「君と因縁のあるヤツのようだね。一人で大丈夫?」


「ア、アルさんは私を見捨てるおつもりなのですか?」


ズルい、女の子の涙、ズルい。これじゃ、助けないと、僕が酷い人間みたいに思われるじゃないか?


「安心して、僕はいつも君の味方だよ」


「今しがた見捨てられそうな空気を感じました」


「気のせいだよ…」


気のせいじゃないけど、なんて鋭い子だ。脳が故障していてもそういう事はわかるのか?


「おや、おや、おや? まさか、この女を助けるつもりなのですか? 逃げたなら見逃してやるつもりだったのですが?」


ひぇぇ……怖ぇ、この魔族怖い、魔族は初めて見るが、こんなヤバそうなヤツは見た事がない。こんな綺麗な女の子の顔をズタズタにしようだなんてヤツ、ヤバすぎる。


「私は、ここで死んでしまうのでしょうか?」


「いや、君をここで死なせたりはしないさ…」


とりあえず、格好つけて体裁を繕った。しかし、この魔族、ヤバい性格な上、見た目も気持ち悪いのに、相対させられる僕の心の内は、


あぁ……もうヤダぁ、かんべんしてくださいよぉ……。


魔族は雄羊の角、赤っかに光る眼、ぬめぬめとした漆黒の肌。いびつに湾曲した腕、コウモリの翼、矢じりのついた二股の尻尾。かなり上級の魔族、めっちゃ怖いです。


「安心してください。今すぐには殺しません。この場所にダンジョンを作ります。無事、我のいる最下層に辿りついたら、生きて帰れる可能性があります」


「いや、それ、ダンジョンに強い魔物を大量に配置して、疲労して魔力も尽きた僕達と対戦するという汚い方法だろう?」


「中々頭がいいですね。それに気がつくとは、大抵の人間が喜々として、ダンジョンの途中で死ぬのですが…もしかしたら、あなたは辿りつくのかもしれませんね。期待します」


「誰かお前のダンジョンを突破してお前がいるという最下層に辿りついた人間はいたの?」


魔族はにやにやとした笑いを浮かべると、


「いる訳がないでしょう。みな死にました。その女の父親も騎士団も何処かで死んだのでしょう」


そう言うと、足元が歪み、飲み込まれた。僕達は落ちる感覚はないが、視覚では落ちている感覚を味わった。そして、周りが真っ白になった。


真っ白な風景が収まると、普通の岩肌が見えて、そこは洞窟のような場所だった。落ちた様な視覚のイメージと魔族の言ったダンジョンという言葉から、やはりダンジョンなのだろう。


「ご、ごめんなさい。わ、私、アルさんを巻き込んでしまって」


「気にしないで、覚悟はしていたから」


パーティに入れた時から、トラブルになる事は予想していました。もちろん後悔はしているけど…


「わ、私…」


「安心して、僕にはパーティステータス強化10倍のユニークスキルがあるから、何とかダンジョンを攻略して、あの魔族を倒す事できると思うよ。多分、君一人でもできるよ」


「ええっ!? じゃ、さっきのは、見捨てたのじゃ無くて、愛の鞭? わ、私、アルさんの事、勘違いしていました!?」


う…ん。勘違いではないよ。見捨てようとしたのは事実だよ。でも、あの魔族に一人でも勝てるだろうという事は本当だと思う。鑑定のスキルで見たけど、あの魔族あまりステータスは高くない。だから、こんなダンジョンなんて作っただろう。


この子に魔族と戦ってもらえば、気持ち悪い思いをしないで済むと思っただけなんだ。僕、ゴキブリとか変な動物とか駄目なタイプなんだ。あの魔族はこの子のお父さんの敵みたいだし、僕はこの子からしばらく解放されてちょうどいい話だよね?

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