ディアーナの悩み事
「学校を休んでいる今こそ、出来る事をやらなくちゃね」
半休学状態のカインは、邸のなかで当主の仕事の手伝いをして過ごしているが、まだまだ勉強半分手伝い半分と言ったところでスケジュールがギチギチになっているという程では無い。
それならば、と自己暗示の方法を調べてみたり自意識改善系の啓蒙書などを読んでみたり、自分の姿を取り戻す方法について模索している。
また、魔女と魔王の捜索情報の交換をかねて、シルリィレーアやジュリアンと手紙のやりとりをしており、『騎士の国における女性騎士のあり方について』などの情報についてもやりとりをしていた。
―カイン様も知っての通り、サイリユウムでも女性騎士は平民か爵位の低い貴族家の令嬢がほとんどです。第二側妃さまが例外ですが、あの方も騎士として外に出られることはありません。あくまで騎士として活動するのは王宮の内部に制限されております。規則としては、公爵家長女の私も騎士になることは出来ますが(決まりとしてですわ。実力的にはとてもなれません)、なった後の世間の視線を考えると躊躇してしまいます。
ディアーナ様のお心を守るためには、世間の心づもりから変えていく必要があるのではないでしょうか?
― シルリィレーア
―カインの国の法律を今一度調べてみよ。本当に貴族女性は騎士になれぬと明文化されておるか?
なければ、隙を突いて女性騎士になることは可能かも知れぬ。明文化されてあったとしても、今の時代に沿っていないようであれば変えようはあろう。
私も今、高位貴族と王族の一夫多妻制度を義務から権利に変えるべく、高位貴族の子息たちに根回しをしておるところだ。
そういえば、第二側妃殿下が王宮内限定であるが騎士をしていることは知っておるだろう? いっそディアーナ嬢は私の側妃として嫁いでくるか? 第二側妃殿下と組んで後宮の治安維持を務めてくれるのであれば王子権限で騎士として叙勲してやれると思うぞ?
―ジュリアン
それぞれの手紙を読み、そしてジュリアンの手紙をビリビリに破いた。
「手紙の前半でちょっと見直したのに、なんだこの後半の文は! ジュリアン様のお嫁さんになんて、絶対絶対許さないからな! 却下だ却下!」
破いた手紙を放り投げ、頭をぐしゃぐしゃとかき回して叫ぶ。
ディアーナがジュリアンに嫁ぐというのは、隣国の第二王子ルートの破滅エンドそのまんまだ。今では、ジュリアンもアホだが悪い奴では無いとわかっている。わかっているが、心の中ではシルリィレーア一筋であることもわかっているので、そんなディアーナを一番に愛してくれない事がわかっている男の元になど、行かせるわけには行かなかった。
「はぁ……」
一通り大声を出して暴れ、ストレスが発散されて落ち着いたカインは、トボトボとまき散らかした紙片を拾い集め、パズルの様に手紙を元にもどしていく。
「イルヴァレーノ新しい紙と糊ちょうだい」
「結局元にもどすなら破かなければいいのに」
呆れた顔で、文具の入った引き出しから紙と糊をだしてカインの机の上に置いてくれた。
「なんてかいてあったんです?」
「ジュリアン様が、ディアーナが俺の嫁になれば騎士に叙任してやるぜ、へっへっへ。って書いてきた」
「……ヤってきましょうか?」
「怖い顔やめて、イルヴァレーノ」
新しい紙の上に、破けた紙を糊で貼り付けて手紙を元通りにしていく。セロハンテープなどの便利な道具はないので破いてしまった紙を元に戻すにはこうするしか無い。
「シルリィレーア様は、騎士になれたとしても、世間の意識が変わらなければディアーナの心が辛いのでは無いかって心配してくださっている」
「……まぁ、それは確かにそうですね」
イルヴァレーノは、カインには言わないがディアーナやカインに付いて学園に行っていると、一人になったときに『平民の癖に』といった陰口を聞くことがあるらしい。イルヴァレーノとサッシャしか開けられない、学園の人気者が集まる小部屋。この存在に嫉妬している小者の仕業だろうしイルヴァレーノ自身はあまり気にしていないようなのだが、ディアーナが同じような状態になることを想像するといたたまれないので、少し辛そうな顔を見せた。
「今までの様に、個人個人をカイン様の虜にしているだけではダメってことですね」
「他に言い方ないの……」
国民全員とは言わないが、貴族や騎士団の先人たちの意識改革をしなければならないとなると、権力や金があってもなかなか難しい。
前世知識やゲーム知識を駆使してチート出来る分野ではないのだ。
「ティルノーア先生や、騎士団副団長様もおっしゃっていたじゃ無いですか」
「ん? 何か言っていたっけ?」
「カイン様が助かった後ですよ。『もっと大人を頼れ』って。それこそ、クリス様のお父様と伝手があるのですから、騎士団内部の世論作成をお願いしたらどうですか」
「うーん……でも、今回の件で騎士団長の方の印象悪くしちゃったんだよなぁ」
騎士団の手配不足のせいだから子ども達には罪はない。という論法でディアーナのおとがめ回避をしてしまったのだ。カインの事は良く思っていないだろう。
「ジュリアン殿下が王子の身分で騎士を叙任できるのであれば、ジャンルーカ殿下はどうなんですか? ジャンルーカ様なら結婚なんて条件付けずに騎士に叙任してくださるのではないですか?」
「うーん。どうかなぁ……。でも、どっちにしろサイリユウムで騎士になってしまうと、僕とディアーナで離ればなれになっちゃうじゃん。せっかく留学から戻ってきて一緒に居られるようになったのにそんなのやだなぁ」
まぁ、どっちにしろ学園卒業後の話だしまだまだ先だしね、と笑ったカインだったが、ディアーナと離ればなれになる日は、意外とすぐにやってきてしまった。
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