魔法の森の冒険4

 次のチェックポイントの課題は『木の実を取れ』という内容だった。


「また、アウロラ嬢が叫び声を上げればいいんじゃないか?」

「突然は、やめてほしい。……おどろく」

「私がアーちゃんを肩車したら届かないかな?」

「魔法学園の行事なんだから、魔法を使いましょうよ」


 カードがくくりつけられていた木を、四人で見上げている。この中で一番背の高いアルンディラーノが手を伸ばしても届かないぐらいの高さに、赤い実がなっているのが見える。


「一番魔法が上手そうだから、ラトゥール様が落としてくれませんか」

「火魔法じゃ木を燃やしてしまうし、水をぶつけたら木の実が砕ける」

「それ以外でも、全属性できるって言ってませんでしたっけ?」

「出来るけど、精度が高いとは、………言ってない」


 言い合っている側で、一人で距離を取っていたディアーナが助走を付けてジャンプして手を伸ばしていたが、木の実には届かなかった。


「じゃあ、僕がディアーナを肩車するか?」

「お兄様に言いつけますわよ」

「僕がラトゥールを肩車すればいいんだな?」


 埒があかないな、と思ったアウロラは人差し指と親指を伸ばし、残り三本の指を握り混む形にして木の実に向ける。鳥男爵に習った風魔法で、圧縮した空気を勢いよく打ち出す魔法だ。


「風の弾よ、指先より出でて目標を貫け。風指弾!」


 アウロラの指先から勢いよく飛び出した小さな風の弾丸は、木の実の軸を見事に打ち抜いた。魔法を教えてくれた鳥男爵は、これを飛んでいる鳥の尾羽にあてて打ち落とし、鳥を捕獲するのだと言っていた。明らかに『鉄砲』がモデルだと思うのだが、アウロラはこの世界で鉄砲があるというのを聞いた事が無い。鳥男爵もまた別の人から習った魔法だと言っていたので、どこで発生した魔法なのかは追求できなかった。


「おっとっと」


 落ちてきた木の実を、ディアーナが無事にキャッチする。リンゴに似たその木の実は、ツヤツヤと赤く光っていてとても美味しそうだったのだが、課題として提出するためにそのままディアーナの鞄へとしまわれたのだった。




 その次のチェックポイントへと向かう途中、根っこを足のように動かして移動して行く大木を見かけた。


「アレを退治したらポイント沢山もらえたりしないか?」

「アレは確か………保護対象になっている貴重な魔法木だったと思う。あの木で作った杖が魔法発動の補助道具として優れてるってことで乱獲されて絶滅寸前だって本に書いてあった」

「じゃあ、倒したら逆に叱られてしまいますわね」

「魔法を使うのに杖なんて使う事あるんですか?」


 生け垣のように茂っている低木の影にかくれながら、四人は歩いて行く大木を眺めている。大木の向こうの普通の木に、次のチェックポイントである白いカードがぶら下がっているのが見えているのだ。歩く大木をやり過ごしてから向こう側へと行くつもりで隠れている。


「昔は、魔法の制御が難しい子どもが指揮者のタクトの様にして使っていたらしいぞ」

「大人でも、自分の手には負えなそうな難しい魔法を使うときに使った事もあると本に書いてあった」


 アルンディラーノとラトゥールの解説を聞いて、アウロラの頭に浮かんだのは丸眼鏡の少年魔法使いが主役の映画であった。


「なんかかっこいいですね」


 そう言ってアウロラが指揮棒で四拍子を刻むようなジェスチャーをして見せた。


「今は、純度の高い魔石を填めた指輪やブレスレットで魔法の制御を補助するのが主流だからな。杖なんて使ってると古くさいって笑われるぞ」

「えー。でもタクトみたいなのじゃなくて、身長よりでっかい杖を振り回して魔法を使うのって格好良いと思いますわ」

「老人が歩くときに使うような杖か?」

「違いますわ。魔法使いファッカフォッカみたいな杖の事ですわ」

「え。ディアーナ嬢は魔法使いファッカフォッカ知ってるの」


 やることがないせいか、巨大であっても動きがのろい木が相手だからか話がどんどんズレていく。子どもだねぇ~と微笑ましい気持ちで耳を向けつつ、歩く木を眺め続けていたアウロラは、その足跡(?)に花が咲いていくのを発見した。

 まるで録画映像を早回しで再生しているかのように、歩く大木が根っこを置いた跡から芽が出て双葉になり、にょきにょきと茎が伸びてふわりと小さな花が咲く。花は、白や黄色、桃色など色々で、それまでの急成長が嘘のように花は枯れずにそのまま風に揺れていた。


「ディーちゃん。みて、大木が歩いた後に花の道ができてる」


 ラトゥールとファッカフォッカ談義を繰り広げていたディアーナは、アウロラに肩をトントンと叩かれて歩く大木の方へと視線を移した。


「本当だ。可愛いお花が一直線に咲いてる」


 当の歩く大木は、小さな小川にたどり着いたところで根をおろし、半分水につけた根っこから水を吸い上げている様だった。


「ああやって、歩く木の後に花が咲いて位置の特定が容易だったから、乱獲されたんだろうな」


 アルンディラーノが目を細めて小川で休憩中の木を見つめていた。

 歩く大木の後ろをそっと通り抜け、三つ目のチェックポイントのカードをめくれば、課題は「急成長する花で作った花束」だった。

 四人はまた歩く大木の後ろへそっと近寄ると、咲いたばかりの花を摘んで花束を作った。




四つ目のチェックポイントは、湖の真ん中の小島にあった。


「あれ、どうすればいいんだ?」


 小島の真ん中に一本だけ立っている木の幹に、課題と次のチェックポイントの場所が書かれたカードがぶら下がっているのが見えている。


「見た範囲では、小舟などはなさそうですわね」

「湖も意外と深そうですよ」

「こういうときは土魔法で道をつくれば良いんだろうが」


 ラトゥールが言ってアルンディラーノ、ディアーナ、アウロラの順で視線を投げていくが、


「土魔法は属性が無い」

「使えるけど、得意ではありませんの」

「土魔法はチャレンジしたことがありませんね」


 全滅だった。

 魔法の森に設置されているチェックポイントの数は、各チーム五枚集めても余るように多めに配置されている。ここの課題カードを諦めて別のチェックポイントを探す、と言う方法もある。


「けど、場所のヒント無しで探さなくちゃいけないから時間が掛かってしまいますわね」

「スタート地点あたりまで戻れば、最初の一枚用のカードが残っているかもしれないぞ」

「うーん」


 湖の真ん中にある小島への渡り方に、アウロラは一つ思いつく物があった。前世の宗教の一つに伝わる逸話にあり、アニメや漫画でも度々出てくるド派手な演出の方法。


「水を割って、湖の底を歩いて行くのはどうでしょうか?」


 モーゼの海割りである。


「??? 何を言っているんだ、アウロラ嬢」


 頭の上にハテナマークが浮かんでいる幻が見えそうなほど、アルンディラーノが困惑した顔でアウロラのことをうかがっている。水を割るというのが想像つかないのかもしれない。


「アルンディラーノ皇太子殿下は風魔法が得意で水魔法も使える。ディーちゃんは水魔法が得意で、ラトゥール様も水魔法が得意。そして私は風魔法が使える。それで、ディーちゃんとラトゥール様は魔力量も多いのですよね?」

「自信がありますわ」

「魔力なら負けない」


 アウロラの言葉に、二人ともしっかりと頷く。アウロラは身振り手振りで湖の水を水魔法で割り、風魔法で水の壁を押さえつつ湖底を歩いて渡る、という作戦を説明した。面白そうだと言うことで、まずはやって見ようと言うことになった。

 まず、ディアーナとラトゥールで湖の水に働きかけて動かし水を割る。アルンディラーノが風魔法で水の壁が崩れないように押さえ、アウロラがダッシュしてカードを取ってくる事になった。


「えーっと、水に自分の魔力を帯びさせて……」

「水を作り出さず、すでにある水を動かす………」


 ディアーナとラトゥールが、それぞれ湖に手を浸して水を割るイメージをしている。アルンディラーノはその間で風魔法を発動させる準備をして待機。アウロラはクラウチングスタートの体勢で構えた。


「じゃあ、『せーの』で行くぞ!」

「「せーのっ」」




 結果として、湖を割ることには成功した。


 ディアーナが向かって右側の水を動かし、ラトゥールが左側の水を動かした。かなりの集中力と魔力を注ぎ、なんとか湖底が見えてきたところでアルンディラーノが風魔法を使おうとしたその時。


「こらーっ!」


 巨大なサンショウウオが現れて四人に説教を始めた。

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