アルンディラーノとクリスは仲良し
刺繍の会の翌日、近衛騎士団の訓練場でクリスとアルンディラーノが木剣を打ち合わせていた。
「クリスは、神渡りの鐘って知っているか?」
つばぜり合いになったタイミングでコソッと聞いてきたアルンディラーノに、クリスもコソッと返事をする。
「ええ。兄と毎年鳴らしに行ってます。去年ぐらいから一人で大人の鐘を鳴らせるようになりましたよ」
「ちっ」
「舌打ちぃ!?」
カキンと木剣をはじいて距離を取る、明らかに不機嫌な顔になったアルンディラーノに、クリスは首を小さくかしげた。
剣を振りかぶり、お互いではじき、躱し、流して打ち合い、再びつばぜり合いになった。
「僕も行きたい」
「いや、無理でしょ。何言ってんですか殿下」
「ちっ」
「また舌打ちぃ! 駄目ですよ殿下ぁ。下品下品」
「ディアーナもケイティアーノもノアリアもアリアナもクリスもゲラントも行ったことあるのに、僕だけ行ったことがないんだぞ? この先国を背負って立つというのに、人より経験値が低いって言うのは問題だろう?」
「大人になってから、視察って形で正々堂々と見に行ったらいいじゃないか」
「それじゃあ、鐘は鳴らせないだろ」
「コラァ! クリス! 殿下! サボってるんじゃ無い!」
ぼそぼそと、つばぜり合いで競り合っているようなフリをしながらしゃべっていたら怒られた。
水分補給の為の休憩時間。アルンディラーノとクリスは木陰に座り込んで息を整えていた。水筒から水をあおり、首から下げていたタオルで口元を拭う。
「もう冬が来る。体温を下げすぎないように汗はしっかり拭くように!」
遠くから副団長であるファビアンの声が響き、アルンディラーノとクリスがそろって「はいっ」と条件反射で返事を返した。
「ふぃー。父さんこえぇ」
「なぁクリス、なんとか神渡りの鐘を鳴らしにいけないか?」
「あ、諦めてないんですね」
「今年の冬はカインが帰ってくる。多分、カインはディアーナと鐘をならしに行くだろ? 僕もカインと一緒に鐘を鳴らしたいんだ」
「うわぁ」
こじらせてる。相変わらずカイン様をこじらせてるな殿下。とクリスは心の中でドン引きしながら眉毛を下げた。
「ケイティアーノ達にもバカにされたまんまでいたくない」
クリスの表情に、むっすりとした顔を作りつつタオルで首筋の汗を拭くアルンディラーノ。
「あー、あのお嬢さん達ね。相変わらず仲いいですね。また『アル殿下鐘鳴らした事ないんですかぁ~プークスクス』とか言われたんですか」
「言われてない!」
近いことは言われたアルンディラーノだが、女の子に馬鹿にされたことをクリスに知られたくないアルンディラーノは強く反発した。そんなアルンディラーノをみてクリスはハハハと乾いた笑いを漏らした。
「そうですねぇ。問題は王宮前庭のパーティからアル殿下が居なくなったら大騒ぎになってしまう事ですよねぇ」
「昔ほどべったりと後ろにひっつかれることは無くなったが、つねに誰かの視線を感じるからな。監視の目を躱さないと駄目だろう」
「監視って。殿下見守り隊でしょ、警護してくれてるんだから」
木陰で休憩している二人の視線の先、訓練場では別の組が打ち合いを始めていた。カンカンと乾いた木剣のぶつかる音が響いている。
「あー。じゃあ、アレだ。昔カイン様がやったアレやりましょうか」
「アレってなんだ」
「アレですよ。アル殿下追いかけっこ。アレ面白かったのに一回だけで禁止されちゃったのって、アル殿下が沢山居るって監視が勘違いしちゃったかららしいじゃん。もっかい、勘違いさせちゃいましょうよ」
ね、と首をかしげてニヤリと笑うクリス。その顔をじっと見ていたアルンディラーノは、じわじわと希望が湧いてくるのが表情に表れて晴れやかに笑った。
「休憩終了! 打ち込み再開!」
「はい!」
アルンディラーノとクリスはいたずらっこの顔をして、元気よく返事をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます