秘密兵器その1
エルグランダーク邸には家族でお茶の時間を楽しむティールームがある。
湯を沸かしたり茶菓子の仕上げや温め直しが出来る程度の簡易厨房が併設されているので利用頻度が高く、近しい友人とのお茶会などにも使う事が多い。
ティールームの大きな窓から見える中庭にも東屋があって、外でお茶の時間を楽しむことが出来る様になっている。そのほかにも石畳で整備された一角もあり、テーブルを設置してガーデンパーティが出来るようになっている。
どちらも、ティールーム併設の簡易厨房からお茶と茶菓子を提供可能だ。
他に、ピアノが設置され美術品なども飾られていて芸術鑑賞をしながらお茶を楽しめるサロンや、ソファとテーブルが設置され商談などをしながらお茶を嗜む応接室など、屋敷内にはお茶を楽しめる場所が多数ある。
イルヴァレーノは、そのうちの一つである観賞用の温室に居た。
普段はティースタンドやシュガーポットなどが並べられるテーブルの上に、木箱から出されたカインからのお土産の数々が並んでいた。
三つ並べられた内の真ん中の椅子を空けて座ったディアーナとエリゼは、その真ん中の椅子にティーカップを置いてお茶を楽しみつつ、準備を進めていくイルヴァレーノの様子をみていた。
「結構大がかりねぇ。何ができあがるのかしら」
「楽しみですわね、お母様」
椅子の座面をテーブル代わりにしている為、茶菓子無しでお茶だけをたしなんでいる。
二人の一杯目のお茶が終わる頃、イルヴァレーノの準備が終わった。
「カイン様からお預かりしてきたのは、お茶会を楽しくするお菓子です」
どう見ても木製の土台と金属製の機械がくっついたなにがしかの道具にしか見えない物を手で指し示して、イルヴァレーノがそういった。
「どう見ても、お道具ですわね?」
「お菓子には見えないわねぇ」
二人して可愛らしく首をかしげつつ、テーブルの上に並べられた三つの道具を不思議そうに眺めている。
「コンロ用の熱魔石を、ここに入れます」
イルヴァレーノが、道具の一つの蓋を取って赤い魔石を一つ入れて蓋を戻す。
「次に、ここに砂糖を一さじ入れます」
大きなボウルのようなたらいの様な金属部分の底に砂糖をいれて、イルヴァレーノは脇に付いているハンドルを回し始めた。
くるくるとしばらく回しながら道具の中をのぞき込んでいたイルヴァレーノは、一分ほどで顔を上げるとあいている方の手でサッシャを手招きした。
「この木の棒を、道具の中に入れてフチにそってぐるぐる回してみて」
「この中に、ですか?」
「うん。時間勝負だから早く」
くるくるとハンドルを回しつつ、イルヴァレーノが手渡してくる二十センチほどの長さの竹串のような棒を手に、サッシャが恐る恐る機械の中をのぞき込む。
大きなたらいのようなボウルのような道具の真ん中で、小さな茶こしの様な物がくるくると高速で回転していた。なんとなく、白いもやのような物が浮いている様にも見える。
「なにか、もやのような物がみえるのですけど」
「そう、それを絡め取るように木の棒を回して欲しいんだよ」
イルヴァレーノの声に、サッシャは恐る恐る木の棒を道具の中に入れると、たらいの内側をぐるぅりと大きく動かした。すると、木の棒の先に白いもやのような物が絡まっていく。
その形が見えるようになってくると、サッシャはだんだん面白くなってきて棒の先の白いふわふわが綺麗な形になるように工夫して回しはじめた。
「うん。それで完成だ。サッシャ、それを奥様とお嬢様に差し上げて」
「完成? これが?」
完成といわれて、サッシャはたらいの中から棒を取りだした。その棒の先には、ふわふわでもこもこの白い物がくっついていた。
「なにそれ!? 雲みたい!」
「それが、お菓子なの?」
見学席から立ち上がる勢いで、ディアーナが身を乗り出してお菓子をガン見している。
カインが考案した茶会用の目玉となる茶菓子第一弾。それは、綿菓子機だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます