人は推しについて語るとき饒舌になる

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カインはおだてに弱かった。


転生してから十三年間、ディアーナの期待に応えるために、ディアーナに『お兄様すごい!』って思われるために努力してきた。

十三年ちょっとの人生の、半分の長さを一緒に過ごしてきたイルヴァレーノから「ディアーナの為ならできるだろ?」と言われれば、その期待に応えないわけには行かなかった。


「やってやろうじゃんか。あおったからにはイルヴァレーノにも手伝ってもらうからな」

「もちろん」


しょんぼりと丸めていた背中を伸ばし、キリッとした顔で向き合ってくるカインに対してイルヴァレーノも力強く頷いた。


「僕はディアーナのお兄様だからね! 遠く離れていたってフォローしてみせるさ!」

立ち直ったカインは気合いを入れて宣言すると、グッと拳を握りしめた。

「その調子です!」

「微力ながら私もお手伝いいたしますよ」


そんなカインに向かって、カディナとダレンがパチパチと拍手をしながら声援を送る。

ふんすと鼻息を荒くしたカインは、そのままストンと肘をテーブルの上に落として組んだ手の上に顎を乗せた。


「それでは諸君、第三百五十八回ディアーナを窮地から救う為の作戦会議を始めよう」


適当な回数の適当な会議名を宣言する、いつものカインが戻ってきた。イルヴァレーノは小さく笑って椅子に座り直した。




まずは、ディアーナ主催のお茶会にカイン嫌いの三令嬢が参加してくれないという問題について話し合った。


「ディアーナとティモシー嬢が仲直りをするにしても、ディアーナが取り巻きを使っていじめたという誤解を解くにしても、会ってもらえなければ話が始まらない」

「あまり親しくない令嬢をお茶会に誘う方法を考えなければいけないわけですね」


カインもイルヴァレーノもお茶会に誘われて参加するという経験はほとんど無いし、ましてやお茶会を主催したことなど無い。

カディナもコーディリアのお茶会に付き添い侍女として参加したことはあっても、辺境領地のお友達同士のお気楽お茶会ばかりだったので参考にならない。コーディリア主催のお茶会についても、アルディやメイド長などの指示に従って準備に奔走するばかりで自分で仕切った事はないという事だった。

この屋敷の前の持ち主である貴族家の執事をしていたダレンにしても、


「子息ばかり三人のご家族で令嬢もおりませんでしたし、奥様は領地の運営を仕切っておられたので王都でのお茶会などには誘われて行くばかりで主催はしたことがありませんでした」


ということで、好まれるお茶会という物はよくわからないようだった。もちろん、執事見習いの時に茶会の準備や開催中の取り仕切りについては学んでいるので、いざ開催すれば仕切ることは可能だと補足していた。

令嬢同士のお茶会事情については、カインと使用人三人で話し合っても埒があかないということで、翌日学校でカインがコーディリアに助けを求めた。

コーディリアは、


「私も、子爵令嬢っていっても田舎育ちだし。領地ではお茶会といったら近所のお友達とか農家のおばちゃんとか代官男爵の夫人とかとお茶飲んだぐらいだし。『暇なら来てね』って直接声かけあっていたから参考にならないと思うわよ。ちゃんとした貴族家では招待状を出してお返事もらってってするんでしょう? シルリィレーア様やユールフィリス様にお伺いした方が良いと思うわよ」


と困った様な顔をした。

辺境領地であるネルグランディのお茶会事情が思ったよりも牧歌的だったことに心配を感じつつ、カインはシルリィレーアとユールフィリスをエルグランダーク邸に招いて相談に乗ってもらうことにした。




さっそく次の休息日、エルグランダーク邸へと遊びに来てくれたシルリィレーア達にカインが相談したところ、シルリィレーアはうーんと小さくつぶやきながら少し悩んだ。


「苦手な方が主催されるお茶会に、どのような状況なら参加するか。という視点で考えてみてはいかがでしょうか」

「なるほど、呼ばれる側の立場に立ってみると言うことですね」


薫陶を得た、という顔でうなずいたカインではあるがその考え方についてはすでに思いついていた。ただ、ちゃんとしたお茶会に招待されたことのある人間が誰も居なかった為に『どんなお茶会なら行きたいか』という事がまったくわからなかったのだ。


「シルリィレーア様、ユールフィリス様は苦手な方からのご招待であっても行きたい! と思うお茶会ってどんな感じでしょうか?」


コーディリアが身を乗り出して質問する。

後学のために、高位貴族のお茶会事情を聞いておきたいコーディリアも作戦会議に参加中だ。


「その苦手な方以上に、お会いしたい方が参加している時。かしら」


なるほど、とカインが激しくうなずく。


前世で、親しくも無い本社の重役の案内役を上司に任命され行きたくないなぁと思っていた時に、その重役が支社に来るのがCM起用予定の俳優を案内する為だと知って俄然やる気が出てきた時の事が頭をよぎった。

その俳優が前世でやりこんでいたゲーム主人公のフェイスモデルでモーションキャプチャーも担当していた俳優だったので、当日は浮かれまくって噛みまくった事も思い出して顔が熱くなる。


「カイン様? お顔が赤いようですけれど大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です。苦手な方以上にお会いしたい方、というとゲストを呼ぶという事でしょうか」


ユールフィリスに心配そうに顔をのぞき込まれたが、前世の失敗を思い出しての赤面なので何でも無いと言いながら手で顔を扇いでごまかすように質問を返した。


「そうですわね。例えば、あまり親しくない家門の奥様からお誘いいただいた時でも、シルリィレーア様が参加されるようでしたら私も参加いたしますわね」


ユールフィリスがにこりと笑う。

仲の良い友人が参加するなら主催者や他の参加者に苦手な人が居ても大丈夫、ということだろう。カインもその気持ちはよくわかる。


「まぁ、ユールフィリスったら。私は、そうですわね」


ユールフィリスの言葉に淡く頬を染めつつ、シルリィレーアも自分の場合を想像して小さく首をかしげた。


「キンゲィル様のピアノリサイタルを兼ねたお茶会でしたら、どの家からのお誘いでもお伺いしてしまうかもしれませんわね」


そう言うシルリィレーアは両手で頬を挟んですこし恥ずかしそうにうつむいた。しかし、顔はすこしにやけて嬉しそうである。


「キンゲィル様?」

「最近頭角を現してきた若き天才ピアニストですわ。複数の貴族夫人がパトロンについていて、ピアノ演奏を聴いた後にキンゲィル様を囲ってお話を伺うことができるお茶会がたまに開催されるのですわ」

「ゆったりと優しい春の午後のような音楽から、激しくたたきつけるように弾く情熱的な曲まで演奏される方で古典の名曲からキンゲィル様オリジナルの新曲まで色々とレパートリーも広いんですの。普段はアトリエにお籠もりになって練習なさっていてめったに曲を聴くことは出来なくって、パトロンとして支えている方のみが完成間近の新曲試奏を聞くことが出来るのですって。そしてようやく曲が完成するとお披露目のためにパトロンの方々が演奏会を兼ねたお茶会を開いてくださるんですけど、ご招待いただける競争率がとても高いんですわ。ご招待いただけても、お席の関係で一家からお一人とか言われてしまうとまずお母様が行ってしまいますし、お母様が日程的に都合が付かなかったとしても、お兄様もお義姉さまもキンゲィル様のファンな物ですからなかなか私に順番が回ってきませんのよ。ですから、お母様やお兄様が出席しにくい派閥違いのパトロンのご婦人からのご招待などの時にようやく私が」


キンゲィルって誰? という顔でカインが聞いた事により、ユールフィリスの簡潔な回答のあとにシルリィレーアから怒濤の解説が入った。未だに何事か説明をしているが、カインは視線をシルリィレーアからユールフィリスに移した。


「シルリィレーア様は、キンゲィル様のファンなんです」

「そうみたいだね」


微笑ましい友人を見るような慈愛に満ちた笑顔のユールフィリスの言葉に、カインは苦笑しながらうなずくしか無かった。

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明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします。

活動報告へのコメントありがとうございます! 参考にさせてもらって、今お話練り練りしています!

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