花祭り(二年目)その2
―――――――――――――――
花祭り期間中、カインが給仕のアルバイトをしているミティキュリアン邸の解放庭園には様々な人がやってきた。中日にはジュリアンがやってきて、庭にいる庶民たちに穏やかに手を振って見せた。ユールフィリスは自分の家の庭園開放そっちのけで一日おきにやってきていた。
「お兄様が仕切っているから私がいなくても大丈夫ですのよ」
と笑っていたのだが、いつも昼過ぎに侍女がやってきて引きずられて帰って行っていた。いなくても大丈夫じゃないんじゃん、とカインとシルリィレーアで苦笑いをして見送った。
客として子どもたちに交じって居座り続けていたイルヴァレーノは、時々ふらりとテーブルの間を歩いて回り、銀食器などをこっそりとポケットに入れている人から取り返してテーブルに戻すという作業をこなしていた。
コーディリアは学校で出来た友人たちと一緒に遊びに来たが、その中にディンディラナの二人の弟も混じっていた。何くれとコーディリアの世話を焼いて気を引こうとしている二人だったが、コーディリアは冷めた目で軽くあしらっているし、周りを女子友だちが囲ってガードしていた。
しつこいようにも見えたが、弟たちの行動は貴族令息の礼儀正しさの範囲内であったのでカインは微笑ましく見守るにとどめていた。
イルヴァレーノが居座っているので、カインは休憩時間を子どもピクニック区画で過ごしていたのだが、髪をいじりたいという女の子たちに好きにさせていたら日を追う毎に奇抜な髪型になっていってしまい、日々寝る前のお手入れ時にイルヴァレーノがブチブチと不満を漏らしていた。
そんな感じで過ぎていった花祭りの、六日目。貴族の庭園開放最終日にジャンルーカがやってきた。
「ちょっと、カインに相談事があってきたんだけど。なんだか凄い豪華な髪型になっているね」
いつも通りに休憩時間を子どもたちと一緒に過ごしていたカインの髪型は、耳の上ぐらいから無数の細い三つ編みになっていて、その三つ編み同士を蝶の形にしてリボンで結んでいたり輪っかにして鎖のように互い違いに絡ませたりされていた。
「似合いますか? 彼女たちの渾身の作品ですよ」
「・・・・・・。に、似合っていると思うよ」
困ったような顔で笑いつつも、小さな女の子たちに向かってジャンルーカがそういえば、女の子たちはきゃあきゃあと喜んだあと、恥ずかしくなったのかそそくさと薔薇の垣根の後ろへと行ってしまった。
「それで、相談事とはなんでしょう? 場所を変えた方が良い話ですか?」
カインが腰を浮かせながらそういえば、ジャンルーカは手でそれを制した。
「ここで良いよ」
ジャンルーカはそう言ってカインの隣へと腰を下ろした。イルヴァレーノがさりげなく子どもたちをつれてシートの反対側へと連れて行ってみんなでできる手遊びを始めると、カインとジャンルーカの周りには誰もいなくなった。会場の賑わいが子どもたちのピクニックコーナーまで届いており、そのざわめきに紛れて二人の会話は周りの人には聞こえない。
「前にカインは、有力な人材を兄上が直接手に入れるのでは無く、僕が手に入れた上で兄上を支えるのでも大丈夫なのだって教えてくれたよね」
カインの髪を編みながら、女の子たちが食べていた薔薇ジャムのビスケットがその場に残されていた。ジャンルーカはカインに声をかけつつ、ビスケットを一つつまんで口に放り込んだ。
「酸っぱ」
顔を思い切りしかめたジャンルーカの様子にカインは笑いそうになるのをこらえながら、小さく振り向いて片手をあげた。子どもたちと遊んでいたイルヴァレーノがそばにいた子の頭をひとなでして立ち上がると、飲み物を運んでいる給仕のところへと向かっていった。
「確かに、言いましたね。一人で全てを仕切ることは出来ないのだから、役割分担ができる優秀な人がそばにいる方が良いって話でしたよね」
「うん」
何でもかんでも兄であるジュリアンに譲ろうとするジャンルーカに、カインは騎士団の指揮系統を例に挙げて説明したことがあった。
ジャンルーカはジャンルーカで独自に人脈をもち、それらを兄のために有効活用する方がジュリアンの手間が省けるのだから、優秀な人材を譲るのでは無く自分の人脈として活用する方が良い、という説明をした。
ただ、カインとしてはジャンルーカが友人になりたいと思った人と自由に友人になれば良いという思いがあるだけだ。ジュリアンに譲らなくて良い理由をこじつけて説明しただけなのだが。
戻ってきたイルヴァレーノがジャンルーカとカインに果実水の入ったコップを手渡した。
「ありがとう、イルヴァレーノ。……それで、ジャンルーカ様。どなたか有力な人材でも見つけられたのですか?」
イルヴァレーノに礼を言いつつ、ジャンルーカに話の続きを促した。ジャンルーカはイルヴァレーノから受け取った果実水で口の中の酸っぱい薔薇ジャムを流して人心地つけてから、改めてカインに向き直った。
「有力な人材を兄上が直接手に入れるのではなく、僕が手に入れたうえで兄上を支えるのでも大丈夫なのだったら、シルリィレーア姉さまを僕のお嫁さんにしてもいいよね!?」
一般に開放されているミティキュリアン邸の庭園、ジャンルーカと一緒にやってきていたジュリアンと談笑しているシルリィレーアの方をうっとりと見つめながら爆弾発言をこぼしたジャンルーカと、その発言に思わずカインが果実水入りのカップを取り落とし、イルヴァレーノが地面と落下の直前でカップをキャッチしていた。
―――――――――――――――
ちょっと繁忙期だったり体調不良だったり、お待たせしました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます