花祭り(二年目)
おまたせー
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今年も、花祭りの季節がやってきた。
花祭り休暇は二週間あるので、カインは飛竜を使ってリムートブレイクに帰ろうとしたのだが、ディアーナから「帰ってきちゃダメ!」という手紙が届いたので今年もミティキュリアン公爵邸で給仕のアルバイトをすることになっている。
手紙を読んだ直後は三日寝込んで、イルヴァレーノからパンを無理矢理口に突っ込まれていた。
「そういえば、ウチは庭園開放しなくていいのかな?」
昨年とは違い、今年はエルグランダーク家も王都サディスに家がある。しかも、隣国とはいえエルグランダークは公爵家なのだ。庭園開放の条件に照らし合わせれば対象となるはずでは? とカインは心配していたのだが、ダレンによれば主人不在の家はやる必要が無いだろうとの事だった。
種まきや一部畜産の種付け等で王都から領地へと移動する貴族がいる事に対して、王都に残った貴族に散財させてバランスを取るのが目的の一つなので、隣国の貴族であり、主人である公爵本人や公爵夫人が自国に戻っていて不在であるのならば、領地に戻っている貴族家と同じと考えて良いだろうという判断だった。
また、貴族に対する王都民の心証を良くするという側面もあるのだが、それについても隣国の貴族がこちらの王都民と親密になりすぎてもあまり良くないのでは無いか、という心配もしていた。
どちらにしろ、エルグランダーク家サディス邸に今いるエルグランダークはカインとコーディリアだけで、どちらも学生の身分である。王都民への軽食の振る舞いや挨拶に来る貴族への対応などをするには若すぎる。何かあったときの責任を取る立場の者がいないためにやらない方が良いだろうというダレンの意見にカインも賛成だった。
そういうわけで、カインは今年も給仕バイトに精をだすことにしたのだ。
「コーディリアはどうするの? ネルグランディ城までなら馬車で三日だし、帰省しても結構ゆっくりできるんじゃないか」
「来たばかりだもの、まだ帰らないわよ。カインと違って私は兄さんと会えないからってじんましん出たりしないから」
「僕だってディアーナに会えないからってじんましんは出ないよ」
「出るのは涙ですよね」
「ぷっ・・・・・・」
花祭り休暇前最後の授業を終え、エルグランダーク邸へと帰ってきていたカインとコーディリアは、夕飯前の一休みとして、ティールームでお茶を飲んでいた。
明日からの花祭りをどう過ごすかを話しているが、コーディリアは帰省もしないという。では、給仕のアルバイトを一緒にやるかとカインは誘ってみたが、それについては断られた。
「クラスの友達が、一緒に花祭りを見に行こうって誘ってくれたの」
「友人ができたんだね、良かった」
「・・・・・・あの二人も一緒なんだけどね」
コーディリアは、相変わらずディンディラナの弟二人から声を掛けられているらしいのだが、カインに助けを求めた頃にくらべれば大分おとなしくなってはいるらしい。兄であるディンディラナから叱られた上に、コーディリア以外のクラスの女の子たちからもけん制されているらしく、今ではちょっとなれなれしい男友達程度に落ち着いているらしい。
「イルヴァレーノとカディナはどうするの?」
カインは振り向いて、壁際に控えている使用人コンビを見た。コーディリアは学校の友人と出かけるのに乳兄弟であり侍女であるカディナは連れて行かない予定だ。友人たちも連れて行かないのであれば、自分も連れて行くわけには行かないと申し訳なさそうな顔をしていた。イルヴァレーノも、最初はカインと一緒にミティキュリアン家の給仕をすると申し出たのだが、シルリィレーアの直接の友人でもない子どもを給仕として使うわけには行かないと断られてしまった。
「平民の客として、ミティキュリアン邸にお伺いしてカイン様のおそばにいようと思います」
イルヴァレーノはしれっとカインのそばにいると宣言した。
「ミティキュリアン邸の振る舞い食はおいしいからね。小さい子も沢山あつまる庭だからお菓子も沢山あるから楽しむと良いよ」
イルヴァレーノの言葉に、カインはそう言って頷いた。
「私は、侍女仲間と一緒に出かける予定です。こちらに来てからあまり外に出ていないので、街の案内や買い物先などの説明などをこの機にしていただく予定です」
エリゼがリムートブレイクから連れてきてそのままこの邸に残っている使用人も何人かいるので、まだ若干言葉に不安のあるカディナも彼女らと一緒であれば気安いのだろう。寮住まいのコーディリアと離ればなれになっているが、カディナなりになじんできているようだ。
「街中でナンパされてもついて行っちゃダメよ。カディナは可愛いんだから」
「コーディリア様こそ、知らない人について行ってはいけませんよ。露店が多く出るそうですが、食べ過ぎも注意してくださいね。お肉ばかり食べてもいけませんからね」
それぞれの花祭りの過ごし方を確認して、お茶の時間は終わりになった。
花祭りも五日目ぐらいになると、給仕アルバイトをしている者同士で仲も良くなってくる。貴族の庭園開放を巡る庶民たちもお気に入りの庭というものが出来てきはじめるのか、何度も来るので顔なじみになってくる庶民も増えてくる。
シルリィレーアの実家であるミティキュリアン邸の庭にも、五日目にして主となっている客がいる。
赤い髪に赤い瞳、無口ではあるが同じく客としてきている子どもたちの面倒を何かと見ている少年。イルヴァレーノである。
「イル兄ちゃん、ベリージャムの載ってるビスケットはぁ?」
「ビスケットは同じオーブンで三種類を順番に焼いていて、ついさっき薔薇ジャムのビスケットが出てきたばかりだから後三十分は出てこないよ」
「えーっ」
去年のカインの対応が好評だったのか、ミティキュリアン邸の庭には、メイン広場からすこし外れた場所にラグが敷いてある。そこは椅子では無くラグに直接座ってお菓子を食べている子どもたちが集まっていた。
イルヴァレーノはそのラグの隅っこにちょこんと座っているだけなのだが、何かと子どもたちに話しかけられては端的に答えたり、暴れたりはしゃぎ過ぎそうになるのをそれとなく気をそらしておとなしく遊ばせたりしていた。
それが、初日から五日目である今日まで毎日である。
「いや、正直助かるんだけどね? イルヴァレーノも遊びに行ってきていいんだぞ」
カインがビスケットの載った皿を片手に、子どもたちのいるピクニック区画にやってきた。
「あ! ベリージャムのビスケットだ!」
「あちこちのテーブルで半端に余っていたの集めてきたぞ。次の分が焼けるまでみんなで分けて食べるように!」
「やったぁ!」
ベリージャムビスケットを楽しみにしていた子どもに皿を渡すと、カインはサロンエプロンを外してイルヴァレーノの隣に腰を下ろした。
「僕はここに遊びに来てるんですよ」
「ちゃんと楽しんでる?」
「人混みをするするよけて歩くカイン様をみて楽しんでます」
真顔でそんなことを返すイルヴァレーノに肩をすくめたカインは
「そうかい」
と答えると薔薇ジャムのビスケットを口に放り込んだ。
「酸っぱ」
薔薇ジャムは、色をきれいに出すために柑橘フルーツの果汁がふんだんに入っているから酸っぱいのだ。
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