寒がりなカイン

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カインとジュリアン、アルゥアラットは教室の一番後ろの席に移された。

ストーブは教室の前側に設置されている。


王子の矜持として再チャレンジしたいジュリアンだが、やけどをさせるわけにはいかないからとやはりストーブに近づくことが禁止されていた。

冬生まれのくせに寒がりなところのあるカインは、ストーブが暖まるのを待つ間も寒いので「私に火をつけさせて欲しい」と級友に頼んで見るも「薪がもったいない」とやはりストーブに近づくことを禁止されていた。

アルゥアラットは、隙あらばイモをストーブに入れようとするので二人以上に危険視されており、ストーブの方を向くことさえ禁止されていた。


「うう。後ろの席寒い」

「リムートブレイクの王都とこちらでは、さほど気候も変わらぬだろうに。国にいたときは一体どうやって乗り越えておったのだ」


カインは椅子の上で三角座りをし、膝を抱え込むようにして体温が逃げないように丸くなっていた。とても高位貴族の御曹子には見えない姿である。

そんなカインをみて、ジュリアンはあきれたような顔で言葉をかけつつ自分の首に巻いていたショールをカインの肩にかけてやっていた。


「リムートブレイクの邸は、邸内の至る所に暖房用の魔法道具が置かれていて、部屋も廊下も暖かかったんですよ。さすがに誰もいない部屋には置いてませんでしたが、私の行動を先回りして邸のみんなが部屋や廊下を暖めてくれていたんです。冬に寒いと思うのは外に出るときぐらいでしたし、外に出るときはこれでもかって厚着してましたから」

「王子である私よりも、甘やかされておらぬか?」

「ご冗談を。国の王たる方々のお住まいと我が家では広さが全然違いますから」

「俺の家だって侯爵家的には平均的な家だと思うけど、全部の部屋にストーブとか無いよ。さすが筆頭公爵家は違う」


カインは会釈でジュリアンに礼をしつつ、かけてもらったショールを体の前でぎゅっと握って隙間を閉じるようにしている。


「まぁ、二時間目ぐらいにはストーブの熱が広がって教室全体が暖かくなるであろうよ」

「一時間目が長すぎる」

「カイン様はどうせ予習しっかりしてるんだし、いっそ一時間目は寝ていたら」

「寝たら死ぬぞ!」

「雪山かよ!」


カインとジュリアンとアルゥアラットは、一番後ろの席にされたのを良いことに小声でこそこそと雑談を交わしていた。

今日の一時間目はサイリユウム王国史。飛び級を狙っているカインはすでに自習で頭に入っている内容である。それでも、歴史の先生が時々雑談的に語る歴史よもやま話が面白いので真面目に授業を受けているのだが、今日は寒すぎてちっとも集中できないでいた。


「そういえば、王宮前の広場に設定されている桟敷席。あれは片付けないのですか?」

「うん?」


黙って丸まってガタガタ震えているよりは、雑談をしていた方が心持ち寒さが和らぐような気がしているカイン。隣に座っているジュリアンに気になっていた事を聞いてみた。


カインは、建国祭が行われていた一週間のあいだはエルグランダーク公爵サディス邸で過ごしていた。

そして、建国祭が終わって学校が再開した昨日、早速外泊届を出して却下されていた。そのため、放課後すぐに家に行き、門限ギリギリに寮に帰って来ている。今日もそうする予定である。


その、王都内にあるエルグランダーク邸へいくのに王宮前広場を通るのだが、桟敷席が解体される気配がなかったのだ。


「ああ。まもなく年の瀬であろう? どうせ神渡りで使うのでな、そのままにしてあるのだ。年が明けてから解体される事になっておる」

「神渡りで桟敷席が必要なんですか?」


カインの知っているリムートブレイクの神渡りは、家中と街中に煌々と明かりを付け、夜通しごちそうを食べて賑やかに過ごすという行事だ。王宮前広場に設置された鐘を、順番に並んで鳴らして神様を迎えるという一応の神事的なイベントもあるにはあるが、それも周りから皆で見守るような物でもない。

広場をぐるりと囲むように作られている桟敷席で、何をするのだろうとカインは首をかしげた。


「必要だろう。神官が神渡りの神事を行うところを見守らねばならぬではないか。神がお帰りになり、そして新たな神がやってくるのをこの目で見るためには段差のついた閲覧席がないと困るではないか」

「え?」

「え?」


ジュリアンの言葉から、どうにも『神渡り』という言葉が同じであっても、それが意味する行事の内容が大分違うようだ。

大きな川を一本挟んだだけの隣同士の国だというのに、やはり文化の違いという物はあるのだなぁと、カインは感心していた。


「私の国、リムートブレイクの神渡りとは大分違うようですね」

「ほう? 面白そうだな。昼食時にでも、リムートブレイクの神渡りについて聞かせてくれぬか」

「良いですよ。別に今でも良いですけど」


カインは、今の授業が自習ですでに習っている内容であることと、寒すぎてやる気が出ない事からすっかり無駄話に夢中になってしまっていた。


「いいえ、昼食時でお願いしますね」


カインの今でも良いよという発言に、返事をしたのはジュリアンではなく教師だった。

椅子の上で丸まっていたカインはゆっくりと振り返ると、へにょんと困った顔をして小さく顎を引くように頭を下げた。


「ごめんなさい」

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昨日、7月10日で作家デビュー1周年でした。

ここまで読んでくださり、書籍版も応援してくださった皆さんのおかげです。

どうもありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。


あと、異世界恋愛で一本新作書いたので、良かったらそちらもよろしくお願いします。


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