冬が始まるよ

騎士行列で始まった建国祭は、活躍した騎士に褒賞を与える授与式や、各騎士団同士による公開模擬戦などが王国主体で開催され、大いに盛り上がった。

各貴族家では、舞踏会や晩餐会が毎夜開かれ、各家の紋章のついた馬車が大通りを行き交い、貴族の家の前を通るたびに賑やかなダンス曲が漏れ聞こえてきていた。

建国祭のために各領地から王都へ来ている貴族たちが多いので、ここぞとばかりに情報交換、人脈作り、結婚相手探しなど目的はそれぞれだが社交が盛んに行われるのだ。

隣国の筆頭公爵夫人として、エリゼもあちらこちらの貴族家へと招待されて忙しそうにしていた。


庶民の間では、初代国王が建国に至るまでの冒険を題材にした演劇が披露されたり、平民出身の騎士たちが街角で子どもたちに青空剣術学校を開いていたり、ちびっ子騎士行列に参加した子どもたちが騎士ごっこと称してチャンバラで遊んでいたりして、お祭りムードが広がっていた。


カインも、ディアーナやイルヴァレーノと一緒にお祭りムードの街中を散策したり、ジャンルーカの案内で王都の観光地巡りをしたりして休暇を楽しんだ。


一週間にわたる建国祭休暇も終わり、カインが学校へと登校すると教室にはストーブが設置されていた。


「ストーブだ」

「建国祭も終わればすっかり冬だからな。学校が休みのうちに業者が入って設置してくれたのだろう」


それは、鉄でできたしずく型の丸っこい形をしていて、しずくの上部のすぼまったところからそのまま煙突が伸びて外向きの壁へとつながっている。

前面に扉があり、そこから薪を入れるらしい。扉の下には引き出しがついていて、そこを引き出すと灰を捨てられるようになっていた。

ストーブの扉の下あたりに鉄格子のような網のようなものがはってあって、薪は落ちずに灰だけ落ちるようになってるようだった。


「ストーブの上が平らだったら、お湯を沸かしたりできるのに、なぜしずく型なんでしょうか」

「以前は普通に四角いオーブンストーブだったらしいがな、ホットワインが飲みたいといって栓をしたままのワインボトルを湯煎した馬鹿がおったのだ」

「爆発したんですか」

「爆発したのだ」


それ以来、絶対にものが乗せられないようにしずく型のストーブに替えられたのだそうだ。

前世では見たことのない形なので、なんとなくかわいらしいストーブだなと思ったカインである。


「そういえば、ストーブを見るのは初めてな気がします」

「そうか?」


カインはそっとストーブの側面を触る。まだ火が入っていないので、鉄でできたストーブはひんやりと冷たかった。


「家での暖房といえば暖炉でしたし、リムートブレイクでは魔法を使って部屋を暖めることも多かったので。もしかしたら、リムートブレイクでも平民の家にはストーブがあるのかもしれませんけど」

「まぁ、サイリユウムでもいつも使う部屋では暖炉で部屋を暖めるがな。暖炉は煙突を通じて不埒ものが侵入してくる事もある。普段使わない部屋にまでは設置せぬであろう? そんな部屋をたまに使うときにはストーブを持ち込んだ方が良いだろう」

「なるほど?」


確かに、リムートブレイクにあるエルグランダーク邸でも家族それぞれの私室と食堂、父の執務室ぐらいにしか暖炉はなかったような気がする。

暖炉のない部屋では熱を封じ込めた魔石を使ったランタンのような形の道具で部屋を暖めていたので、暖炉の有無については意識したことがなかったので気がつかなかった。

暖炉は壁の中に煙突を通さなければならないので自然と壁が厚くなるし、空洞ができると言うことはもしかしたら建物の強度が下がるといった弊害もあるのかもしれない。

カインは建築関係には疎く、詳しくはわからないが貴族の家のような大きくて部屋数の多い家には暖炉は本来向かないのかもなぁと曖昧な感じでジュリアンの言葉にうなずいておいた。


「たしかに、必要ないときには片付けておけるのは利点かもしれませんね」

「暖炉より、灰の片付けが楽だと城のメイドが言っておった」


カインとジュリアンで冷たいストーブを眺めながら会話していると、やがて他の級友たちもぞろぞろと教室へ集まり始めてきた。


「こんな形のストーブあるんですね」


そう言ったのは、アルゥアラットだった。

カインが珍しいと思ったのは前世の記憶にある薪ストーブのイメージが強いせいかと思っていたのだが、普通にこの世界の人間的にも珍しい形らしいことがわかった。


「みんなの家のストーブはどんな形してるの?」

「普通に四角いやつで、上に鍋とかおけるやつ」

「ウチもー! パンを三十秒ぐらいストーブの上に乗せてから食べるのが美味しいんだよね!」

「僕の家は、居間にはデッカい鍋が二つぐらい乗る奴があるんだけど、各部屋には円筒形の上から薪を入れるヤツがおいてあるよ」


アルゥアラット、ジェラトーニ、ディンディラナの順でそれぞれ返答が返ってきた。

やはり、カインの記憶にある薪ストーブやだるまストーブに近い形の物が一般的らしい。


暖かくもないストーブを囲って立ち話をしているうちに、カランカランと鐘をならしながら教師が教室へと入ってきた。

その後ろには作業着を着た雑務員が薪を持って二人ほどついてきていた。


慌てて自席へと戻ったカインたち。

その日の一時間目の授業はストーブの付け方、消し方についてだった。

冬の間、自分たちでストーブを管理するように、とのことでクラスメイトが順番に薪に火を付けて消してとチャレンジしていった。


ジュリアンは灰受け部分を開けたまま薪入れ口を閉めてしまい、飛び出した灰を被ってしまって寮に一度戻る羽目になった。

カインは魔法を使って薪に火をつけたのだが、火力が強すぎて薪が一瞬で灰になってしまっていた。

順番が最後だったアルゥアラットがストーブ内にイモを仕込んでいたことで、二時間目の授業中に良いにおいが漂って授業どころでなくなってしまい、先生にこっぴどく叱られた。


ジュリアン、カイン、アルゥアラットに、ストーブ接近禁止令が出されたのだった。

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