隣国の第二王子ルート
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ディアーナとジャンルーカの一騎打ちの後、それでは後程、とあいさつをして解散となった。結局エリゼと合流したカインとディアーナは、エルグランダーク家の馬車に同乗して一緒に屋敷へと帰ることになった。
「あの、後ほどというのはどういう事でしょう? 今日はまだなにかあるのですか?」
カインが、不機嫌そうなエリゼに恐る恐ると言った感じで別れの挨拶について問いかけた。
エリゼは、大きくため息をついて背もたれに体を預けると、困ったような顔をしてカインに向き合った。
「お城で舞踏会が開かれます。建国祭の初日という事で開催時間は早めの短めになっているそうよ。急いで支度をしないと、あなた達は入れ替わったまま連れていくことになってしまうわよ」
「それはさすがに遠慮したいのですが!」
「わたくしはそれもこれも遠慮したかったわよ!?」
カインは、ディアーナを騎士行列に参加させることに夢中になっていて、それ以外のイベントごとに無頓着になってしまっていたようだった。
母やディアーナが遊びにきていなければ、気軽な留学生という立場で舞踏会や晩餐会などは回避できていたかもしれないが、隣国の公爵夫人とその令息令嬢で、正式な王妃の賓客という立場になればそうもいっていられないのだろう。
「見た目が悪くなってはいけませんからね、ゲンコツはパーティの後です」
母の怒りに、カインとディアーナはしょんぼりと肩を落として馬車の中で寄り添って小さくなるしかなかった。小さな声で、二人そろって「すみませんでした」とこぼした声を、エリゼは片眉を吊り上げて一蹴したのだった。
その後、邸に戻って大急ぎで着替えを済ませ、王宮の舞踏会へととんぼ返りで戻った。
そもそもが、騎士行列の行進の終わりからそのまま参加できるようにという配慮で開始時間が早まっているらしく、行進時の騎士制服のままの貴族騎士や、観覧席に座っていた時のデイドレスに上着やショールを掛けて華やかにした姿の貴族子女などがホールでダンスを楽しんでいた。
王族へとあいさつを申し上げるタイプの正式な舞踏会ではなく、騎士行列の打ち上げのような意味あいが強いのかなと、カインは感じていた。
本来なら、エリゼも観覧時の姿のままで良いと言われていたし、その場にいた王妃やシルリィレーアからそのまま一緒に行きましょうと誘われたらしいのだが、入れ替わっていたカインとディアーナを着替えさせるために連れ帰らなければならない事に気が付いて追いかけてきたということらしい。
王子たちと一緒という事を聞いて、もし王子たちも共犯であれば入れ替わりを戻すまで計画がちゃんとあるのかもしれないとも思ったらしいのだが、せっかくだから挨拶をしようと思って引き返さずに室内訓練場までやってきたらしかった。
そこで見たのが、一騎打ちなのだから肝も冷えるというものである。
「本当にすみませんでした」
「ディアーナが怪我をしたらどうするつもりだったの? 今度はジャンルーカ殿下を燃やすのですか?」
「……あれはもう、忘れてください。お母様」
「剣の練習、やめてなかったのね。あの後パレパントルも何も言わないから、すっかりおとなしくなったのだと思っていたわ」
「パレパントルの目を盗むのはだいぶ苦労しました」
「……反省していないのね?」
「してます! してます! 護身術の範囲ですから! 最近は、貴族女性の間でも護身術が流行っているとサッシャも言っていましたよ!」
「アレは、手首を上手にひねる方法や、非力な女性でも致命傷を与えられる場所を教わると言ったものです。剣を振り回すのは護身術とは言いません」
「あ、お母様。ジュリアン様がこちらに向かってきましたよ! おーい! ジュリアンさまー」
舞踏会の会場で、母の説教が続きそうだったところにジュリアンの姿が見えた。カインはこれ幸いとばかりに手を振って、ジュリアンに自分の存在を知らせた。あまり行儀のよい行為ではないが、打ち上げパーティだしまだ学生だしで良い事にした。自分の中で。
「やあ、今度こそカインだな。今日は大義であったぞ。エルグランダーク公爵夫人。先ほどは失礼いたしました。我が国の建国祭はいかがでしたでしょうか」
「立派な騎士たちが堂々と行進する様は、とても美しくそして頼もしいと思いましたわ。領騎士団や王都警備騎士団には女性もいらっしゃって、驚きましたわ」
「我が国は騎士が興した国と言われておりますからね。強き体と強き意志があれば男女関係なく騎士として迎える事になっております」
さすがのエリゼも、他国の王子を無視して説教を続けるようなことはしなかった。ディアーナとジャンルーカの一騎討ちを蒸し返すようなこともせず、和やかに当たり障りのない会話をして親交を深めていた。
やがて、奥の扉から国王陛下と王妃殿下が入場してきた。今日の主役は騎士たちなので、仰々しい入場宣言はせず、近くにいる者たちに気軽に声をかけてねぎらっていた。
「カイン。わたくしは国王陛下と王妃殿下にご挨拶をしてきます。ジュリアン王子殿下、カインをよろしくお願いいたします」
「ええ、父と母もエルグランダーク公爵夫人とのご挨拶を楽しみにしておりました。是非おねがいいたします」
母エリゼは、すっとカインのそばを離れると上品に歩いて国王陛下の元へと歩いていく。後から侍女が一人静かについて行っているのが見えた。
カインと一緒にエリゼからお小言をもらってしゅんと小さくなっていたディアーナが、その後ろ姿を見て元気を取り戻したようにニカっと笑ってジュリアンに挨拶をした。
「先ほどぶりですわね、ジュリアン王子殿下。改めまして、ご協力ありがとうございました。行進、とっても楽しかったですわ」
「ああ、私も並んで一緒に行進できてとても楽しかった。良ければ来年も参加してくれればうれしいが、どうかな」
「ふふふっ。考えておきますわ」
ジュリアンはいたずらが成功したような無邪気な顔で笑いながらディアーナにウィンクをして見せた。実際のところ、来年ではもうカインとディアーナが入れ替わるのは難しいだろう。カインも成長期なのでこれからどんどん背が伸びる予定である。少なくとも、ゲーム開始時点の十五歳の段階で百七十後半ぐらいの身長があるというのがド魔学の公式設定なのだ。ディアーナ自身も成長するのだとしても、身長差はどんどん開いていくだろう。どんなに高性能な厚底ブーツを手に入れた所で、身長をごまかすにも限度がある。それに、声変りをすればおしゃべりをごまかすこともできなくなるし、そもそもの骨格が男女ではちがうのだから。
もう、できないだろうことが分かったうえで、ディアーナはあえて否定せずに考えておきますという返答をしたのだった。
しかし、ジュリアンには別の考えがあったようだ。
「次の建国祭までは、丸一年も期限があるからな。シグニィシス様を引っ張り出し、第一側妃をごまかすか納得させるかしてフィールリドルとファルーティアを引っ張り出せれば、ディアーナ嬢がディアーナ嬢として参加できる可能性もできるであろう?」
「ジュリアン様?」
カインも、ジュリアンの言葉はいつもの調子が良いだけの軽口だと思って流そうとしていた。しかし、なにやらジュリアンには考えがあるように聞こえる。
「今回がダメなら、時間をかけて次回の為に準備すればよい。そう言ったのはカイン、おぬしであろう。できないならば、できる様に工夫する、というのはジャンルーカに言うた言葉だったか?」
確かに、六年後の遷都の責任者に任命されたわりに、何も自分の思う通りに行かないとしょげていたジュリアンに、百年後の遷都の為に今から準備すればいいと助言したのはカインである。その言葉をここで返されるとは思わなかった。驚いて目を丸くするばかりのカインの隣で、ディアーナが期待を込めた目でジュリアンに聞く。
「何か、具体的な方策でもあるのですか?」
しかし、ジュリアンの返答はすげないものだった。
「いや、今のところは何も策はないな」
その言葉に、あからさまにがっかりして肩を落としたディアーナだが、ジュリアンは気にせずカラカラと楽しそうに笑い声をあげた。
「これから、それを成すための作戦を一緒に練っていこうではないか。のう、友達というのは、同時に複数持てるものである。ディアーナ嬢。ジャンルーカと別に、私とも友人にならぬか? 一緒に悪だくみをしようではないか」
「ジュリアン様は、私を倒してからにしてくださいね。いっておきますが、偽カインではなく、私がお相手しますからね」
「いやに、私に厳しいではないか。ジャンルーカと扱いが違い過ぎぬか?」
「ご自分の胸に聞いてください」
「ふふっ。お兄様とジュリアン王子殿下は仲良しですね」
結局、来年の騎士行列にディアーナが参加するための具体策はないが、今後検討するという話をしてジュリアンは去って行った。
その後すぐ、ジャンルーカが小走りで近寄ってきて笑顔で挨拶をしてくれた。
「カイン、ディアーナ嬢。先ほどはありがとうございました。舞踏会はたのしんでますか?」
「ジャンルーカ様こそお疲れさまでした。なかなかお強かったですね」
「ジャンルーカ様は、怒られませんでしたか? 私、お母様にすごく怒られてしまいましたのよ」
「僕の方は、剣術を指南してくれている者に、休暇明けの訓練から倍厳しくしますといわれてしまいました。今からどうなってしまうのか、おっかないですよ」
気兼ねなく、自分の友人としてディアーナと接するジャンルーカは楽しそうだった、兄に譲らず、自分の力で手に入れた、初めての素敵な物。
きっともう、ジャンルーカが『ディアーナをジュリアンの婚約者に』と言い出すことはないだろうと、カインはほっと胸をなでおろしたのだった。
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隣国の第二王子ルート、無事回避(?)
5巻書籍化作業の為、しばらく更新が滞ります。
ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします。
5巻は晩秋に発売予定です。おたのしみに!
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