ぐぅぐぅ寝てる
「ティアニア様とリベルティ嬢の幸せを考える会〜」
「わー! パチパチパチ」
羽ペンをクルクルと手の中でまわしながらキールズが宣言するのを受け、ティルノーアが楽しそうに小さく拍手をした。
今はお昼の授乳と諸々色々を終え、アルディとノールデン男爵夫人が隣室で休んでいるところだ。子どもたちも食堂での昼食を終え、ゆりかごの部屋に移動してきている。
「では、可愛いは正義大作戦の収穫をそれぞれ聞こうか。ディアーナ?」
「はぁい」
羽ペンの羽の方をビシッとディアーナに向けながらキールズが話をふれば、ディアーナがビシッと手を上げて返事をした。
ペンで人を指すなんて本来は行儀が悪いが、とりあえずキールズもディアーナも気にしていない。この場にいる唯一の大人であるティルノーアも気にしないので、誰も注意しない。
「お父様は、リベルティとイル君が一緒の孤児院にいたって知らなかったみたい。すごいびっくりしていたし、『あんにゃろう、見失ってやがったな』って怖い声で言ってたよ」
ディアーナが、眉をよせて両手で自分の目を釣り上げながら父親の声真似をした。がんばって低い声を出したようだったが全然似て無くて可愛すぎるとカインは感動していた。
「ティアニア様には王様と同じ血が流れているのは間違いないって言ってたよ。それと、リベルティの嫁ぎ先はネルグランディ領の隣の隣だって」
「アルガ。ウチの隣の隣に当てはまる領地がどれだけあるか調べてくれ」
「わかった」
ディアーナの言葉を受けて、キールズが乳兄弟で侍従であるアルガに指示を出した。アルガはスッと立ち上がるとすぐに部屋から出ていった。
「お父さんのわからない子は、いじめられやすいんだって。あと、養子だとやっぱりそれを理由にいじめられやすいんだって。だから、最初から本当の子として育てるんだって」
「それを王家がする必要があるのかというのが問題なのだよね、王家の血を引いているのだとしても。……ぼくは、ティアニア可愛いから妹になるのならちゃんと可愛がろうって思うけど」
アルンディラーノはカインの前で甘えたちゃんになったりはするが、きちんと王太子としての教育を受けている。なので王家が、そして自分が特殊な人間であることはきちんと理解しているのだ。
「後はー。お父様はリベルティのお母様に心当たりがあるみたい。はっきり言わなかったけど、ディが聞いたら目が泳いだのよ」
「ティアニア様じゃなくて、リベルティ嬢が陛下の落し胤って可能性がある?」
「リベルティ嬢が僕のお姉さんで、ティアニアは僕の姪になるの?」
アルンディラーノの問には、誰も答えを持っていなかった。
「それとね、リベルティを引き取っていた二番目の貴族は『アルフィス公爵家』で、恋仲の若様がいたお家は『サージェスタ侯爵家』なんだって。お父様が「あのくそやろう」って言ってたよ。アルフィス公爵家って、お兄様とお見合いしてけちょんけちょんにされたヴィディアンちゃんのお家だよね」
「良くお父様からそこまで聞き出したね」
「ディがお父様から聞けたのはこれくらいかなー」
ディアーナの話を紙に書き留めていたキールズが、羽ペンをクルクルと回してピタッと止めるとアルンディラーノに視線を向けた。
「じゃあ、次はアル殿下ですね」
「うん」
アルンディラーノはソファの上で座り直して全体を見渡すと、えへんと一つ咳をして話だした。
「リベルティ嬢を、乳母としてティアニアのそばに置けないかって聞いたら『似すぎているからできない』って言っていたよ。誰に? という質問にははぐらかされてしまったけどね」
「ティアニア様はまだ稚すぎて誰に似てるって言えるほど個性でてないよな。将来美人になるなぁって予感はすごい漂わせてるけど」
「兄さん?」
「お母様は、ティアニアは僕に似てるねって言ったよ」
キールズの話に、アルンディラーノが反応する。そこまで黙って話を聞いていたティルノーアが「はい!」と言って手を上げた。
「リベルティ嬢とティアニア様の幸せを考える会って、なんだろうと思っていたけどそういう事ね〜。ボクからも意見いいかな? いいよね? まず、リベルティ嬢とティアニア様の血筋についてだけどね、間違いなく王家の血を引いてると思うよ。魔力の波長が王家の特徴を強くだしてるんだよね。カイン様とディアーナ様からも感じるけど、まぁ王家色はだいぶ弱いよね」
室内の温度管理と魔力的な方面からのティアニアの体調管理の為に部屋にいたティルノーアが、突然話題に入ってきて子どもたちは目を丸くした。
ティルノーアはその反応にかまわず、楽しそうに話を続けていく。
「公爵家ぐらいの高位貴族になれば、過去にどっかしら、しかも何度も王家の血が入ってきてるだろうしだいたい魔力の波長に王家の特徴はでるもんだ。確認していないけど、カイン様とディアーナ様の従兄弟ならキールズ君とコーディリア嬢にも同じ程度の波長を感じるだろうね、わかんないけど。でも、リベルティ嬢とティアニア様の波長はだいぶ強い。特に、リベルティ嬢は直系に近いね」
ティアニアとリベルティ、結局どちらが王家の血筋なのかで推理合戦をしていたのが馬鹿みたいにあっさりと解決してしまった。
しかも、この話し合いをしている間ティルノーアは隣の部屋で寝ていたり、同じ部屋のソファで昼寝をしていたのだ。ずっと近くにいた。
「魔力の波長とかあり? そんなの聞いたことないですよ先生」
「魔導士団では常識だけどねぇ。魔導士団以外には言っちゃいけない話だから、知らなくてもしかたないかな」
それを、ここで言っていいのか? という顔をする一同にティルノーアは一つウィンクをすると「ないしょにしててね」と言った。
「お母様は、リベルティ嬢とティアニアのことを憎んだり嫌ったりしてる様子はなかったよ。陛下が浮気してできた子ならもうちょっと怒ってもおかしくないかなって」
「じゃあ、ティアニア様のお父様もしくはリベルティ嬢のお父様は陛下じゃない?」
「でも、王家の血が濃いんでしょう?」
「誰の子なのかまでは、魔力ではわからないかなぁ。お父さんとかお母さんの方の魔力も見せてもらえれば『あ、親子だわー』ってのはわかるけどねー」
リベルティも王家に連なるらしい、ということまでは元から予測はしていたことだ。それが確信できたとしても結局「父親はだれ?」に行き当たってしまう。
キールズは羽ペンの先でコリコリとこめかみを掻いてう~んと唸ったが、ここまでの話を書き出した紙をみてもわからないものはわからない。こめかみがインクで黒くなってしまっている。
「とりあえず、アル殿下の話の続きをききましょうか」
キールズは唸るのをやめると、目線をアルンディラーノに移して先を促した。先程から話が行ったり来たりしてしまっている。
「えっとね。リベルティ嬢は誰かに似すぎているから乳母にできないって事と、別の領地にお嫁に出すのはそれが幸せになる手段だからって言ってた。とてもいい人だから心配しなくていいって。なんで、リベルティ嬢にその事を何も言っていないの? って聞いたら色々ありすぎて大変だろうから順番に話していくつもりだったのよって」
会った初日から勢いよく喋り倒していたリベルティを見ているカインとイルヴァレーノは「色々ありすぎて大変だろう」という気遣いが果たして必要だったのか? と疑問に思った。カインがイルヴァレーノの方を見ると、イルヴァレーノもカインを見ていた。
そういえば、今日はここまでリベルティが全然喋っていないと思ってゆりかご近くの揺り椅子を見てみれば、当人はぐぅぐぅと眠っていた。
「自分のことなのに……」
アルンディラーノが呆れたようにつぶやいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます