王太子ルートのネタ元はコレか!
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キールズが人数分のお茶を入れ、カインがボコボコとそのカップに氷を落として冷茶にする。
各人の侍従が城全体が多忙で借り出されて居ないため、子爵家嫡男と公爵家嫡男の手ずから入れられたそのお茶は、溶けた氷で薄くなるからという気の使い方はできていない為に味も色も薄ーいものだった。
「このあと昼食が用意されると思いますから、お菓子はなしです」
「……はい」
「……はい」
カインの言葉に、ディアーナとアルンディラーノが若干不服そうな顔をして返事をするが「素直で偉いね」とカインはニコリと笑って二人の頭を順番になでた。
「アルンディラーノ王太子殿下。この度の訪領は王妃殿下の……その、ご懐妊による療養とうかがっているのですが、その。えーと」
その場の最年長であるキールズが口火を切った。実は皆が疑問に思っていたことである
赤ちゃんはどこだ?
「うん。どこまで話して良いのか……。滞在先として選ばれた城の子息令嬢であるし言っても良いのか……」
キールズの質問を受けて、腕組みをして首をかしげるアルンディラーノはチラリとカインの顔をうかがった。カインは視線を投げられている事に気づき、アルンディラーノの顔を見ると同じ方向に首をかしげてみた。
「昨日のうちに、雇って日の浅い者や実家が領外の者は夏季休暇として一時退城させております。キールズとコーディリアはもちろん、今城に居る者たちは信頼して頂いて良いですよ」
「そう? カインがそういうなら」
かしげた首を戻し、コクンと小さく頷いたアルンディラーノは改めてキールズに顔を向けた。
「一月ぐらい前から、おかあ……王妃殿下の棟に出入り出来なくなって、ここに来る寸前に妹だよってティアニアを見せられたのだ。僕だってその子がお母様が産んだ子じゃないってことぐらいわかるし、どうして? って聞いたのだが、どうしてもってしか教えてくれなくてね」
アルンディラーノが真面目な顔をしてキールズに向かってそう話す。ところどころで王族っぽい話し方をしようと努力している痕跡が交じる話し方に、カインが目を細めた。
「王女殿下はティアニア様というのですね」
「うん。ちちう……陛下がおつけになった。王妃殿下がお産みになったことにするために、半年ほど身を隠して、ティアニアの生まれ月を半年ずらすと聞いているんだけど。どういう事?」
アルンディラーノに話を降られて、カインは肩をすくめた。
「アル殿下。女性は赤ちゃんを産む前にお腹が大きくなるのは知ってますか?」
「知ってるよ。王妃殿下と大神殿の慰問に行った時に祈祷に来ていた『もうすぐ産まれます』という女性にお会いしたんだ。僕みたいに賢くなるようにお腹なでてくださいって言うから、撫でさせてもらったら内側から蹴られたんだ!」
「それは、貴重な経験をしましたね。で、赤ちゃんを産む前にはお腹が大きくなります。でも、王妃殿下のお腹は大きくなっていなかった。なので、ティアニア様を今産まれましたと発表すると『王妃様がお産みになられた』のが嘘だとバレてしまいます」
カインの説明に、アルンディラーノが「あ」と声を出して目をみひらいた。
「お腹が大きい時期はこのお城で療養していましたって事にして、本当はお腹が大きくなってないことを隠すんだね? そのためにティアニアは本当は夏生まれなのに冬生まれってことにするんだね」
「え!? それじゃあ、王妃殿下は冬までウチに滞在するってこと?」
カインの説明に、アルンディラーノが正解を見つけた! というように明るく思いついた事を口に出した。それを聞いたコーディリアが思わずと言ったように驚いた声を出した。半年も滞在すると思っていなかったのだ。せいぜいが、避暑としてひと夏過ごすぐらいかと思っていた。
「そういえば、おかあ……王妃殿下の滞在期間はお聞きしていないね。僕は夏の間だけだよ」
コーディリアに向かって、アルンディラーノがニコリと笑いかけながら声をかけた。思わず口から出てしまっただけで、返答をもらうつもりもなかったコーディリアはドキドキしてしまった。
「そ、そうですのね。夏の間、よろしくお願いいたします、アルンディラーノ王太子殿下」
「一月ほども一緒に過ごすのだもの、キールズもコーディリアも僕のことはアルって呼んで」
改めてペコリとアルンディラーノに向かって頭を下げたコーディリアに対して、アルンディラーノは優しく微笑みながら愛称で呼ぶことを許した。
それを受けてキールズも慌ててペコリと頭を下げたのだった。ちょっとほっぺが赤くなっている。
「それで、アル殿下。ティアニア様の本当のお母様はどうなさいました? ティアニア様は?」
「ティアニアは、別の馬車で一緒に来ているはずだよ? ティアニアの本当のお母様……? 一緒にきてるのかな? ティアニアのお世話をしている人は沢山いたからその中にいたのかもしれないけどよくわかんない」
カインの質問に、アルンディラーノがコテンと首をかしげて答える。不思議そうな顔をしてそんな事を言う。カインはその無関心さに頭痛がしてきそうだった。
一緒にこなす公務の数を増やして、報告書型親子コミュニケーションを一部邪魔しても、まだこんなに家族に対する情が薄いのかと、頭を抱えたくなった。
「ティアニアはまだ小さいからって近寄らせてくれないんだ。エルグランダーク領の城について落ち着いたらねって言われてる。会えるの楽しみだなって思ってるよ。……カインみたいなお兄ちゃんになれるかな」
「え。目標がカインなの……ですか、アル殿下」
「それは、辞めたほうが良いと思いますわ。アル殿下」
ほっぺたを赤くして照れたような顔でカインを目標にするといったアルンディラーノに対して、キールズとコーディリアは複雑な顔をした。
そんな兄妹を軽く睨みつけておいて、カインはアルンディラーノに「きっとなれますよ」と優しい顔を向けたのだった。
カインに笑いかけられて、嬉しそうに破顔したアルンディラーノは「そうだ」となにかを思い出したように手を打った。
「そういえば、ティアニアのお母様。その方は、ティアニアが落ち着いた頃によその領に行くと言っていたと思う。……お嫁に行くんだって。カシ? そこにお嫁にいくのはとても名誉なことだとちちう……陛下がおっしゃっていたよ。赤ちゃんできてからお嫁に行くこともあるんだね?」
(そっちだあああああああああああああ!!!!!)
アルンディラーノの言葉に、頭を抱えながらカインは椅子からずり落ちた。
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