本物の王子様(おもってたんとちがう)
読んでくださりありがとうございます!
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挨拶が済んだ後は、まずはお体を休めてくださいということで王妃殿下とアルンディラーノは部屋へと案内されていった。王妃殿下と王太子殿下がそれぞれ用意された部屋へと引き上げれば、一堂も玄関にいる必要はないわけで、子どもたちはカインの部屋へと引っ込んでいった。
エクスマクスは王妃殿下と共にやってきた近衛騎士団と警備に関する打ち合わせ、王妃殿下の侍女達は半分が王妃殿下と一緒に部屋へ行き、半分は執事のパーシャルと今後についての打ち合わせをするべくそれぞれの持ち場へと移動していき、ディスマイヤとアルディは三台目の馬車から降ろされた大きな荷物についてどこかへ行ってしまっていた。
四台目以降の荷物などを積んだ馬車は玄関ではなく裏口の方へと直接つけられたらしく、城の表玄関につけられた馬車は三台だけだった。
「カーイーンー!」
バターンとカインの部屋のドアが勢いよく開き、アルンディラーノが飛び込んできた。ドアを開けた部屋に思ったよりも人数がいて、アルンディラーノは一瞬目を大きくひらいて立ち止まったが、キョロキョロと部屋の中を見渡してカインを見つけると一直線に駆け寄った。
「元気だった? 僕は元気だったよ! でもカインが留学するって留学してから知ってとっても悲しかったし寂しかったから元気じゃなかったんだよ? でも、元気な振りしてちゃんと公務もこなしたし陛下と王妃殿下のお仕事もお手伝いしたんだよ! えらいね? 僕えらいね?」
カインの目の前に立ってその手をギュッとにぎり、ブンブンと振りながら一気にまくし立てていくアルンディラーノ。
「カインはちょっと背が伸びた? 僕も伸びたよ。でも追い越せないね! さすがカインだね! いつでも先を行くカインはやっぱりかっこいいね。僕ね、カインが留学前に始めてた刺繍の図案あるでしょ? あれね、完成したんだよ。持ってきたから後で見せてあげるね。あとね、剣術でね、二段突きができるようになったんだけどね……」
「アル殿下。アールー殿下!」
ニッコニコの顔でカインを下から覗き込みながら一気に喋りまくるアルンディラーノを、カインが名前を呼んで落ち着かせた。
「なぁに? カイン」
「落ち着いてください。つもる話はまた後にしましょう。馬車での長旅にお疲れなのでは?」
「カインの顔をみたら疲れなんて飛んでっちゃったよ」
えへへと嬉しそうに笑うアルンディラーノの頭をカインが優しくなでてやると、待ってましたとばかりに頭を傾けてもっと撫でろの姿勢になる。
カインやディアーナに比べると濃い目の金髪がふわふわしていて、触り心地はとても良い。
カインは苦笑して、ポンポンと軽く叩いてナデナデタイムを終了させた。
「アル殿下。ここには僕とディアーナの他にも人がいます。いつもかぶっていた猫はどこに行ったのですか」
ナデナデタイム終了に物足りなそうな顔をしながら、アルンディラーノは姿勢を戻しながら部屋を見渡した。
今部屋にいるのは、キールズとコーディリア、カインとディアーナだけである。それぞれの侍従と侍女は王妃殿下と王太子殿下歓待の準備に駆り出されていて居ないのだ。
「キールズとコーディリアだったよね? カインとディアーナの身内なのだろう?」
「ええ、従兄弟になります」
「だったら良いよ。……ね、普段の僕がこんなに元気なおちゃめさんな事は内緒にしておいてくれるね?」
アルンディラーノは発言の後半をキールズとコーディリアに向かってウィンクをしながら言った。そんな事を言われて、キールズとコーディリアはポカンとした顔をして返事もできない状態だった。
アルンディラーノは、カインとディアーナが「世を忍ぶ仮の姿」を始めた頃に色々とあり、自分でも猫をかぶるようになっていた。
玄関から城に入り、玄関ホールの大階段前までは子ども同士で歓談しながら歩いたのだが、その時のアルンディラーノは完璧な王子様だったのだ。
キラキラと眩しくて優しい笑顔を顔に浮かべ、常にディアーナとコーディリアを優先した。優しく話しかけ、相槌をうち、優雅に歩いていたのだ。
その姿を見て、コーディリアはポヤーとした。ふわふわで日に透けるとキラキラ光る金色の髪の毛。日に透かした若葉のようなきれいな緑色の瞳。ふんわりと優しく笑う可愛らしく美しい顔。
身分からして、正真正銘の王子様が目の前に現れて、胸はドキドキと弾むし顔が熱くなるのがわかった。ほっぺたが赤くなっていないかすごい気になって、そわそわと自分のほっぺたを指先で触っていたのだ。
それが、部屋へご案内するからと別れてから十分程。「カイン」と叫びながらノックもせずに部屋に飛び込んで来て、一直線にカインに駆け寄る姿はまるで久々に帰ってきた主人に飛びつく犬のようだった。一生懸命に自分の事を話す姿も、玄関で見た優雅な王子様姿とは一致しないほどに幼く見える。
「内緒にしておいてくれるね?」と言いながら自分に向かってウィンクをされた姿は、流石にキュンとくるものがあったが、優しく優雅な王子様っぷりは影も形もなかった。
「理想の王子様なんて、この世にはいないんだ……」
キールズは隣に立ってボソリとつぶやくコーディリアの肩を、優しくなでてやると、
「どうせ身分違いなんだから、惚れなくて済んで良かったと思おうぜ」
と慰めのつもりで声をかけたが、コーディリアからは睨まれてしまった。
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誤字報告いつもありがとうございます。
感想、お返事書けませんが読んでおります。ありがとうございます。
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