戦い終わって日が暮れて
あとがきにお知らせがあります。
区切りの関係でちょっと短めです。
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ガーデンパーティでは、エルグランダーク一家(カイン、ディアーナ、キールズ、コーディリア、おまけでイルヴァレーノ)が楽器を演奏してみせたり、カインが飲み物に随時氷を入れて冷やすのをエンターテイメント的に演出してみたり、貴族的ではない、地元のまつりで踊る平民のダンスを教わってみんなで踊ったりして盛り上がり、日が傾いて来た頃に解散となった。
城の出口の門で領民一人ひとりにお土産のお菓子を手渡しながら、カインとディアーナは「今日はありがとう」「これからもよろしくね」と声をかけて見送った。
帰っていく領民たちも「立派な領主になってください」「公爵様はああおっしゃったけれど、私はカイン様の優しいところは好きです」など、友好的な声をかけて去っていった。
「はぁ〜。なんか、色々いっぱいいっぱいな感じの一日だった」
大きくため息を吐きながらカインがそんな感想を漏らし、首を左右に倒して肩をコキコキと鳴らしている。
背後で城の警備担当の騎士が門を閉め、ガチャンと大きな音がした。
「お父様が来るって知らなかったんだけど、イルヴァレーノ知ってた?」
「いいえ。聞いておりませんでした」
「私も知らなかったよ。サッシャは知っていた?」
「聞き及んでおりませんでした」
兄妹のどちらの従者も聞いていなかったという。
カインは横に並んで歩いていた従兄弟の顔を見上げたが、やはり首を横に振られるだけだった。
「俺とコーディは、アーニーの不審な行動を親に隠していたわけだけど、父上は父上で領内の不穏な動きをきちんと把握していたのかもしれないな」
「お父様は、何かあれば相談のお手紙を伯父様に送っていたそうだから、今回はそれでいらっしゃったのかも知れないわね」
キールズとコーディリアがそう言って自分たち的には納得しているようだった。
確かに、キールズとコーディリア視点からみれば、兄弟同然に育った兄貴分であるアーニーが突然コーディリアに求婚しはじめたってだけの話なのだろう。
どうも、カインがツッコミを入れるまでは貴族と領民の橋渡しのために、とか領地運営をスムーズにする為に、といった結婚したい理由を具体的に言ってはいなかったようでもある。そうであれば、アーニーだけではなく、領民の間に貴族……というか、領主に対する不信感が広がっているなんて事はキールズとコーディリアでは気がつかなかったのは仕方のないことなのかも知れない。
「必要があれば、今晩の夕飯のときにでもお父様から説明があるかも知れない。立食パーティだったし魔法も使ったし疲れたよ。夕飯まで休みたいし早く城に戻ろう、キールズ」
「そうだ、魔法といえば。昨日から聞きたかったんだよカイン。お前、時々無詠唱で魔法使ってるだろ」
肩をぐるぐると回しながら、疲れたと言ったカインにたいして横を歩いていたキールズがぐるんと首をまげてカインの顔を覗き込んだ。
キールズに至近距離から覗き込まれて、カインは思わず一歩引いてしまった。
「無詠唱? してるよ。コツをつかめば結構出来るからキールズにも明日教えるよ」
「無自覚天才様は本当にたちが悪いな。教わって出来るもんでもないだろ」
あっさりと無詠唱で魔法を使っていることを白状するカインに、キールズは鼻の頭にシワをよせて渋い顔をしながらもカインから身を引いた。再び隣をあるき出す。
「カイン、私も無詠唱で魔法使いたい! 私にも教えてよ」
「コーディリアも? いいよ。理屈は簡単だからね。コツさえつかめば出来るようになると思うよ」
ディアーナの向こうを歩いていたコーディリアも身を乗り出して手を上げる。カインはコーディリアに対しても気安く頷いて請け負った。
「ディも! ディもやる!」
「もちろん!ディアーナがやりたいのならちゃんと教えるよ! 僕が責任持ってディアーナを無詠唱大魔導士にしてあげるからね!!」
「わぁい!!!」
広い前庭を横切って、使用人たちが食器やテーブルを片付けていくのを横目に子どもたちは城の玄関をくぐって帰城した。
夏休みはまだ始まったばかり。
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このたび、悪役令嬢の兄に転生しました が書籍化されることになりました。
皆さんのおかげです。本当にありがとうございます。
活動報告に詳しい情報を載せておりますので、よろしければ御覧ください。
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