ソレを言ったのはお兄様だよ
おまたせしました。
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「お兄様は、お父様がおいくつか知っていらっしゃる?」
「お父様の年齢?」
大勢の前なので、ディアーナがお嬢様言葉でカインに質問をしてくる。お澄まし顔もとても可愛い。
カインはディアーナに聞かれて考えてみたが、そういえば両親の年齢を聞いたことが無いことに気がついた。
リムートブレイクでは現代日本のように何歳から大人という法律があるわけではないが、おおよその貴族は魔法学園を卒業したら大人扱いされる。跡継ぎである長子などは学園在学中に婚約者をつくり、卒業と同時に結婚する事が多い。
エルグランダークが筆頭公爵家である事を考えれば、カインの両親は十八歳か十九歳で結婚したことは想像に難くない。
カインが今十二歳であることを考えれば、両親は三十代前半であることは間違いないだろう。
「わからないけど、三十前半かな」
「私もお父様のお歳はわからないけど、お兄様が言うのならそうなのね」
ディアーナの言葉に、カインは思わず吹き出した。ディアーナは自分も答えを知らない質問をしたというのにとても偉そうだ。
「お父様があんなに
「カリスマですわお嬢様 (こっそり)」
「カリスマがあるのは、三十年以上生きてきた
途中、サッシャに耳打ちされながらも、腰に手をおいて胸を張ってそういうディアーナ。
「お兄様はまだ十二歳ですわ。お父様の半分も生きていないのですもの。いげんもかんろくもカリスマもお父様の半分もなくて当たり前なのですわ」
威厳も貫禄もカリスマも無くて当たり前と言われてかるくショックをうけるカインだが、言われていることはもっともなので軽く頷いてこっそり息を吐く。
「お父様はすごいね。僕も十年後にはお父様のようになれるように努力することにしよう」
「違うわ、お兄様。違うのよ」
カインの言葉にディアーナがゆっくりと首を横にふる。そして一歩前に出るとカインの裾を引っ張って頭を下げるように手でジェスチャーをした。
カインは曲げた膝に手を置いてディアーナの顔に自分の顔を寄せて「ん?」と首をかしげてみせる。
「お兄様、我慢をしてはいけないわ。我慢をしなくて良い努力をするのよ」
カインの耳たぶを掴んでひっぱり、こっそりとした声でディアーナはそう言った。
ディアーナは言い終わると耳たぶから手をはなして、カインの肩をそっと押して姿勢を戻した。
カインはびっくりした顔をしてディアーナの顔を見つめた。
我慢をするな、我慢をしなくて良いように努力をしろ。
たしか、それはカインが誰かに言った言葉だった。前世の恩師に言われた言葉で、前世ではカインが心の座右の銘にしていた言葉だ。
カインは、上品に、紳士としての微笑みを顔に浮かべて静かに頷いた。
カインには前世の記憶として現代日本で生きた記憶がある。資本主義で民主主義な平和な時代で平和な国だった。差別はまったくないとは言わないが、建前としてはしてはいけないという事になっていた。
人間は社会的生物であるという考え方も浸透しはじめ、そのために相互扶助、弱者保護の法整備も完全ではないが少しずつ進めていっている国で生きた。
その感覚、その道徳観がカインにはある。この世界のこの国の、貴族として生きるにはきっと邪魔な常識なのだろう。
カインは、ちらりと後ろに立つイルヴァレーノを見た。
そして、回りを囲んでいる領地の人たちをぐるりと見渡した。
さいごに、もう一度ディアーナの顔をみて微笑んだ。
「そうだね、我慢しない。僕は僕のやりたいことをするための努力をしよう」
その言葉を聞いて、ディアーナは花が開くように明るく笑った。
「公爵様は三十六歳ですよ」
その声に驚いてカインが見上げると、女性はにこりと微笑んだ。
「不躾に会話に入ってすみません。でも、公爵様のお歳は領民はすべて知っていることですので、つい口をだしてしまいました」
「領民はみんな知ってる?」
父の年齢を? カインは貴族としての紳士の微笑みを維持できず、不審な顔をしてしまった。ディアーナも不思議そうな顔をして女性の顔を見上げている。
「毎年秋になると、ディスマイヤ様生誕記念祭が開かれるのです。去年が第三十五回だったので、今年は第三十六回になります。ですのでお歳は三十六歳と言うことになります」
「ディスマイヤ様生誕記念祭……」
なんだそれ。
「差し出口をはさみました。先ほどは、風の魔法でお守りくださりありがとうございました。お礼が言いたかったのです。公爵様は厳しくおっしゃいましたが、気さくにお声掛けくださって私はとても嬉しかったです」
そう言って腰から曲げて頭を下げると女性は離れていってしまった。ディスマイヤ生誕記念祭って何? と聞こうとしたのにそそそと下がって行ってしまった。
しかし、それを皮きりに次々に領民たちがカインたちの前にやってきてはお礼を言い、下がっていく。
「格好良かったです、カイン様」
「前に立ってかばってくださり、魔法で火の粉を弾いてくださってありがとうございました」
「今まで、漠然と公爵様がお守りくださっていると思っておりましたが、具体的にどんな事をしてくださっていたのか、知れて俺は良かったと思ってます。教えてくださってありがとうございます。カイン様」
「ディアーナ様のテーブルクロス引き、とてもかっこよかったです」
「カイン様お顔綺麗」
「公爵様はお厳しい方ですが、カイン様はまだ学校に入ったばかりでお小さいのですから、気落ちしないでください」
「さっきの伯父さん超怖かったな。お前よりちょっと離れてたのに背筋ビシッと伸びちまったよ。カイン、お前はよくやったよ。領民に領主の仕事や税金の使いみちを説明するのが媚びるってことなら、俺もやってたんだからな。俺も後で父さんに怒られるかも知れねぇし。落ち込むなよ」
「隠れて警備していた騎士より先に動いていたの、か……か、かっこよかったよ、カイン」
次々に、お礼や励ましの声を駆けてくる領民たち。
肩を叩いて同調してくれるキールズ、側に来て褒めてくれるコーディリア。
ギュッとカインの手を握って隣でニコニコしているディアーナ。
お茶会再開の準備が出来たと給仕係がカインに声をかけてきたので、カインは顎を上げて思い切り口角を引き上げて笑ってみせて。
「さぁ、準備が出来たようです。 お茶会を再開しましょう」
腕をひろげながら、庭にいる皆にむかって宣言をした。
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誤字報告、いつも助かっています。ありがとうございます。
気をつけてはいるんですが、予測変換が悪さしたり(言い訳)、ChromebookだとATOK使えなかったり(言い訳)してしまいまして……
感想も、返事返しておりませんが全部読んでます。
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