ネルグランディ領騎士団
ネルグランディ領騎士団は、全部で四部隊ある。
第一部隊は要人警護と城および周辺地域(領主直轄領)の治安維持が主な仕事である。
入隊二年目から二年間、王都のエルグランダーク邸の警備を担当するのも第一部隊の騎士たちだ。
第二部隊は国境警備および領地全体の治安維持が主な仕事である。
人数が一番多く、分隊数も多い。領地内の各地域ごとに詰め所があってそれぞれに二分隊ずつ配属されている。主に、その地域出身者が配置されることが多く、実家通いしている者も少なくない。
害獣駆除や溝にハマった牛の救出や道を塞ぐ倒木の除去などの仕事が多い。たまに盗賊や追い剥ぎを退治することも有る。
第三部隊は遊撃隊だ。少数精鋭の脳筋部隊で、魔獣や魔魚が出たと報告があれば飛んで行って退治する。普段は魔獣の目撃情報の多い山奥や森の奥などを見回りしているか、城の訓練場で訓練をしている。
筋トレ大好き部隊なので、腕が太くなっただとか胸囲が増えただの言い出してすぐに制服が着られなくなるという問題があって、普段はざっくりしたシャツしか着ていない。式典等の時だけ直前に採寸して毎度制服を作っている困った部隊だ。
第四部隊は情報収集用の部隊で、領地中を巡って情報を収集、分析して団長及び領主であるディスマイヤに報告するのが仕事である。
そのため、騎士団と言いながら魔法使いも所属している。市井に溶け込みやすく、小回りが効くように小柄な者が多い。
地域密着型の第二部隊の騎士として派遣されつつ、真の所属は第四部隊なんていう騎士もいる。
第一部隊の二年目の騎士とは別に王都で領主のために情報収集を行っている騎士もいるが、普段は使用人にまぎれているので主であるディスマイヤ、執事のパレパントル以外は誰が第四騎士団の団員だか把握しているものは邸にはいない。
第一部隊は、領主に一番近い部隊であり花形である。王都へ行けるのも第一部隊に配属された二年目の新人の特権であるし、そうであるからこそ実力者揃いなのである。
「いやぁ。だから、気を利かせたのが仇になったといいますか……」
「今日のお客さんは普通の領民だって話でしたので、装備付けた騎士が回り固めてたら怖がるんじゃないかと……アルノルディアが言い出しまして」
「あ、なにげに俺のせいにしました? 一年先輩だからってズルくねぇですか、サラスィニア」
「庭は見晴らしも良いですし、少し離れて木の後ろとかね、柱の影とかに隠れて警備しようって……アルノルディア先輩が言い出したんです」
「……ヴィヴィラディア、てめぇ」
ネルグランディ領騎士団の花形、第一部隊の若き騎士たちが、牢屋の入り口外側で正座をさせられていた。
狼藉者たちを牢屋にぶちこんで、やれやれと外に出てきた所を部隊長に声をかけられ、説教をされているのである。
「話を聞くに、最初から不穏な空気だったというではないですか。それに気がついていながら距離を置いて警備していたという時点でマイナス一点です」
正座する騎士三人の前に立つ男は、細身だが背が高く、長い足を大きく開いて立ち、両腕は腰にあてて胸をそらしている。マイナス一点ですと言いながら腰に当てていた手を前に出しながら指を一本立てた。
「最初の男が大声を張り上げて御子息を詰った時点で飛び出していれば、相手に魔法を使われることもなかったでしょうね。そうすれば領民にもけが人は出ませんでした。マイナス二点です」
正座する騎士三人が見上げる隊長は、太陽を背にしているので逆光で顔が見えない。
突き出している手の指をもう一本立てて、立っている指が二本になった。
「そもそも、我々騎士団が領主様の命を受け、どれほど領民の生活に心を砕いているのかが全然領民に伝わっていなかった。その事も今回の騒動の原因でもあります。領民から納められた税により、我ら騎士団は編成され、そして大雨の後の堀の修繕だの害獣駆除だのをやっていることも、隣領の運営が崩壊している為に良く出没する野盗を排除しているのも、全然伝わっていなかった。結果、我らが敬愛するエルグランダーク騎士団長が領民から軽んじられ、煽動者の言葉に簡単に心奪われる者がでた。マイナス1億点です!」
逆光で表情の分からないまま、隊長がガッシとアルノルディアの頭を両手で掴んでくる。
そのまま、がしゃがしゃと髪の毛をかき回し、次いでしっかり握ってグルングルンと振り回した。
「た、隊長、頭もげる。頭もげるから」
アルノルディアがパンパンと隊長の腕を手のひらで叩くが、腕が止まる気配はまったくなかった。
「隠れずに、見えるところで警備して仕事している所を領民に見せなさい! 素早い初動で被害をゼロに食い止めなさい! 坊っちゃんに魔法使わせて、お嬢様の機転で女性たちを避難させて、あなた達は何をしていたんですか! 恥を知りなさい! 敬愛するエルグランダーク騎士団長様の名に泥をぬるんじゃありません!」
アルノルディアの頭をぐるんぐるんと振り回しながら、隊長が叫んだ。
「返事は!」
「「はい!」」
目を回しているアルノルディア以外の二人が、声を揃えて元気よく返事をした。
罰として一時間正座してなさい! と言い渡された三人は、事情聴取の為に牢へと降りていく第四部隊の騎士や、ガーデンパーティ会場と邸を行き来する使用人たちから通りすがりに気の毒そうな目で見られる事になった。
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