領主の一方的な通達
おまたせしました
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ネルグランディ城の一階にある応接室に、大人たちは集まっていた。
城の中に幾つもある来客対応の為の部屋のうちの、一番玄関に近い部屋だ。通常は、商人との打ち合わせや伝言や手紙を持ってきた他家の使用人を待たせるような事に使われる。
レッグスとアニタが長ソファーに、エクスマクスとアルディがその対面の長ソファーに、部屋の一番奥にある一人がけのソファーにディスマイヤが座っている。
「まず、レッグス。今度こそ一代男爵の爵位を受けてもらう。現在の領主直轄地を他と同じように間接管理地とし、土地管理官としてお前に任せる。もう、ガラじゃないとか責任持てないとかそんな言い訳はきかない」
ディスマイヤは、厳しい顔をしてレッグスとアニタの顔を順に見る。レッグスもアニタも困った顔をしていた。
「この辺の地名を取って、マイルアイド男爵と名乗れ。叙爵の祝賀に対する恩赦としてアーニーを釈放とする」
「領主様……っ!」
レッグスとアニタが目を見開いてディスマイヤを見る。ディスマイヤは、ブスッとした不機嫌な顔で片手をあげてレッグスの言葉を遮った。
「……騒乱罪、領主への反乱罪、領主親族……貴族への侮辱罪といったところだろうが、騒乱罪と反乱罪は実行動をほとんど取っておらず思想犯あつかいでいいだろう。もともと元子爵に唆されたのが原因のようだしな。貴族への侮辱罪についてはコーディが訴え出ないのであれば裁く必要もない。ディに対しては……カインがすでに暴走したんだろ?」
「いいのか兄上? カインから逃げる時にまだなんか叫んでたぞ。改心したわけではないんだぞ」
ディスマイヤの甘すぎるとも言える寛大な発言に、エクスマクスが声をかけた。ディスマイヤはレッグスからエクスマクスへと顔を向けると、眉間に深いシワを寄せてみせた。
「良いわけないだろ。最後には恩赦で出してやるがとりあえず三週間は牢にぶち込んでおけ。反省させろ。隣の牢で元子爵らに拷問でもしてその叫び声を聞かせておけ。出した後はエクシィの騎士団で見習いとして面倒をみろ。性根を叩き直せ。パルディノアの下にでもつけてガルツ山の魔獣退治にでも行かせたら良いだろう」
「……それって、遠回しに死ねって言ってるもんじゃないか? 兄上」
パルディノアは、ネルグランディ領騎士団の第三部隊の隊長でとても強い脳筋な人物である。自分に出来ることは他人も出来ると思っているが、その筋肉量や体力や気力は凡人にはとてもじゃないが追いつけない領域に達しており、そのため第三部隊は隊員の数が非常に少ない少数精鋭部隊であり、その全員が脳筋である。全ての物事は筋肉で解決が可能だと思っている集団なので、要人警護や町や村の警邏などよりも未開の地へと赴いて魔獣を倒すのに向いている。というか、ソレ以外のことをやらせると大変まずいことになってしまうことが多い困ったさん達の集まりなのである。でも、とても強い。
「パルディノアは意外と面倒見が良いから大丈夫だろ」
ディスマイヤはワザとエクスマクスから視線を外してなにもない空間をみながら大丈夫と言う。エクスマクスは複雑な顔をした。
「キールズがスティリッツと両思いで結婚するという話なんだろう? 一代限りとは言え男爵家の令嬢という肩書がつけば子爵家嫡男の嫁としても遜色ない。僕としてもキールズは可愛い甥っ子だからな、つまらない理由で反対はしたくない。犯罪者の妹を嫁に取るというのも外聞がわるいだろう。だから、レッグスは爵位を受けろ。これは命令だ。辞退は許さない」
なにもない空間から再びレッグスとアニタの顔を見て、ディスマイヤはそう言い切った。その顔は厳しい表情で、反論をさせない空気をピリピリと醸し出していた。
ふいっと顔をそらし、ディスマイヤは今度はエクスマクスの顔を凝視した。
「お前は、今後はレッグスとアニタに土地管理は完全に任せて騎士団運営に専念しろ。第四部隊のケツを叩いてしっかり働かせろ。アイツらがしっかりしていれば今回の件は大事にならなかったハズだろ。それと、領主代理はキールズにやらせる。アルディはキールズを手伝ってやってくれ」
ネルグランディ領騎士団の第四部隊は情報収集部隊である。現在は国も国境も領地も平和なので、各地の土地管理官達とエクスマクスをつなぐただの御用聞きに成り下がってしまっている。
「第四は……そうだな、鍛え直すようにしよう。領主代理の方は、キールズはまだ十五歳で学生だぞ」
「それがどうした。エクシィが領主代理としてこの地に着任したのも同じ頃だ」
「あの時はお祖父様が城にいらっしゃったじゃないか。お祖父様がやりくりしてくださったからなんとかなっていたんだよ」
「じゃあ、あのジジィを連れ戻せばいいだろ。どうせ元気でどっかフラフラしてるんだ」
「兄上、言葉遣いが……。お祖父様からは、時々手紙はくるがどこにいるのか分からないから連れ戻すなど無理だ」
まだ、エクスマクスが何かを言おうとしたがディスマイヤはそれを遮るように立ち上がってパンと手を叩いた。
「とにかく、レッグスは一代男爵を叙爵するように。叙爵式の時期についてはまた後で相談だ。エクシィは領主代理の任を外れて騎士団長に専念、領主代理はキールズにやらせる。キールズの婚約発表はレッグスの叙爵とアーニーの恩赦まで保留。以上だ。私は長旅で疲れた。細かい話はまた後にしよう」
領主であるディスマイヤが決定と言ってしまえば、それが決定事項である。まだ何事か言いたげなエクスマクスではあったが、浮かした腰をもう一度椅子に沈めてため息を吐いた。
「兄上、フィルシラー元子爵はどうします」
「アーニーに反省を促すのに使った後は処分しろ。一度はやり直す機会をやったんだ。二度目はない」
エクスマクスの声かけに、ディスマイヤは振り向かずにそう言うと応接室のドアを開けて出ていった。部屋を整えるのとメイドを手配するために、アルディが慌てて立ち上がってその後を追って部屋を出ていく。
「お父上に似てきましたね、ディスマイヤ様は」
レッグスが誰に言うともなくそうつぶやいたが、エクスマクスはゆっくりと首を横に振った。
「オヤジだったら、アーニーも処分されていた。兄上はオヤジよりだいぶ甘いよ」
そしておそらく、自分も騎士団長を解任されて領地から放逐されていただろう。そうエクスマクスは口の中でつぶやいた。
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