二人を見守り隊

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一日の授業が全て終わり、学校を後にして寮に戻ってきたカイン。

部屋に入って扉を閉め、自分の机にかばんを置くと大きくため息を吐いた。


「よっしゃ!」


ため息の後に一拍置いてガッツポーズを取る。

グッグッと拳を握り、肘を引く。


食堂でカイン達にテーブルから追い出されたジュリアンは、シルリィレーアのいるテーブルまで行って放課後図書館デートの約束を取り付けてきた。

真っ赤になって右手と右足を同時に前にだしながら歩いて戻ってきたジュリアンに、カインとアルゥアラットは肩を叩いてねぎらい、ジェラトーニとディンディラナは親指を立てて褒め称えた。


今頃は、ジュリアンとシルリィレーアは二人で図書館にいるはずである。

図書館では静かにしなければならないので、さほど会話がはかどらなくても場所柄そういうものだと言うことに出来る。

おそらく、ユールフィリスやアルゥアラット達が視界に入るぎりぎりの距離にある机で本を読むふりをして様子を伺っているだろう。

ユールフィリスはシルリィレーアがないがしろにされないかを見張るために。

アルゥアラット達はジュリアンの勇姿を見守るために。


カインとしては、ジュリアンとシルリィレーアがきちんと相思相愛となって深く結ばれてくれればそれで良かった。

ジュリアンが女好きで誰にでも甘い顔をし、好色であるがゆえに第三側妃まで取るという下半身ゆるゆる男にならないでくれればそれで良かった。

ディアーナをそんなヤツの嫁になんかやれるかという話である。


アルゥアラットの父の第二夫人と第三夫人の様に、ジュリアンがシルリィレーア以外の側妃を仕事仲間の人材として娶る気になるならそれでも良い。

そうであれば、隣国であるリムートブレイクから嫁を取るよりも有用な人材を国内から取る方が良いからだ。

ジュリアンのやりたいことは、新しい街の開拓だ。

それには、隣国の公爵令嬢より国内の有力貴族令嬢の方が都合がいいはずなのである。もしジャンルーカがリムートブレイクに留学して「公爵令嬢は兄上の嫁に」なんて言い出しても、断ってくれるかもしれない。

それよりも、ジャンルーカが留学するよりも先にジュリアンの婚約者枠を全部埋めてしまっても良い。


どちらにしても、シルリィレーアと仲良く両思いになって、ラブラブイチャイチャしてくれれば都合がいいのには変わりない。


「何にせよ、シルリィレーア様もジュリアン様もお互いを気にしてるのに一歩踏み出せていなかったしね」


カインは制服を脱いでクローゼットに掛けると、運動着に着替えて部屋を出た。

今日は寮の風呂掃除のアルバイトである。


【準備中】という札の下がった大浴場の入り口を開けて中にはいると、すでにバイト仲間の生徒が来ていた。


「やったぜ!今日はカイン様が一緒じゃん!」

「カイン様、浴室の方でいいかい?僕らで脱衣所やるんで」

「了解です!脱衣所よろしくおねがいします」


学校が斡旋してくれるアルバイトは、不公平がないように当番制になっている。

図書館司書の手伝い、各種教員の手伝い、校内清掃、寮内清掃、寮食堂手伝い、寮の風呂掃除、などなどなど。

大体、まんべんなく順番に巡ってくるが、マディは食堂手伝いが多いなどの一部例外もある。


アルバイト仲間の間では、浴場清掃にあたった時にカインと一緒になるとラッキーだとされていた。

理由は簡単で、広い浴槽の清掃を水魔法でちゃちゃーっと終わらせてくれるからだ。


カインは用具入れからデッキブラシを持ち出すと、特に汚れのひどそうな所をこすって回った。

桶と椅子を壁の一画に積み上げて洗い場から障害物を取り除くと、脱衣所への入り口ギリギリに立って魔法を使ってザバーっと水を流していく。


洗い場がきれいになると、今度はデッキブラシを担いで浴槽内に入り、浴槽のフチなどの水垢をこすっていく。

ここも毎日掃除しているところなので目立つ所を重点的にこすって、後はザラーっと軽くこするだけで終わりだ。

よいしょと浴槽から出て、また魔法で大量の水を出してこすって落とした汚れを流していく。


脱衣所の掃除を終わらせた他の生徒が浴場に入ってきて、カインが積み上げた椅子と桶を元通りの配置に並べていく。

カインも、汚れを流した水がすべて排水溝に流れきるのを待って栓をし、風呂桶に魔法で水を張る。

ココまでやれば、あとは学校が雇っている職人が薪を燃やして風呂を沸かすだけである。


「脱衣所の方ももう終わったぜ。あとはゴミ捨てだけだし、カイン様含めて一年は上がっていいぞ」

「ありがとうございます!」

「ありがとうございます。よろしくおねがいします」


アルバイトを斡旋してもらっている生徒たちは、貴族ではあるが効率重視な考え方をする者が多い。学年が上だったり、家格が上だったりしても自分の部屋のほうが焼却炉に近いと思えばごみ捨てを請け負うなど当たり前にする。

生徒たちがアルバイトをしている理由はさまざまで、決して実家が貧乏だからというだけでは無かったりする。マディもその一人で、実家は裕福な家だと聞いているが、卒業後にその家を出るつもりでアルバイトをしているのだ。

家から甘いもの禁止令を出され、デザートを食べないようにお小遣いを減らされているのが理由でアルバイトをしている生徒もいる。その生徒はプクプクと太っている。


アルバイトが終わり、腕まくりしていた運動着の袖を戻しながら廊下を歩いていたら、窓の外にジュリアンとシルリィレーアが歩いているのが見えた。

昼休みに言われたとおりに、手をつないで歩いているようだった。手をつないでいるというより、ジュリアンがシルリィレーアの手首を掴んで連行しているようにも見えた。

そのジュリアンの顔は真っ赤で、シルリィレーアは俯いているので顔色はわからなかった。


普通に手をつなぐのが恥ずかしいので、手首を掴んで引いているのかもしれない。そして、恥ずかしいから早足になってしまっているんだろう。


微笑ましいなと思って見ていたら、その少し後ろで茂みに隠れながら中腰で歩く三人の男子生徒が居た。

その三人は、風呂場へ続く渡り廊下の窓から見ているカインに気がついたようで、三人して歯を見せてニカっと笑うと、カインに向けて親指を突き立てたのだった。

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