祖父の祖父ぐらいになるともはや歴史上の人物
引き続き、少年達が芋をかじりながら勉強をします
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「カイン様、皆様。お勉強ですか?」
食堂の丸テーブルを占拠して、男子四人で干し芋をかじりながら勉強していたカインたちに涼やかな声が掛けられた。
見上げれば、シルリィレーアとその友人がケーキセットを乗せた盆を持って立っていた。
「シルリィレーア様。ユールフィリス嬢。ごきげんよう。勉強をしていたんですが、別の話題で盛り上がっていました」
アルゥアラットがニッコリ笑ってそう言いながら立ち上がる。
アルゥアラットが立ち上がるのを見て、残りの三人も立ち上がった。
「せっかくだからご一緒しましょう。そちらの机をくっつけますから」
「僕らの分の飲み物追加で貰ってくるね」
アルゥアラットとディンディラナとカインの三人で隣の丸テーブルを持ち上げて運んでくる。
ジェラトーニが注文カウンターへ飲み物をもらいに早足で歩いていく。貴族なので走ったりしない。
机を二つくっつけて並べたところで椅子も持ってきたアルゥアラットとディンディラナが令嬢二人を椅子に座らせた。
流石に侯爵家の息子二人なので自然と椅子を引いて優雅にエスコートをしている。
そうこうしているうちに、ジェラトーニがカップを四つ乗せた盆を持って戻ってきた。
「勉強をお休みして、何のお話をしていらしたの?」
シルリィレーアがケーキを小さく切りながら話しかけてきた。ユールフィリス嬢もお茶の入ったカップを持ち上げて口に付けているが、耳がこちらを向いているのがわかる。
「アルゥのヒィヒィお爺さんの話ですよ」
「あぁ、ディヴァン伯爵の初恋の……」
シルリィレーアの口から恋愛小説のタイトルが出てきたことで、本当に有名な話なのだなぁとカインは感心していた。
ユールフィリスもカップをテーブルに戻しながら、うんうんと頷いている。
「国王陛下から勧められた国を安定させるための婚姻を強い意志で拒否し、平民の花屋の娘と大恋愛の末結婚するのよね。浪漫だわ」
「まぁ、本当は花屋の娘じゃなくて領地の豪農の娘なんだけどね。花畑の管理と新種の花の開発にすごい力を入れていた女性らしいんで、大きくは外れてないのかもしれないけど」
「夢がないわね」
「大恋愛は大恋愛だったらしいから、いいじゃない」
ユールフィリスは読了済のようだった。そして、その夢をアルゥアラットが壊していっている。
「それで、侯爵以上の貴族に対する一夫多妻制導入の時期と、お家騒動にならないのかなって話をしていたんですよ」
カインが、話の方向を修正する。
万が一億が一、ディアーナがジュリアンの側妃になる様なことがないように。せっかくの情報収集の機会である。
「あぁ、ディンディラナには冬に弟か妹が出来るのでしたっけ?何人目?」
ついさっきのジェラトーニと同じことをユールフィリスが聞いてくる。
「五人目。アリ母さま…えっと、第三夫人の子だね。ウチは家督を次ぐのは正妻の子って事だけは厳密に決めてあるし、母さま達はみんな仲が良いんでお家騒動は多分ないんじゃない」
「ディンのお父様は愛情深い方なのね」
シルリィレーアが少し寂しそうな顔をしたが、一瞬のことだったので瞬きをした次の瞬間には澄ました微笑みを浮かべていた。
「アルゥの家が、えーと。共同経営者?だっけ?」
カインがアルゥアラットに水を向ける。
アルゥアラットはかじった干し芋を口の中でゆっくり咀嚼し、飲み込んでからパチクリと瞬きをした。
「今、貴族女性の職場っていうと、生家より爵位が上の家にメイドや侍女で入るか、王妃様の仕事をサポートする女性文官とかぐらいじゃない。それも、何処かに嫁入りが決まれば退職しちゃうし。何処までいっても誰かのサポート仕事ばっかりなんだよね。だから、自分の手で経済を回したい!土地開発や農業改革をして領地を豊かにしたい!みたいな『自分の能力を活かしたい』っていう優秀な女性の行き場がないわけ。そこんところに目をつけたのがうちの父さんね」
「あら、興味深いおはなしですわね」
シルリィレーアが目を見張ってアルゥアラットの横顔を見つめた。アルゥアラットがそれに気がついているが照れているのかシルリィレーアの方を振り向かず、カインの顔をみたまま話し続けた。
「領地管理官とか、土地代官に任命しようとしても、反対されたり任命したところで下の者たちが女だからって言うことを聞かないとかあるらしいんだけどさ。領主の妻って肩書で現場に出ていけば誰も無碍にはできないじゃん?リリィもメリィも元気いっぱいに領地運営やってるよ。一応、母として俺と弟の事も可愛がってくれてるしね」
「アルゥのところって、侯爵夫人は社交界ですごい顔が広いよね」
「そこはもう、きっちり役割分担なんだってさ。……この干し芋美味しいだろ?リリィがスティック状にしたら保存食や兵糧としてじゃなく、おやつとして出せるんじゃないか?って試しに作ったんだよ」
新しく干し芋をつまむと、クルクルと指先で回したあと、がぶりとかじった。
テーブルの上の干し芋はいつの間にかなくなってしまった。ねっとり甘くて美味しかった。
「すこし、歯にくっつくけどな。美味しかった。アルゥごちそうさま」
カインが笑ってアルゥアラットにお礼を言えば、頬を赤らめながら「どういたしまして」と返事が返ってきた。
「ジュリアン様はさぁ、今ん所そのどっちの感じでもないんだよねえ。仕事を支えてくれる人を取るとか、ちゃんと愛情を持てる人を取るとか、……貴族のパワーバランスとか王家への忠誠とかそういうのもあんまり考えてなさそうで」
ジェラトーニが申し訳なさそうな顔でシルリィレーアをちらりと見て言った。
シルリィレーアもその視線に対してすこし寂しそうな笑顔で返し、ため息を付いた。
「ジュリアン様も、ちゃんと女性を選ぶ指針みたいなものはございますのよね……国家の役に立つかどうかの指針にはまったくならないものですが」
シルリィレーアがそういうのをうけて、ユールフィリスも男子四人も深く頷いた。
「お胸の大きな……」
「「「「おっぱい大きい子」」」」
ユールフィリスが静かに立ち上がり、男子四人の頭に順番に拳骨を落としていった。
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