ディアーナの暴露

復調しました。ご心配おかけいたしました。

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サッシャはスッと立ち上がった。


「お嬢様、少々お時間を頂いてよろしいでしょうか」

「え……。うん」


これから、サッシャを巻き込んで行く為の大演説をするつもりだったディアーナはサッシャの行動に出鼻をくじかれてしまった。

ディアーナがポカンとした顔で見上げているのを尻目に、サッシャは続き間にある自分の部屋に入っていく。そして、すぐに出てきた。


ソファまで戻ってくると、カップをよけてローテーブルの上に二冊の本を置いた。

それは、元宰相の世直し旅行記の本と、暴れん坊な王様の本だった。


イルヴァレーノとディアーナがちらりと本の表紙を見て、何事も無い様にカップのお茶を口に運ぶ。

内心はバクバクである。


サッシャは、自分の席に静かに座ると本の表紙の上に手をそっと置いた。


「世を忍ぶ仮の姿。その言葉がこちらの本にも出てきます。つい最近、ディアーナお嬢様からお借りして読んだばかりなので間違いございません」


サッシャは静かに語る。


「ディアーナ様は、お兄様と一緒に近衛騎士団の訓練に混ざろうとした事があると噂で聞いたことがございます。もしかして事実なのですか?」


本から顔をあげたサッシャが、静かにディアーナの顔を見つめる。

ディアーナは引きつりそうになるのを我慢して、澄まし顔で微笑み、サッシャを見つめ返した。


「本当ですわ。でも、反対されてしまったので剣術の訓練は結局出来なかったのよ」

「剣術訓練を諦めていない。実はとても強い。令嬢としてあるまじき行動を取ってしまう。それが『真の姿』だというのですか?」


サッシャの瞳がキラリと光る。

ディアーナの喉がゴクリと鳴る。サッシャの問いかけに答えようと口を開こうとしたが、サッシャが手のひらでそれをとめた。


「お嬢様が、私の居ない時にイルヴァレーノと砕けた口調で会話をしているのは知っていました。内緒話をしているのも知っています。少し寂しい気はしましたが、お嬢様はまだ社交界にも出ておらず、学校にも通っておりません。公私を分ける場が無いのですから、私といる時を公、私が居ない時を私として気持ちを切替えて礼儀作法をきっちりして頂きたかったのですが」


「サッシャ……」


「私を、公私のの方に入れてくださるというのですか?」


サッシャが、小さく首をかしげて聞いてきた。

ディアーナは、小さく早くコクコクと首を上下に振って肯定する。


「うん。うん。サッシャはディの一番近くの侍女だから、味方になってほしかったの」


「ディアーナお嬢様の真の姿は、あんなにお強かったのですね。不審者に対してあの様に立ち向かえるなんて」


「うん。ディ、強かったでしょ?あの姿を見られちゃったから、もうサッシャに隠し事出来ないなって……」


「ええ、とてもお強かったです。守ってくださってありがとうございました」


「えへへへ……。かっこよかった?」


「ええ、とてもかっこよかったですよ。投げナイフを華麗に受け止めるなんて神業といえるでしょう」


「えへへへ」


「さぞ練習なさったのでしょうね」


「それはもう、沢山ね!」


そう答えた次の瞬間、ディアーナは あ。という顔をする。

イルヴァレーノは片手で顔を覆って俯いてしまう。

サッシャは口の端を少しだけ上げた。


「ディアーナ様。素直なことは美徳ですが、貴族社会で生きていくにはもう少し腹芸というものを覚えなさいませ」


「ごめんなさい」


ディアーナは眉毛を下げて俯いてしまう。

サッシャはため息を一つ吐いてから、上半身を伸ばしてディアーナの頭をそっと撫でた。


「ディアーナお嬢様の公私の公は、邸の使用人たちですか?」

「パレパントルとか、デリナとか、おウチにいるみんなと、お父様とお母様」


九歳の女の子が、両親の前でも淑女として振る舞っているという。


「旦那さまと奥様も、公の場なのですか?」

食堂や、ティールーム、来客時のサロンなど。両親の前でも淑女であろうとしていたディアーナをサッシャは見ていた。しかし、サッシャの居ないところ。使用人を下げて母と二人で刺繍をしている時や、父と街へ遊びに出る際の馬車の中など。

両親に甘える時間というものはなのだとサッシャは思っていたのだが。


「私の前を公、居ないときを私として礼儀作法を切替えていただこうと思ってやって参りました。しかし、そういうことでしたら。私もディアーナ様の『世を忍ぶ仮の姿』ではなく、『真の姿』にお仕えしましょう」


「サッシャ!」


両親にもを見せないというディアーナ。何故そうなっているのかは、サッシャには分からない。イルヴァレーノなら知っているのだろうが、それを聞くのはなんだか悔しかった。


「コレから、ディアーナお嬢様について色々と教えて下さいませ。『世を忍ぶ仮の姿』の秘密を守るために、茶番にも付き合いましょう」


「ありがとう!サッシャ!」


元気よくお礼を言うディアーナに向かって、サッシャはキリっとした顔を向けた。


「ですが、素の状態。プライベートと言えども貴族の令嬢として崩してはならない一線というものはございます。そこは、きっちり注意させていただきますからね」


「……はぁい」


シオシオと肩を下げるが、ディアーナの顔は笑っていた。

良かった良かったと、安心するように息をはいていたイルヴァレーノに向かってサッシャは声をかける。


「あなたには、また後でお話があります。練習したからといってやって良いことと悪いことがあります」

「……………」


誘導に引っかかったせいだぞという恨みがましい目でイルヴァレーノはディアーナをちらりと見た。

ディアーナはフイッと視線を外して窓の外を見た。


「お嬢様の『世を忍ぶ仮の姿』にお付き合いするのですから、お嬢様も私に付き合ってくださいませ」

「サッシャも何かあるの?」

「ええ、以前からお嬢様にして差し上げたかった事がございます」

「なにかな?」

「それは……」



翌朝から、サッシャはディアーナの朝の身支度の時に髪を巻く時間というのを作った。

ディアーナの髪の毛は艶のあるサラサラの髪の毛だ。

サッシャがディアーナを寝間着から普段着に着せ替えた後、寝間着を片付けている間にイルヴァレーノがディアーナの髪の毛をセットしてしまっていた。

イルヴァレーノはブラシできれいに梳かして、ハーフアップにして髪飾りを付けたりしていたのだ。

だが、その日からはサッシャが丁寧に丁寧に毛先を巻いていき、金色の巻き髪を作るようになった。


優雅なる貴婦人のゆうべ の作中で、完璧侍女が王女の髪を巻いているのだ。

髪を巻いている間に、今日の予定を確認したり、他愛のないおしゃべりをしたりするのだ。


「さあ、今日も髪を巻いて行きますね」

「おねがいします!」


「ディアーナ様。ディアーナ様は果物では何がお好きですか?」

「りんごが好きだよ。お兄様がね、うさぎさんに皮を剥いてくれるのが好きなの」

「うさぎさん……ですか?」

「イル君もできるよ」

「……私も出来るように練習いたします」



他愛のないおしゃべりは続く。

まだ、ディアーナとイルヴァレーノがサッシャに言っていない事は沢山ある。

それを、少しずつ少しずつ、髪を巻いてもらいながら聞いてもらう。


公爵令嬢だけど、剣術訓練を諦めていないどころではなく、イルヴァレーノ相手に剣術の練習を続けているという『真の姿』について語れるのは、もう少し先。

  ―――――――――――――――  

サッシャが仲間になった!ディアーナは仲間が増えた!

ディアーナの髪が巻き髪になりました。乙女ゲーパッケージと同じ髪型になりました。

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