調査(のフリ)をしよう

魔法の説明回です。

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「ジャンルーカ様。速く走る方法を伝授いたします」

「カイン?何ですか?」

「後ろ足でグッと地面を蹴るときは、踵・膝・背中がまっすぐになるようにします」

「え?え?」

「腕は肘を直角に為るように曲げて素早く前後に動かします。腕が速く動けば足も速く動きます」

「こ、こうですか?」

「前に出す足は、踵が蹴り足の膝と同じ高さになるまでグッとあげて、前に出します」

「う、うん」

「はい、ダッシュ!」


そう言うと、カインは全速力で駆け出した。

一瞬遅れてジャンルーカが駆け出し、ジュリアンは大きくため息をついて肩をすくめながら歩いて二人についていった。

「踵、膝、背中まっすぐ、踵は膝の高さまで…まっすぐ、膝」

ジャンルーカはブツブツ言いながら走り、先で立って待っているカインのところまで走っていった。


「前傾姿勢で空気抵抗をなくして大股で走ったほうが速いという説もありますけどね。足が地面を蹴るエネルギーを無駄なく使うほうがより速く長く走れると思います」

「ハァハァ。はい」


カインはにっこり笑ってジャンルーカに向き合う。


「姿勢を気にしたり、足の動きに気を配ったりして大変だったでしょう?」

「はい」

「コレを、繰り返し練習していれば意識しなくても速く走る姿勢と足運びで走れるようになります」

「ええっと。そうですね」

「魔法の呪文も、同じなんです」


ジュリアンが追いついてきた。まだ息が整いきっていないジャンルーカの背中をなでてやりながら、カインの顔を苦笑しながら軽く睨んだ


「急に走らせるでない。準備運動もせずに走れば足を痛めることもある。ジャンルーカに無理をさせるでない」

「申し訳ありませんでした」


カインは素直に頭を下げる。


「で?呪文と同じとはどういうことだ?」

「そういえば昨日も、反復練習で呪文を短縮できると言っていましたね」

「はい。呪文は魔力を体の外に魔法として出すための手順というか心構えと言うか、そういうものなんです。例えば、『小さき炎よ』で火の魔法を使うぞって宣言して、『我が手より出て』で手の先に出すぞって指定して、『我が指示する目標を延焼せよ』でアレを燃やすぞって指示しているわけです」

「姿勢は踵から背中までまっすぐにして、踵は蹴り足の膝まで上げる。意識しないでもコレができれば速く走れるのと同じで、手の先から炎を出して視界の中心に入れている目標にあてるぞというのを意識しなくて出来るようにするということか?」

「そうですね。もともとの魔法属性が単一の人は、前半を省略する人も多いようです。炎しか出せない魔法使いが炎を使いますって宣言する必要はありませんから」

「有能には有能の不便さがあるのだな」


カインは魔法使いのローブから右手だけを出して前にまっすぐ突き出してみせる。


「複数属性が使用出来る魔法使いは、属性の宣言は省略出来ません。が、手を差し出せばその前に魔法が出るというのを習慣化してしまえば魔法の出現位置の指定は省略できます。ジュリアン様のおっしゃったとおりに、視線の先を目標として習慣化すれば目標の指示も省略できます」


そう言うと、カインの突き出した手のすぐ前にボっと音を立てて小さな火の玉が現れて、消えた。


「今、手を出しただけで何も言わずに魔法がでましたよ?」


ジャンルーカが目を丸くしてカインの指先と顔を交互に見比べている。ジュリアンも顎をさすりながら思案顔をして首をかしげていた。


「今の説明が本当であれば、省略出来ないはずの属性の宣言を省略したことにならぬか?」

「目標を指示しなかったから、出てすぐに消えちゃったのですか?」


カインはローブの中に手を引っ込めて、二人に向き合うように立ち位置を変えた。ジャンルーカに近寄ると頭を優しくなでて微笑んでみせた。


「ジャンルーカ様、正解です。火は出しましたが、目標を指示していないのですぐに消えてしまいました。理解が早いですね。素晴らしいです」


ジャンルーカの頭を撫でながら、顔だけジュリアンに向けて今度は真面目な顔をするカイン。


「ジュリアン様のご質問にはまた今度。については話せば長くなります。さぁ、調査をしましょう。本来はそのために来たのですから」


ジャンルーカの頭を撫でる手を戻し、パンパンと手を叩いてカインは話題を切り替えた。ジャンルーカは少し残念そうな顔をしていた。



「ジュリアン様。コレをみてください」


カインは、つま先で地面を蹴って小さな穴をほっていた。その穴をジュリアンに注目をするようにと指を指しながらしゃがみこんだ。


「土を少し掘ってみても、魔法陣の線が消えません。土の上にインクや白い石粉などで書かれたものではないということですね」

「…そこまではすでにわかっておる」

「基本から行きましょうよ。私はここに初めてくるんですから」

「再確認は大事ですよね」

「ジャンルーカはどちらの味方なのだ」


三人でしゃがんでカインの掘った小さな穴を覗き込む。底には、空から見た時に五芒星に見えた魔法陣の一部。真っ直ぐに広場を横切っている白い線が走っている。

穴をほったところでも、線は途切れずに穴の中に白い線が引かれている。カインは手を突っ込んで白い線が引かれている土をつまんで持ち上げてみる。


「線の外に出しちゃうと、ただの土ですねぇ」


つまんだ土を反対の手のひらの上にパラパラと落として行くが、そこには普通の茶色い土が乗っているだけだった。

ジャンルーカも身を乗り出してカインの手のひらを覗き込んでほんとだーと指でつんつんと突いている。


「嫌な感じはしないんですが、私は聖魔法も闇魔法も使えないのでなんとも言えませんね…」

「そうか」


三人は立ち上がると、魔法陣の縁まで行くことにした。なんとなく、魔法陣の白線の上を一列になって歩いていく。


「白線だけが安全地帯。白線から落ちたらワニに食べられて死ぬ!」

「カインは何を言っておるのだ?」

「そういう遊びです。魔法陣は広いので。ただ歩いてもつまらないじゃないですか」

「カイン、ワニってなんですか?」

「口が大きくて、パクンと一口で人を丸呑みしてしまう動物です」

「こわっ」

「こわっ」


カインが急に立ち止まり、ワニの存在にびっくりしているジュリアンに軽く肩から体当たりをした。油断していたジュリアンはふらついて左足を白線の外に出してしまった。


「はい、ジュリアン様はワニに食べられてしまいましたー」

「兄上ー。兄上の遺志はきっと僕が引き継ぎますので安心して食べられてくださーい」

「ばっか、まだ開始!って言っていないから無効であろう!今からだ!今から始めることにするのだ」


魔法陣の端まで、三人で押したり引いたり駆けたりしながら移動していった。

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