すや〜

「おお。戻ったのか、カイン。ジャンルーカ」


広場まで戻れば、すでに運び込まれた魔獣が並べられていた。騎士の一人とジュリアンが二つ折りの革のバインダーに乗せた紙へ色々と書き込んでいたが、カインとジャンルーカが戻ったのを見て、片手をあげて声をかけてきた。


「大口叩いて出ていったのだ、成果は上々なのだろうな?」


腕を組んで挑発的な顔をしてジュリアンが成果を聞いてきた。カインは右手に持っていた牙の生えたたぬきを持ち上げた。ジャンルーカは、カインと手をつないでいない方の手を持ち上げて角の生えたうさぎをジュリアンに見せた。


「おにいさま。つのうさぎさんをやっつけましたよ」


だいぶ眠たそうな声でジャンルーカがそう言うと、ジュリアンはわずかに眉をひそめたのだった。ジャンルーカの口調はだいぶ幼くなっている。


「啖呵を切った割にはそれだけなのか?毛皮が焦げているから騎士達の分け前ではなく、魔法でやったのは確かなようだが」

「小さな目標に魔法をあてるのは技量が必要なんですよ」

「学校入ったばかりと学校入る前の子どもの魔法ではそのくらいということなのであろうな」


ジュリアンがため息を吐きつつそう頷いたときだった。カインとジャンルーカが出てきた森の出口からセンシュールとバレッティが焦げた牛の魔獣を二人がかりで運んで来た。


「おぉーい!手の空いてるやつがいたら手伝ってくれ!まだ奥に転がってるんだ」

「センシュールさん重い!そっち持ち上げないで!重い!」


センシュールが牛を運びつつ大きな声を出して仲間の騎士に声をかけている。調査済の魔獣の解体を始めようとしていた騎士が数人そちらにかけていき、森へと入っていった。しばらくすると、数十匹の魔獣が広場へと運び込まれ、並べられていった。

並べられている魔獣達は、焦げていたりぐっしょりと濡れていたり、剣ではない鋭い刃で切られていたりしていた。


「的が大きいと、当てやすくて助かります」

「おにいさま。あれ、あれです。あのおおきなぶたさんは、ぼくがやったのですよ」

「意地が悪い!!」


ニヤニヤと笑いながら言うカインと、眠そうながらも嬉しそうに豚の魔獣を指差すジャンルーカ。それに対して呆れながら悪態をつくジュリアンであった。


「カイン。ジャンルーカが眠そうなのは魔法のせいか?」

「そうですね。体力を使いすぎれば体が動かなくなるのと同じで、魔力を使いすぎると意識が動かなくなります」

「あちらの奥が私達用のテントだ。ジャンルーカを連れて先に休むが良い。まさかとは思うが、カインは獣の解体も出来たりするのか?」

「流石に、獣の解体は経験がありません。機会があれば学んでみたいとは思いますが」

「そうか。明日も解体するからその時に騎士に頼んでやろう。今はジャンルーカを頼む」


ジュリアンの言葉にカインは頷くと、ジャンルーカとつないでいる手をひいて、指定されたテントへと移動した。いくつか立っているテントのうち、ジュリアンが指差したのは一番大きなテントだった。


「さすが王族だね。これ、靴脱いだほうがいいよね」


もう限界に眠そうなジャンルーカをテントの入り口に座らせると、カインはしゃがんでジャンルーカの靴を脱がす。両足を靴から抜きだすと、そのままコロンと転がすようにテントに押し込んだ。

靴を出船で揃えてテントの入口脇に置くと、自分もテントの中に入っていった。


「ジャンルーカ様、偉いですね。魔法を使った上に自分で起きて拠点まで戻ってこられましたね」

「えらい?」

「偉いですよ。ちゃんと拠点まで戻ってくることが出来て一人前の魔法使いですよ。魔法を使いすぎて倒れてしまうなんていうのは半人前なのです」

「カインが手を引いてくれたからです。眠くて一人ではあるけませんでした」


カインがテントの隅に寄せてある毛布を広げてジャンルーカの背中にかけてやる。胸の前できっちり毛布を合わせて隙間なく巻いてやると、毛布から半分だけ出ている頭を優しく撫でる。


「手を引かれていても、自分の足で歩いていたのですから立派ですよ。僕は一番最初に魔法を連発した日は、気絶して大人におんぶされてしまいましたからね」

「あんなにすごい魔法を使うのに、カインも使いすぎてたおれてしまったの?」


頭がグラグラしているジャンルーカの体をそっと倒して寝転ばせると、カインも自分の分の毛布を体に巻いて横に寝転がった。


「そうです。僕も魔法の限界がわからずに使いすぎて倒れてしまいました。体が大きくなってくれば魔力も多くなっていくので、倒れにくくなります。でも『だんだん集中力が切れてきたからそろそろ魔力が少なくなってきたな』みたいなのは自分の体の感覚で覚えるしかないんです」

「かいん。また、まほうをおしえてください」

「もちろんです」


ジャンルーカからすうすうと寝息が聞こえてきた。魔力ぎれによる眠気なので、一眠りして魔力が回復してきたらすぐに目が覚めるだろう。ジャンルーカに対してお兄ちゃんぶっていたが、実はカインも張り切りすぎて中々の眠気に襲われていたのだった。


「最大MPと残りMPが数値で見えたりすれば、便利なんだろうけどね…」


(HPが残り四分の一になった時だけ使える高威力魔法とかあると、熱い展開だよな…)

そんな事を考えながら、カインもジャンルーカの隣で寝息を立て始めたのだった。


「お前たち、いくらなんでも張り切って倒し過ぎなのでは…な…いか?」


森で倒した魔獣がすべて広場に並べられ、大きさや種類とその数の記録を取り終えたのでジュリアンがテントに入ってきた。先にテントに入っている二人に文句を言ってやろうと話しかけながら入ってきたのだが、目の前で仲良く寝ている二人を見て文句が続かなかった。


「実績を残してもすぐこんなに無防備になるのでは、魔法もそれほど万能ということでもないのだな」


ジュリアンは肩をすくめてテントから出ていった。

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