花祭り2
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いよいよ、明日から花祭りの休暇である。連休前最後の授業日である今日は午前で学校は終わる。
領地へと帰る者は荷造りに忙しく、王都に残る者も実家が近い者は帰宅するためにやっぱり荷造りに忙しい。
ジュリアンとカインの二人は食堂で昼食をとっていた。
「ジュリアン様は、どうなさるのですか。明日からの二週間」
「うむ。私は初日に父上、母上、兄弟たちと一緒に花祭り開始の挨拶をするからな。城に帰るぞ。二日目以降も各貴族の開放されている庭を巡って挨拶回りだ」
「お忙しいのですね」
「うむ。褒め称えて良いぞ。まだ学生だと言うのに勤勉に働く私を崇め奉るが良い」
「王族としての役目を果たし、勤勉に働くジュリアン様の素晴らしさは言葉に出来るものではございません。初日挨拶ではその美しきお姿を見た王都の民が感動し、惜しみない拍手を送る事でしょう。これほどに国民を大事にし、国事を大切になさるジュリアン第一王子殿下であれば未来のこの国も安心であると心の底より安堵し、泣きむせぶに…」
「カイン。褒め過ぎはいたたまれなくなるからよせ」
「そうですか」
ポットごとテーブルに持ってきていたお茶を二つ並べたカップに注ぐと、カインは一つをジュリアンの前に置き、もう一つはそのまま自分でもって口にいれた。
リムートブレイクのお茶よりも、香りが高くて渋みが深い。カインはサイリユウムのお茶をとても気に入っていた。
「カインはどうするのだ?アルバイトをして過ごすと言っていたが」
「それなんですよね。学校が閉まってしまうのでアルバイトもなくなってしまったんですよ。迂闊でした」
学内斡旋されるアルバイトは、図書館の司書の手伝いや、教師の手伝いで資料室などの整理整頓などが主だった。それに加えて、寮の大浴場の掃除や食堂の下ごしらえの手伝いなどである。
お金を払うからには働け!ということで、手伝いなんていう言葉では表しきれないほどこき使われる。当然、学校が休みになり、寮からもほとんどの人が居なくなるとなればそれらのアルバイトはなくなってしまうのだ。
「あら、カイン様はお体が空きますの?」
声をかけられ、カップから目を上げればシルリィレーアが立っていた。お盆にケーキとお茶の入ったカップを乗せている。
「ご一緒してもよろしいかしら?」
「もちろんです、どうぞ」
カインが了承してジュリアンの隣の席をすすめる。シルリィレーアはお盆を置いてから自分で椅子を引き、座る。カップから一口お茶を口に含んで落ち着くと、改めてカインに向き合った。
「カイン様、アルバイトの宛てがなくなってしまったんですのよね?それで、お体が空いていらっしゃるのですよね?」
「そうですね。級友のみんなのお庭にお邪魔するのでも良いのでしょうけれど、まだこの国の作法にも不慣れですし、ホストとして忙しいみんなの手を煩わせるのも申し訳ないですし。寮で勉強でもしていようかと思っております」
本音は、家に帰ってディアーナと遊びたかったが片道7日間の場所では帰ってこられない。飛竜を借りるお金はまだ無い。
「それでしたら、我が家のガーデンパーティにて給仕のアルバイトをしていただけませんこと?少々人手が心もとないんですの」
シルリィレーアは頬に手をあてて首を傾げて困ったわという顔をしてみせる。可憐な貴族令嬢らしいポーズである。ジュリアンはそれをみてむっとした顔をしてカップをテーブルに置いた。
「カインは隣国の公爵家令息だぞ。この国で給仕の真似などさせては問題だろう」
「普段は寮のお風呂掃除なんかもやっていただいているのに、今更何をおっしゃるのですか。ジュリアン様、我が家が来客を迎える時の給仕はみな上級使用人ばかりですもの。皆伯爵以上の家の出身ですわよ。それに、カイン様が来てくださるのなら、執事と一緒に準ホストとして過ごしていただきますもの」
「しかしだなぁ」
何故かジュリアンは不機嫌な顔をしている。
「シルリィレーア様。是非、お言葉に甘えさせてください。ですが、仕事は普通の給仕で構いません。あまり立派な立場を与えられても恥をかいてしまいますから」
そう言ってカインは苦笑いをする。立場をおもんぱかってくれるのはありがたいが、他家のパーティの仕切りなど出来るはずもない。
「決まりですわね。では、明日の朝我が家へいらしてくださいませ。門番には話を通しておきますし、来ていただければ仕事などもわかるようにしておきますわ。カイン様の他にも花祭りの間だけのアルバイトがおりますので気楽にきてくださいませ。衣装の貸与もいたしますので、普段着で構いませんからね」
「何から何まで、ありがとうございます」
さて話は一旦終わった、とばかりにシルリィレーアはフォークをとってケーキを食べ始める。
それを見て、ジュリアンがオホンと空咳をしてかしこまった。シルリィレーアの方を向いてぎこちない笑顔を作った。
「時に、シルリィレーア。花祭りの最終日はどうするつもりだ?」
ちょうど口に入れた一切れを、もぐもぐと上品に咀嚼しながら、流し目でジュリアンの顔色を伺うシルリィレーア。ゆっくりと飲み込むと、カップを手にとってお茶で口の中をさっぱりとさせ、またゆっくりとカップをテーブルに戻す。すべてがもったいぶった動きだった。
「ジュリアン様は、どのようなご予定ですの?」
「私か?私は、アチラコチラから誘われておるからな。引く手あまたで困っておるところだ。悩ましいところでな、まだ決めかねておる」
ジュリアンがニヤニヤといやらしい顔でそう言いながらシルリィレーアの顔を覗き込んだ。
カインは、前世で同じ会社のお母さん社員たちが言っていた「子どもの頃は女の子のほうが精神年齢高いのよね〜」というセリフをふと思い出していた。
「そうでございますか!わたくし、最終日はお兄様と回りますわ!ジュリアン様はよりどりみどりなお好きな女性とお過ごしになられませ!」
お上品の範囲を出ない程度に大きくてきつい声でそう言うと、シルリィレーアはまだ半分しか食べていないケーキと飲みかけのカップを乗せたお盆を持って立ち上がった。
キッとジュリアンをひとにらみすると、カインに向かってニコリと笑って「では明日よろしくおねがいします」と言って使用済み食器置き場へと歩いていってしまった。
「………ジュリアン様。つかぬことをお伺いしますが。花祭りの最終日というのは何があるのですか?」
「最終日は家族や仲の良い友人や、……婚約者や恋人と花のあふれる街を歩いたり四つ辻で踊ったりする日」
「ジュリアン様は本当にアホですね」
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