お父様とデート1
今日も読んでくれてありがとう
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「イル君とお兄様ばっかりズルい!ディのこと仲間外れにした!!!!!」
朝食を食べるために食堂へと入ったとたんに、ディアーナが指を突き付けて叫んできた。
ぷんぷん怒って頬を膨らませて口をへの字にしている姿すらかわいいと、カインは咄嗟にディアーナを抱きしめると頬ずりをして頭のてっぺんの匂いをクンクンとかいだ。
ディアーナは抱きしめられた状態でバンバンとカインのわき腹を掌でたたくと「怒っているんですのよ!」と淑女のような言葉づかいで抗議した。
最近は、サイラス先生に少しずつ言葉使いを直されているらしい。
「ディアーナのことを仲間外れにするなんてとんでもないよ。何にそんなに怒っているのか僕にちゃんと話してくれるかな」
「朝ごはんのまえにイル君とお兄様、2人でお外で遊んでるでしょ!2人でお外に出ていくの見たんだからね!」
ディアーナは朝のランニングに出かけるところを見ていて、それを2人で遊びに行っていると勘違いしているようだ。
今までは、朝ごはんだよと起こされるまで寝ていたディアーナが今朝に限ってなぜ早起きをしたのかはわからないが、カインはチャンスだと思った。
「じゃあ、明日の朝からディアーナも一緒にやる?」
何を、とはあえて言わないカインである。遊んでいるというディアーナの言葉にも否定も肯定もしていない。
ただ走っているだけだということがディアーナにバレたら「やっぱりやーめた」と言われかねない。
カインは、ディアーナ自身にも強くなってもらうのはありだと思っていたのでこれを機にランニングに引っ張り込んでしまおうと考えたのだ。
早起きを習慣化できるのも、ディアーナの将来のためになるだろうし、本当に騎士の訓練に混ざるのならば体力がないことにはお話にならない。
「やる!ディも一緒に遊ぶ!」
「お父様」
ディアーナの返事を受けて、そのままカインは父ディスマイヤの方を向いて声をかける。
「いいよ、いいよ。パレパントル、ディの運動服用意してやって」
「かしこまりました」
カインの声を受けて、ディスマイヤはそのまま執事へスルーパス。執事は恭しく頭をさげると、そばにいた侍女に言付けをする。言付けを受けた侍女が食堂を出て行った。
サクサクと物事が進んでいく。
ディスマイヤも、剣の稽古はダメでもランニングぐらいなら良いだろうと判断したようだ。
カインはダイニングテーブルまでの短い距離をディアーナと手をつないで歩く。抱き上げて椅子に座らせると、隣の椅子に自分も座って朝食を取った。
その日はディスマイヤが休みを取っていたので、カインはサラスィニアと馬に乗って王城へと出かけて行った。
「カインばいばーい!」
「お兄さまバイバーイ!」
と手を振る父に恨みがましい目を、妹に名残惜しい目を向けながらカインは遠ざかって行った。
「さ、ディアーナ。今日は父さまとお出かけしよう!ディを独り占めするためにお仕事休んだんだからね!」
「お父様と遊びに行くの!?」
カインが見えなくなると、ディスマイヤはディアーナに向かってニコニコしながら遊びへと誘った。その誘いにいったんはパァと明るい表情を見せたディアーナだが、すぐに困った顔をした。
「でも、今日はイアニス先生のお勉強の日だよ」
遊びには行きたい。でも、勉強はしなくてはいけない。勉強を頑張るとカインが褒めてくれる。勉強が嫌になった時期もあるが、実際にさぼったことはないのでサボったときにカインがどういう反応するのかは分からなかった。しかし、勉強嫌いと言った後に、好きになる工夫をしてくれたカインなのであまりいい顔をしないのではないかという想像はディアーナにもできた。
「いいよ。イルヴァレーノも勉強してるんでしょう?だったらイアニス先生も無駄足にはならないし、ディアーナも優秀だって聞いているからね。一日ぐらい休んだって問題ないよ!」
「本当?」
「本当、本当」
父がそう言うなら大丈夫なのだろう。そう思ってディアーナはまた笑顔になると「遊びに行く!」と宣言したのだった。
門前に馬車が回されて、ディスマイヤはディアーナを抱き上げて馬車に乗せると、後から自分も乗り込んた。
執事が馬車の戸を閉めるのを待って、ディアーナに声をかける。
「ディアーナはどこに行きたいの?」
「河原!」
「え…かわら?」
お菓子屋さんやおもちゃ屋さん、洋服屋さんなどと言われると思っていたディスマイヤの目が点になる。
かわらとは…瓦?河原?頭が混乱した。
「河原にはね、強い石があるんだよ!強い石を探しに行きたい!」
ディスマイヤには意味が分からなかったが、石を探すというのならばカワラは河原で間違いがないのだろう。御者に王都の外の河原へ行くよう指示をすると、馬車はゆっくりと走り出した。
「セレノスタがね、最強の石くれたけどね、ディは自分で探したいと思ってたの」
「うんうん」
「強い石はね、なるべく硬いのがいいんだけど、重すぎたり大きすぎたりして投げにくいのもダメなのよ」
「そうなの?」
「石だけじゃ勝てないの。オノレのワザとワンリョクとシュウチュウリョクが一体となって初めて勝てるんだよ」
「へぇ。なかなか奥深いね」
ディアーナが『石はじき』の極意を説明するが、ディスマイヤにはさっぱり分からなかった。
セレノスタって誰?最強の石って何?と疑問だらけだったが、ディアーナの説明を聴くのが楽しかったので気にしないことにした。
リボンの形をした石やウサギの形に見えない事もないかもしれない石、ディアーナにとっての最強の石を拾って馬車に乗せると、裾が泥だらけになったワンピースを着替えるために洋服屋に向かった。
「この子に合いそうなワンピースをいくつか持ってきてくれる?あと、運動がしやすい服なんかあったらそれも見せて欲しい」
「かしこまりました」
ディアーナの運動服は執事に頼んであるが、せっかく洋服屋に来たのだから自分でも買ってやろうとディスマイヤは考えた。ランニングがどれくらい長続きするのかは分からないが、洗濯替えの為に複数枚必要だろうと思ったのだ。
当然、執事がそのことに思い至らない訳はないので、ディアーナの運動服はこの後2桁の枚数になる。
ワンピースを着替え、余分に買ったワンピースと運動服の入った箱を馬車に積み込むと、今度はおいしいスイーツが食べられると評判のカフェへとやって来た。
「さあ、ディアーナ。なんでも好きなもの食べていいんだよ!」
そう言ってディスマイヤはディアーナにメニューを広げて手渡した。
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