可愛いは正義。つまりディアーナは正義

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長らくディアーナのお気に入り絵本は『うさぎのみみはなぜながい』という本だった。

これが先日ついに殿堂入りを果たし、最近は新しいお気に入りの絵本を持ち歩いている。


ディアーナはカインが剣術訓練で王城に行っている間に、イルヴァレーノを捕まえて読み聞かせをしようとする。

「今日のディアーナ様」でその様子を報告するたびにカインが恨みがましい目で見てくるので勘弁してほしいとイルヴァレーノは思っていた。

最近のディアーナのお気に入りは「少女騎士ニーナ」という絵本で、意地悪な男の子から他の女の子たちを守るために騎士になった少女のニーナが意地悪な男の子たちをやっつけるというものだった。

騎士の制服風の服を着たニーナがカッコよく描かれているページが大のお気に入りで、ほうきを使って真似をしては掃除メイドに取り上げられて頬を膨らませていた。



エルグランダーク家の庭は、庭師の老人の手でいつでも綺麗に整えられていた。花がらは散る前に摘まれ落ち葉は家人に見つかる前に掃かれる。

だから、それは本当に偶々で偶然で奇跡のようなタイミングだった。

ディアーナが掃除メイドにほうきを取り上げられ、拗ねて使用人用の出口から裏庭に出たところで、目の前に木の枝が落ちて来たのだ。

先に一枚だけ枯れ葉がまだついていて、まっすぐで、手ごろな長さの枝だった。


「ふおおおおお」


ディアーナは目を大きく丸く見開いて、宝物を発見したように大事そうに木の枝をそっと拾うと、目の高さまで持ち上げてまじまじと眺めた。

木の枝を横にして、縦にして、上から下からじっくりと眺めていく。

眺めるのに満足したディアーナは、今度は枝を握った右手を持ち上げて、勢いよく振り下ろした。

細めの木の枝は少ししなりながら「ビュッ」と風を切る音を鳴らして振りおろされた。


「ふおおおおおお!」


ディアーナは感動したように目を大きく開いてキラキラとした満面の笑顔で手に握られている枝を見つめた。


「聖剣アリアード!」


それは、少女騎士ニーナが本の中で使っている剣の名前だった。

ディアーナはご機嫌で鼻歌を歌いながら木の枝を振って歩いていく。まずはイルヴァレーノに自慢して、お昼ご飯の後に帰って来たカインにも自慢するのだ。


壁沿いに正門に向けて歩いていくと、警護担当の騎士二人とイルヴァレーノが立っていた。

早速イルヴァレーノに聖剣を自慢しようと駆けだそうとしたディアーナは、その足を止めて立ち止まった。

騎士の振り上げた剣がイルヴァレーノの頭上に振り下ろされそうになり、イルヴァレーノがそれをサイドステップでよけたのだ。その後も、騎士が振り下ろした剣をそのまま横方向に薙ぎ払ったのをイルヴァレーノが足を広げて頭を下げることで避け、そのまま開いた足をスライドさせて騎士に足払いを掛けようとする。


「イル君あぶなぁーい!!!」


ディアーナはそう叫ぶと全力で走り出した。


足払いをバックステップで避けた騎士が、避けたことで出来た距離を縮めようと大きく一歩踏み込んだところだった。

足払いをよけられて、その勢いのままくるりと一回転して体勢を持ち直そうとしたイルヴァレーノの目に走ってくるディアーナが飛び込んでくる。

踏み込んだ勢いで剣を振り下ろそうとしていた騎士の目にも、すごい勢いで駆け込んでくるディアーナが飛び込んで来た。


「うおっと!」

「っ!」


勢いでディアーナを蹴らないように回転の勢いのままわざと転ぶイルヴァレーノ。

剣を振り下ろすのを肩と腕の力で頭上で止めたサラスィニア。

その間にズザザーっと滑り込んで来たディアーナ。


ディアーナは、聖剣アリアードをサラスィニアにビシッと突き付けると朗々と見得を切った。


「弱い者いじめはゆるさない!いじわるなんてカッコ悪い!少女騎士ディアーナ、ここに見参!」


剣を頭上で振りかぶっている大人の騎士。その騎士に向かって木の枝を突き付けている少女。少女の後ろでしりもちをついている少年。

はたから見れば、悪い騎士から少年を守っている少女騎士の構図である。

セリフが決まり、ポーズもばっちり決まったディアーナはドヤ顔である。


サラスィニアはバツが悪そうな顔をしながらゆっくりと剣を下ろすととりあえず「ごめんなさい」と謝った。

それを聞いてうんうんと大げさにうなずいたディアーナは振り向いてイルヴァレーノに手を差し出した。


「意地悪に意地悪で返してもきりがないのよ。ごめんなさいを言われたらゆるしましょう」


これも、少女騎士ニーナのセリフである。

イルヴァレーノは思わず差し出された手を取って立ち上がろうとしたが、イルヴァレーノの体重を支え切れずにコロリンとディアーナの方がイルヴァレーノの上に転がってしまった。


「別に、いじめられていたんじゃありませんよ。稽古をつけてもらっていたんです」


ディアーナを立たせて、自分も立ち上がると尻の土をパンパンと叩きながらイルヴァレーノが説明をする。

下手にディアーナから騎士がイルヴァレーノに剣を向けていたなどと伝わって、この2人の騎士に不利益があっても困るからだ。冤罪はよろしくない。


「お稽古?」

「そうです。カイン様が王城で近衛騎士と剣術の練習をするようになりましたからね。僕も負けていられないというか…」


騎士2人も、うんうんとうなずいている。

カインが王城に行くようになるまでは、イルヴァレーノとカイン二人そろってこの騎士たちに稽古を付けてもらっていた。今はイルヴァレーノだけなので決まった時間でなく、お互いの空き時間があえばという形で続けていたのだった。


「ディも剣のお稽古する!ディも騎士になる!」


ビシッと聖剣アリアードをアルノルディアに突き付けて宣言するが、騎士二人は困った顔をするばかりだった。

イルヴァレーノがディアーナの手にそっと手を乗せて木の枝を下げさせると、少し屈んでディアーナと目線を合わせた。


「ディアーナ様。勝手に剣の訓練をして、万が一ディアーナ様にお怪我をさせてはこの2人が叱られてしまいます。それは『いじわる』な事ですよ」

「いじわる!?」


ディアーナはショックを受けたような顔をした。

正義の騎士を気取っていたディアーナにとって、意地悪な事をしようとしていたというのは衝撃なのだろう。


「ちゃんと許可を取りましょう。旦那様か奥様に剣の稽古をしても良いか聞いて、良いと言われたら改めてこの2人にお願いをしましょう」


ディアーナが素直にうなずいたのをみて、イルヴァレーノは騎士の二人に「今日はコレで。ありがとうございました」と頭を下げた。

ディアーナと手をつないで玄関へ向かい、まずはエリゼの部屋へ行ってディアーナがお願いをしてみたがやはり「ダメ」と言われてしまった。

泣きそうな顔でディアーナが粘ったので、エリゼは最後には「お父様が良いと言ったらね」とディスマイヤに丸投げした。


昼食後、カインが帰って来たのでディアーナは早速「聖剣アリアード」を披露した。


「すごい!少女騎士だ!少女騎士ディアーナ格好いい!」


ディアーナがビシッとポーズを取るたびにカインは褒めた。そして、勉強机から物差しを取り出すとそれを片手で構えた。


「女の子のくせになまいきな!やっつけてやる!」


カインが絵本の意地悪な男の子のセリフを叫んで物差しを振り上げた。

ディアーナがアリアードを無茶苦茶に振り回すと、先の方が物差しにカツンと当たった。それを受けてカインが物差しを放りだすと、大げさに膝をついて腕を押さえてうなりを上げた。


「くそうっ!女の子のくせになんて強さだ!」


カインのこの台詞で、ディアーナの目がきらきらと輝いた。この男の子のセリフの後にニーナの決め台詞があるのだ。


「かわいいは正義!可愛い女の子は無敵なのよ!」


ビシッとポーズを決め、ドヤ顔をするディアーナ。

カインはこの絵本のこの台詞についてはいろいろ問題あるだろうと思っていたが、実際問題としてディアーナは可愛いのでディアーナがこの台詞を言う分には何の問題もないなとも思っていた。


近衛騎士団と一緒に剣のをしているカインに勝ったディアーナは、自信を付けた。

自信に満ち溢れたディアーナは、午後の魔法の授業も大きな声で魔法を詠唱してティルノーア先生を笑わせ、ヴァイオリンの弓を元気よく振り回してクライス先生を泣かせた。


そして夕飯の席で、父ディスマイヤに剣を習いたいと申し出たが却下された。

ディアーナはいかに自分が強いか、騎士になるとどれほど格好良いかを力説したが駄目だった。


あんまりにも必死で泣きそうなディアーナにほだされたカインが、近衛騎士団の訓練を見学することを提案した。

大の大人が真剣に訓練し、時には吹っ飛んだり鼻血を出したりしている様をみたらあきらめるかもしれないよと。カインが一緒に居て見てるから危ないことはさせないよと。

ディアーナと一緒に説得した。 

最後には、ディスマイヤも「騎士団から許可がでたらな」と折れた。

カインは、自分の良いところを見せようと言う下心もあったので重大な事を忘れていたのだった。



「良いんですか?騎士団の訓練にはアルンディラーノ王太子殿下もいらっしゃるんでしょう?会わせたくなかったんじゃないですか?」



寝る前にカインを寝間着に着替えさせながらイルヴァレーノがそう言うと、カインはおろしたての靴で馬糞を踏んでしまったかのような絶望の表情をしたのだった。

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鳥頭過ぎて色々矛盾出てきちゃってます。

ようやく仕事が一段落したので、情報を整理整頓していこうと思います。

なんかここおかしいよ?と言うのがあれば感想かメッセージか活動報告へのコメントでお知らせ頂ければ幸いです。

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