エルグランダーク家のハロウィーン

オマケ話です。

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この世界、王制で貴族と平民という身分制度があってドレスで夜会で騎士で魔法なこのファンタジー世界にも、ハロウィーンというイベントがある。

何故なら、乙女ゲームの世界だから。


ゲームプレイ中はとにかく苦労した。

まずスチルが多い。その時一番親密度の高いキャラクターと一緒にお菓子を貰い歩くというイベントなのだが、校内を歩くルート選択によって会えるキャラクターが違うのだ。

例えば、『一階から行こうか』って選択すると、仮装した王太子と騎士見習いに会うが、魔導師とカインには会えない。『三階から降りていこう』って選択すると、先生と後輩に会うが、王太子とカインに会えない。『今居る二階から回ろうか』って選択すると、隣国の第2王子と魔導師に会うが、カインと先生に会えない。


会えないキャラクタが居るのもそうだし、会える場合でも一緒に行動してる組み合わせが違うのだ。当然、イベント会話の内容も異なる。

セーブとロードを繰り返して全スチルを集めるのはなかなかに骨の折れる作業だった。


そして、今日はハロウィーン当日。

カインもディアーナもまだ学校に通ってないし、他家の子どもとの交流もまだ無いので、仮装で練り歩くのはもっぱら家の中だけである。

ディアーナは、普段は着ない黒いドレスにとんがり帽子をかぶって先っちょに星の付いた棒を持って魔女になりきっている。棒は魔法のステッキだそうだ。

その姿を見たカインは悶絶して床を転がり、神への感謝を捧げる踊りを踊り出したところで「服が汚れるしわになる」とイルヴァレーノに取り押さえられていた。

カインは犬の耳が付いたカチューシャを頭に付け、ふさふさの尻尾をベルトの後ろに結び、毛皮のスリッパと手袋をつけて狼男に扮装している。

イルヴァレーノは、仮装する事に最後まで抵抗していたがついにはシーツをかぶっただけでゴーストと言い張る事で妥協した。


「トリックオアトリート!」

「おかしをくれなきゃイタズラするよ!」

「……」


今日の為に、使用人一同にはディスマイヤから『お菓子給付金』が支給されていた。各使用人は、この給付金を使ってそれぞれがお菓子を用意することになっている。

給付金で材料を買って手作りする者や、包装紙を買ってお化けやかぼちゃに見えるように梱包する者、単純に見た目のかわいいお菓子を買ってくる者など様々だった。


「きゃあー!お菓子をあげるからイタズラしないでー!」


若いハウスメイドはノリノリで恐がった振りをしながらお菓子をくれた。


「トリックオアトリート!」

「おかしをくれなきゃまほうをかけちゃうよ!」

「……」


「坊ちゃんもお嬢様も可愛いねぇ。イル坊のそれはなんだい?」

「ゴーストだって」

「手抜きすぎやしないかい?」

「……」


庭師のお爺さんからはバラの砂糖漬けを貰った。

給付金で高価な砂糖を買って、自作したらしい。そのまま食べずに、紅茶に砂糖の代わりに入れるのが良いらしい。

あまり、子供向けの菓子では無いのでディアーナには不評だった。


「がおー!」

「トリックオアトリート!」

「……」


「よし来い!狼男め!返り討ちにしてくれる!!」

「えぇー……」


門を警護していた騎士のアルノルディアとサラスィニアには迎え撃たれた。

仕方なくタックルでもかましておくかと投げやりに走ってきたカインをアルノルディアは投げ飛ばし、地面に落ちる前にサラスィニアがキャッチしてその口にマシュマロを突っ込んできた。


「悪い魔女は捕獲だー!」

「きゃー!ははは!」


ディアーナは後ろから羽交い締めされて高い高いされたあげく、やはり口にマシュマロを突っ込まれた。


イルヴァレーノもサラスィニアに捕獲されそうになったが、本気を出して避け、逃げ、飛んで門塀の上に飛び乗り猫のように威嚇していた。見たこともない速さで動いていた。

「来年は化け猫の仮装したらいいんじゃないか?イル坊は」とアルノルディアに言われていた。


「トリックオアトリート!」

「まほーでかえるにしちゃうぞー!」

「……」



「まぁまぁまぁ、可愛い魔女さんだこと。お菓子をあげるからかえるは勘弁してね」

「はぁい!」

「カインも可愛いぞー」

「お父様は僕よりディアーナを褒めてください」

「なんでお前はそうなの?」


父ディスマイヤと母エリゼは、頭をなでながら可愛い可愛いと褒め倒した。豪華な小物入れに入ったキャンディを3人に一つずつくれた。


「イル君。孤児院の子たちにも、お菓子を贈ってありますからね。今頃みんなで食べてるのではないかしら?」


母エリゼが、そう言ってイルヴァレーノの頭をなでた。

シーツ越しだからか、大人しく頭を撫でられているイルヴァレーノは、小さな声でありがとうございますとお礼を言った。


貰ったお菓子は一旦部屋に片づけて、この後はお茶の時間を延長してのハロウィーンパーティーである。

家族と側近である侍従や侍女、家令などの上級使用人は一緒にティールームで。

その他の使用人にも、使用人休憩室に振る舞いのお菓子が届けられている。


カインと手をつなぎ、ティールームに入ったディアーナ。

たくさんお菓子が食べられる。今日は「もうここまで」って言われない日なのでとても楽しみにしていたのだ。


テーブルの上には、関節とシワまで丁寧に再現され、アーモンドスライスでリアルな爪が表現されているフィンガークッキー。牛乳寒天に苺のソースとブルーベリーソースで瞳と血管が描かれた目玉ゼリー。ビスケットにベリークリームとマシュマロで作られた入れ歯。水飴を細く振って作られた蜘蛛の巣にリアルな蜘蛛と蝶のアイシングクッキー。ドクロ型のホワイトチョコの眼孔と鼻の穴からはイチゴジャムが流れ出している。



料理長とパティシエが本気を出し過ぎていた。ハロウィン特別手当が出ていたからかもしれない。やる気が突破してはいけない方向に突破していた。

あまりにもリアルすぎるそれらの菓子を見た瞬間。


ディアーナはギャン泣きし、カインは爆笑し、イルヴァレーノは思わず腰に手を回して携えていない武器を手に取ろうとした。


爆笑しながらもディアーナを抱いて背中を撫でているカインに、イルヴァレーノはシーツ越しに声をかけた。


「なぁ、もしかして孤児院に差し入れられてる菓子ってコレと同じものか?」


イルヴァレーノから言われた内容に付いて、一旦笑いを引っ込めて想像したカインは、このリアルなお菓子が孤児院に届いている様を想像してまた爆笑した。

ディアーナを母に渡して膝を折って腹を抱えて笑っていた。


シーツを被っているイルヴァレーノがどんな表情をしているのかは、誰にもわからなかった。

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カインの心が折れっぱなしの中、季節ものなので差し込みました。

15時にもう1話更新します。

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