アリアの過ち 3

 施設を抜け出し探検に出かけたミクリ。


「家族に会いにいくぞー! えい、えい、おー!」


 自分へそう鼓舞して元気いっぱい駆けていきます。


 なんとその速さは自動車のそれを超えていました。


 驚いたことにアリアが元の身体から引き継いだ能力をミクリは無意識に使いこなしていたのです。


 幸いにも使っていた魔法はどれも代償が軽いものばかり……。


 アリアは安心して見守っていました。


 けれど、まだ5才の子供がなんの見境も無く駆けずり回っているのです。



「うあああああああん――!」



 ほら、やっぱり迷子になりました。



「うえええええええん――!」



 泣いて。



「うぎゃあああああん――!」



 泣いて。



「ぎゃああああああん――!」



 泣き喚いて。



 帰る所も分からなくなって。


 自分がどうしたいのかも分からなくなって。



「あぎゃああああああん――!!」



 また泣いて。



 あまりにも泣き叫ぶミクリ。


 そんな様子にアリアはひどく心を痛めました。


 どうしてもいたたまれない気持ちが押し寄せてしまい。



 ――――。



 アリアはミクリの中から迷子になった記憶を根こそぎ消し去ると……。


 ミクリの心を眠らせている間にこっそりと施設に引き返したのです。



 ◇ ◇ ◇



 まだ昼間だというのに……。


 十分なお昼寝も済んだというのにミクリは気を失うように突然眠る事が多くなりました。


 その時はアリアが無理やり表に引っ張り出される事になるのです。


「ミクリちゃん、お手伝い出来て偉いねー」


 大人から頭を撫でられて。


「いえ別に。当然のことですから……」


 なるべくミクリの口調に合わせたつもりでしたが、なにやら周囲の子供達が集まって来ます。


「え、なんかミクリちゃん大人っぽーい」


「わたしもまねしていーい?」


「わたしもわたしもー」


 ミクリも含め彼女達の間ではおままごとで遊ぶことが流行っていて……。


 どうやら大人というものに憧れ始めたお年頃。


 どうしても冷静さを纏ってしまうアリアの口調は彼女達にとっては新鮮に思えたのでしょう。



 そんな事が幾度か続くうちに……。




 とうとうミクリは目を覚まさなくなりました。



 ◇ ◇ ◇



 当然、アリアは焦り始めます。


 どうしてミクリは目を覚まさない……?



 最近のミクリは自分の特技が記憶力の良さだと気づき始めたようだった。


 多くの手品を身に付け。


 沢山の絵本の内容を覚えて。


 簡単な足し算や引き算もできるようになって。


 それに漢字もいくつか読めるようになってきた。



 まさか……。


 まさか私はまた何かを間違えてしまったのか――。


 そしてアリアは確信します。


 嗚呼そうだ……。


 私はまたミクリから記憶を消し去ってしまったのだ。


 泣き喚くミクリがあまりに不憫で良かれと思ってやった事だった。


 いや、違う。


 私の都合だ。


 私が勝手に求めたのだ。


 過去に囚われずに生きて欲しいと。


 私はまたミクリの記憶を食いつぶした。


 自尊心を取り上げてしまった。




 こんなハズじゃなかった……。


 こんなハズじゃ…。



 私は……私はまた取り返しのつかない事を……。



 ああ。



 ああああ。




 あぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁ――――!!





 これがアリアの二度目の過ち。

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