アリアの過ち 2

 だいぶ無茶をしてしまった……。


 どうやらクノンの方が先に目を覚ましていたようだ。



 アリアは自身の身体に異常がないか確認します。


 本来は大掛かりな機材や材料を要する魔法を呪文だけで起動させてしまったのです。


 きっとこの身体のどこかに欠損ガタが生じているはずだ……。


 アリアには元より「代償と引き換えに魔法の発動条件を無視できる」という特異な才能がありました。


 それはこの身体になっても引き継いでいたらしく、問題なく機能したようです。


 そう、問題なく機能した・・・・・・・・という事は間違いなく代償を伴ったという事……。


「取り返しのつかない事になっていなければ良いのですが……」


 思わずそう呟きながら思案していると。


「ミクリちゃん? 急に立ち止まってどうしたのかなあ? どこか痛い痛いなのかな?」


 若い女性が目線を合わせて話しかけてきました。



 ミクリ……? 一体誰の事を呼んで……?


 

 この時のアリアはまだその意味を分かっていませんでした。



 さて、アリアに話しかけてきたこの女性の名はモクレン。


 身寄りのない子供達を養護するこの施設でボランティアをしているようです。


 どうやらクノンはこのモクレンに保護されたようなのです。


 そして彼女達と接している主人格クノンの様子をしばらく見ているうちに……。


 アリアは重大な事実に気付いたのです。


 そう……。



 クノンはモクレンと出会う前までの記憶を全て失っているという事を……。



 それらしい欠損が他に見当たらない事から、アリアはそう確信しました。



 嗚呼そうだ……。


 クノンは間違いなく私のせいで記憶を失くした。


 咄嗟の事だったとはいえ、あの魔法を使ってしまった事は私の落ち度だ。


 私がクノンの記憶を……家族との大切な思い出を食い潰してしまった……。



 アリアは強く後悔し悲観しました。


 これがアリアの最初の過ちです。



 ◇ ◇ ◇



 ある時から白衣を着た若い男性が尋ねてくるようになりました。


 確かザイゼンと名乗っていたような気がします。


 アリアは主人格ミクリを尊重する為にあまり表に出ないようにしていたので、この辺りの記憶は曖昧です。


 彼について分かっている事といえば、とても器用で手品を嗜んでいるということ。


 ミクリはそれを見て、とても楽しんでいるようでした。


 いつしか彼の真似事を始めたミクリは大人顔負けの手品を披露するようになりました。


 どうやら手先の器用さと記憶力に関しては天才と呼んでもつかわしい程ずば抜けていたようです。


 そんな日が続いていくに連れ……。


 ザイゼンと接する機会が増え、手品の腕前を上げていくに連れ……。


 だんだんとミクリは自身の才能に気付き始めます。


 だからこそ自分自身の過去というものに執着していくようになっていき……。



 そして思うのです。



「わたしのお父さんとお母さんはどこにいるんだろう……?」

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