アリアの過ち プロローグ

 ミクリの心の中。


「もう起きているのでしょう?」


 戻って来たアリアが尋ねると。


「だったら何?」


 ふて腐れたように答えるミクリ。


 アリアは動じない様子で謝罪します。


「肝心な時に傍に居てあげられず申し訳ありません。カレンお嬢様を取り返せなかったのは私に非があります」


「そんな事を言う為に今更のこのこ起きてきたの?」


「ええ。存在否定を使ったのも代償に耐えられず眠ってしまったのも全て私の勝手な判断。私がしっかりしていればあんな連中には――」


「何? 負けなかったとでも言いたい訳? 言っとくけど私は別に負けた訳じゃないから! ちょっと油断しただけだから!」


「…………」


「あとさあ、この際だから聞いておくけど。メイド長が……サーヤさんが私の実の姉だって知っていたの?」


「……ええ。知っていました」


「やっぱり! どうして……?」


 どうして話してくれなかったのか?


 ミクリは幼い頃の記憶が無く、自分が一体どこの誰なのか分からないまま児童養護施設で育ちました。


 血縁となる家族は何処にもいない。


 時には探そうとした事もあったはず……。


 でも、そんな記憶もすっぽり抜け落ちているのです。


「…………」


 口を閉ざすアリア。



「やっぱり私とアリアは違う存在なんだよ! 言ってくれなきゃ分かんないよ!」


 

 これがミクリの本音でした。


 その剣幕に……アリアは意を決したように。


「やはり私は肝心な所で間違えてしまうようです。分かりました……お話しします」


 言葉を選びながら説明を始めるのでした。



 ◇ ◇ ◇



 15年前――。


 目を覚ましたアリアは驚愕しました。


 なんと自分自身が赤ん坊になっていたのです。


 最後の記憶にある自身の姿は32歳。


 カグラザカという名家に仕える使用人。


 側近としてお世話をしていたその家のご子息を庇って死去した……はずだった……。


 どうやら今の身体はクノンという2才の赤ん坊になっているらしい。


 そしてその主人格であるクノンは確かに存在していて……。


 アリアは自分が二重人格のもう一人・・・・の存在である事を理解しました。


 クノンは両親や姉からとても愛されていました。


 それはとても尊い事で……。


 アリアは傍観者になろうと決めたのです。

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