ミクリの危険な闇バイト 4

 試合当日。


 黄色い歓声に包まれた河川敷球場。


 客席は多くの人で埋め尽くされています。


 当然そのほとんどはイケーズ側のファンです。


 イケーズには甘いマスクのイケメンもたくさんいるのです。


「おー、おー、こりゃまた凄いねー」


 アニーズの監督としてベンチにいるトウコは敵ながら感心します。



 それを遠目で見ているミクリ。


 トウコが素早い手の動きで何かをやっています。


「あ! トウコさんが何か言っている。えーっと……。ミ・ク・リ・テ・ハ・ズ・ド・オ・リ・二・タ・ノ・ム・ゾ」


 どうやら手話のようです。


 トウコからのメッセージに親指を立てて応答するミクリ。


 指文字をとんでもないスピードでやっている為、異次元の動体視力と記憶力を持つ者だけが理解できます。


 つまり、ミクリにしか通じません。



 トウコは自軍のバッターに対しては単純なポーズでサインを送る一方で……。


 客席のミクリに対しては指文字でサインを送って、試合の展開を支配するつもりのようです。




 いよいよ試合が始まりました。


 我らがアニーズは後攻、つまり守備からのスタートです。


 客席で杖を構えるミクリ。


 さっそくトウコからの指示が来ます。



 タ・マ・ノ・ハ・ン・パ・ツ・リ・ョ・ク・ヲ・サ・ゲ・ロ


 ヤ・リ・ス・ギ・ル・ナ・ヨ


 ゴ・ク・シ・ゼ・ン・ニ・ヤ・レ



 ミクリは集中します。


 ピッチャー、第一球……投げました。



 カキーン!!



 なんといきなり豪快な一発を打たれてしまいました。


 みんながホームランだと思ったその時。


 打球がみるみる減速していきます。


 そしてセンターを守っていた八百屋のおじさんが見事にキャッチ。


 アニーズのチームメンバーはホッと胸を撫で下ろします。


 客席で応援していた3才のお孫さんも大喜びです。


 誰もミクリが魔法を使った事に気付いていません。


 上手くいったようです。



 そんな流れが続いて、この回は無事0点に抑えてチェンジです。


 1回の裏、いよいよアニーズの攻撃。


 しかしこの場でトウコからの指示はありません。


 結局、三者凡退でチェンジとなりました。


 実はこれもトウコの作戦です。



 それはミクリが魔法の特訓をしていた時のこと。


「いいかミクリ。攻撃時は誰かが塁に出たら魔法を使うんだ」


「どうしてですか? じゃんじゃんホームラン打たせちゃえば良いじゃないですか」


「馬鹿かお前、それだとチートだってバレるじゃねーか!」


 トウコの言う通り、還暦間近のおじさん達が次々にホームランを乱発するなど、不自然極まりありません。


 プロですら1試合に1本のホームランが出れば凄い事なのですから。


「じゃあ、同点のまま最終回になったらどうするんですか?」


「その時は私が指示を出す。試合の流れっていうか……その場の空気感も大事だからな」


「分かりました」



 さて、現在に戻ります。


 なんやかんやで0対0のまま、最終回の攻撃になりました。


 しかし、イケーズのベンチでは何やら内輪揉めが起きている様子。


「てめーら、なんであんなクソジジイ共から点が取れねんだよ!」


 イケーズのエース投手、イケダはイラついた態度でチームメイトに八つ当たりします。


 まさか外部から魔法による妨害を受けているなんて思いもしていないのでしょう。


「おい、イケダ落ち着けよ!」


 キャッチャーがなだめようとするも。


「うるせえ! このデブが!」


 裏拳を食らわせます。


「てめえ、なにしやがんだ!」


 やられた方は顔面をぶん殴ってやり返します。


 そして気付けば、乱闘騒ぎとなってしまいました。

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