ミクリの危険な闇バイト 3
トウコは淡々とした様子でミクリに尋ねます。
「なあ、お前はアニーズが勝てると思うか?」
「勝てるんでしょう? さっき大見得切って演説してましたよね?」
「本当にそう思っているのか? だったら節穴はお前の方だな。そもそもあんないい歳こいたジジイ達がまともに野球なんて出来る訳ねーだろーが」
「いや、さっきと言ってることが真逆! テレレレッテッテッテー♪ トウコさんはスキル
本音と建て前があまりにもかけ離れたトウコの言動に苦言を呈するミクリ。
そんなことはお構いなしでトウコは話を進めます。
「まあ、聞けミクリ。とにかく今回はお前の力がどーしても必要なんだよ。お前の魔法が……」
どうやらトウコはミクリに魔法を使わせ、アニーズを勝たせようという魂胆のようです。
「いや、ズルはダメでしょう。だって魔法はドーピングに含むってどのスポーツでも言われているじゃない」
因みにプロが使用する球場には魔力妨害のシステムが施されていて、魔法そのものが使えないようになっています。
「んなもん、バレなきゃ良いんだよ。バレなきゃ」
「うわ、最低だこの人」
そしてトウコが指定した河川敷球場は魔力妨害のシステムはありません。
魔法、使いたい放題です。
軽蔑の眼差しを向けるミクリをよそにトウコは話を進めます。
「あ、そうそう。先に報酬の話をしとかなきゃだよな。テンション上がんないもんな」
そう言いながら懐から取り出した小切手に何やら1とそれから0をたくさん書いていきます。
「これでどうよ!」
ミクリに提示したその額なんと一千万円!!
「な、何ですかその金額!?」
ミクリの両目も¥マークに早変わり。
思わずその小切手を手に取ろうとしますが。
「まだダメ!」
トウコは小切手を高く上げて、ミクリの手が触れないようにします。
「これはあくまで成功報酬! まあ、お前だって今を時めくティーンエージャーな訳だし、そろそろブランドのバッグとかそういうの興味あるだろう?」
「あります!」
「じゃあ、これでシャネ●でもエルメ●でもプラ●でも好きなだけ買うといい」
「サマン●は!? サマン●春の新作コレクションも大人買いできますか!?」
「そうかそうか、お前はサマン●派だったか! もちろんだ! これで大人の階段を上ろうじゃないかミクリ!」
「やります! 是非やらせて下さいトウコお姉さま!」
トウコの手をがっしりと握るミクリ。
「そうかそうか、やってくれるか! ふふふふ、ミクリよ。お主も悪よのお」
「いえいえ、お姉さま程ではござらぬ」
お約束です。
さて、トウコは棚から魔導書を取り出すと、パラパラとページをめくります。
「うーん……。確かこの辺に……お、あった」
開いたページをミクリに見せます。
「ミクリ、お前この魔法って使える?」
「ええ。使えますよ」
「さすがミクリ! これで勝てるぞ!」
その名はリパルション。
物体が衝突した時の反発力を自在に変える魔法です。
◇ ◇ ◇
さっそく河川敷球場に足を運ぶミクリとトウコ。
二人は客席に腰をおろします。
「お! やってるやってる」
アニーズが守備練習をしていました。
「じゃあ、ミクリ。さっそく練習してみようか」
「はい、お姉さま」
リパルションの魔法は二つの物体が触れ合う瞬間に、杖を向けて呪文を唱える必要があります。
その際、放出する魔力の加減も大事になってきます。
「ところでミクリ、野球のルールは分かってるか?」
「なんとなく」
「まあいいや。とりあえず、今回は球に対して使う。上手くいけばこの魔法のみで勝てる」
複雑な事を多くやり過ぎるとボロが出たり足がついたりします。
単純な事を如何に複雑に見せるか……。
シンプルイズベストがトウコの座右の銘です。
球を打つ人|(ノッカー)の動きを観察し、彼が球をトスする仕草……。
それからスイングフォーム等から、球とバットが触れるタイミングを計るミクリ。
物凄く集中します。
……。
…………。
………………今だ!
「リパルション!」
バキッ!!
球に触れたバットが凄まじい音と共にへし折れて、先っぽがとんでもない速さでミクリ達の方へ飛んできました。
「きゃあああ!!」
「うをぉあああ!! あぶねえ!!」
悲鳴をあげながら避ける二人。
「だ、大丈夫かー! 二人ともー!!」
ノッカーのおじさんが声を掛けます。
「な、なんとかー!」
無事であることを伝えるトウコ。
そしてミクリの方へ振り返ると。
「今どっちに掛けた?」
リパルションの魔法を球とバット、どちらを対象にしたかという意味です。
「バットです」
「やっぱりか……。私は球だと言ったよな? あと威力強すぎ」
「ごめんなさい」
「まあ、でもタイミングはバッチリ。今の感覚を忘れるなよ」
「はい! お姉さま!」
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