薔薇とバイクと延命剤 エピローグ

「僕と結婚してください!」


 男性は後ろに持っていた物を女性へ差し出します。


 それは、つい先ほどまで真っ赤に輝く薔薇の花束だった物……。


 除草剤の効果で消滅し、今やラッピングだけと化してしまいました。


 当然、男性は驚きます。


「な、なんじゃこりゃあああ!!」


 思わず後ずさりすると、ふわっとした物を踏んでしまいました。


 それは見覚えのある毛の塊。


 そしてなんだかスース―する自身の頭。


 男性は手で触って確認します。


「うわあああ! ヅラが外れてるじゃないかー!!」


 あまりに何もかもが予定と食い違いすぎる現状に、男性は両膝を地に付けて絶望します。


 一方、眼前で起こる混沌に訳が分からず戸惑うお相手の女性。


「え? なにこれ……。私は一体何を見せられているの?」


 すると男性の頭から煙が立ち上ります。


「え!? 今度は何!?」


 女性はさらに大混乱します。


 そして次の瞬間――。


 ボアッ!!


 なんと男性の頭から、とんでもない量のサラサラヘアーが生えたのです。


 男性は思わず確認します。


 自身の頭皮事情を。


 そして……。


「なんじゃこりゃああああ! でもやった、やったぞ……。何故かは分からないけど生えた! 僕の髪が、生えたぞおおお!!」


 そう、ミクリはあの時……。


 小瓶の中身を適当に撒き散らしたあの時。


 それを男性の頭に撒いていたのです。


 なんとこの魔法の延命剤、絶大な育毛効果があったようなのです。


 男性の頭から勢いよく生えたサラサラヘアーを見た女性は思わず吹き出します。


「ぷ、あはははは!」


 その笑い声で男性は我に返ります。


 好意を寄せている女性に笑われてしまった。


 男性は再び絶望し、逃げ出そうと振り返ります。


 すると、男性を呼び止めるように腕を掴む女性。


「待って!」


「え?」


「よろしくお願いします」


「え? 何が?」


「何がじゃくて……プロポーズ、お受けします」


 お相手からまさかの返しに男性は驚愕します。


「ええ!? な、なんで!?」


 こちらからプロポーズしたというのに、思わず聞き返してしまいました。


「私ね、実はずっと迷っていたの。あなたは優しいけど、いつも融通が利かない真面目人間。シャレや冗談が利かない人だと思っていて……なんだか窮屈な気分だったの」


 さらに女性は話を続けます。


「でもね……。このカオスな状況を見せられたら、迷ってた自分がなんか馬鹿馬鹿しくなってきちゃった。あなたってユーモアがある人だったのね」


 女性は眩しい笑顔で男性の手を取ります。


 そしてたまたまその場に居合わせていた人々から盛大な祝福の拍手が鳴り響くのでした。



 ◇ ◇ ◇



 あれからしばらく経って、ミクリとカレンが再びフラワーショップを訪れると……。


 店の外まで、とんでもなく凄まじい行列ができていました。


「最後尾はこちらでーす」


 看板を持って呼びかけをしていたモクレン。


 二人に気付きました。


「あ、ミクリちゃんカレンちゃん、いらっしゃい」


「モク姉、どうしたの? この凄い行列は……」


「私もよく分からないんだけどね。みんな延命剤が目当てみたいなの。あ、お花を買いに来たなら行列に並ぶ必要はないよ」


 マツバボタンの切り花が目当てのミクリとカレンは行列を横目に店内へ入ります。


 因みに客層はかなり偏っていて、中高年のおじ様達や如何いかにもストレス社会にもまれてくたびれた感が漂う男性ばかりです。


「へー。でもこの前モク姉言ってなかったっけ? あれって売れば売るほど赤字になるって……」


「なんか店長さんがね、この際だから値段つり上げちゃおうぜって……。でも何故か売れるの。不思議よねー」


「ふーん」


 自分のせいだと気づいていないミクリは、適当な返事をするのでした。



 ◇ ◇ ◇



 因みに、ミクリは万歳バイクを傷だらけにしましたが、それっぽく修復して元の位置に戻しました。


 完全に元通りにするにはその時の姿を寸分たがわず記憶している必要がある為、ミクリにも難しいのです。


 そして当然こんな事がいつまでも隠し通せるはずもなく……。


 時期にミクリは当主から大目玉を食らうことになります。


 でも、それはまた別のお話。

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