ミクリの本質 1

 長い廊下を泣きながら走り回るミクリ。


「うわあああん! メイド長の馬鹿ー!!」


 途中、アズサが廊下の床磨きをしていました。


「うわ、ミクリ!? 廊下を走ったらあぶ――」


 しかし時すでに遅し。


 アズサが持っていたモップに足を引っ掛けたミクリはつんのめって額を床に強打します。


「…………」


 床に俯せたままピクリとも動かないミクリ。


「ああもう、言わんこっちゃない」


 アズサが呆れ気味に近寄ると……。


「うええええん! 痛いよー!! うおおおおん……うおおおおん……じゅるじゅるじゅる」


 泣き始めました。


「子供かあんたは! ほら、これで顔を拭きなさい」


 ポケットから取り出した白いハンカチを差し出すアズサ。


「ズビー、ズビー、じゅるじゅるじゅるじゅる……」


 ミクリは受け取った白いハンカチで思いっきり鼻をかみます。


「ありがとう……洗って返すね」


「出来れば新品で返して欲しいな。……で? 何があったの?」


「そうだアズサー! ちょっと聞いてよー! メイド長ったら酷いの。私に魔法を使うなって言うんだよ!」


「ふーん。使わなきゃ良いじゃん」


「そんなあ……魔法を取られた私に何が残るって言うんだよおおお!」


「あんたそれ、自分で言ってて悲しくならないか? でもごめん……私にはこれ以上返す言葉が無い」


「うわあああん! ひどいよおおお!!」




 すると廊下の向こうからカレンが駆け寄って来ました。


「あ! ミクリこんな所にいた! ねえミクリ……あれをまた見せてよー! あの魔法……早くー!」


 その無垢な笑顔で、ミクリの状態にはお構いなしのご様子。


 未だ泣き乱れる同僚に変わってアズサが受け答えします。


「お嬢様。今ミクリは魔法を使っちゃいけないみたいなんです」


「ええー! 何でよー! いいから早く見せてよー! この間の鼻からメロンクリームソーダを飲み干す魔法……また見たーい!」


 それを聞いたアズサ……お腹を抱えて笑い始めます。


「あはははは! くだらねー! ミクリ……あんた、そんな事に魔法使ったの? それはメイド長も怒るって……くくくく……」


 今や魔法は無料タダではありません。


 もちろん、これにだってしっかり税金が発生するのです。


 さて、ようやくミクリは少しだけ落ち着きを取り戻しました。


「ぐすん、ぐすん、ひっくひっく……だって……お嬢様が……私をあまりにも……褒めてくれるから……見せたくなるじゃん……私の十八番芸」


「まあ、気持ちは分からなくもない。恐るべし……5才児」


 ミクリに向けてキラキラした瞳を一直線に向けるご令嬢の姿に、アズサは感服するのでした。

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