◆ 16・高次元の町(後) ◆


 私は死んだように倒れている『私の肉体』を見ている。


 回復魔法をかけているスライ先輩、傍にはライラが座り込んでいる。そして、大神殿の女神像前に立っているフローレンス。

 彼女はうっすら微笑んでいる。



 え? 私、死んでるの? 今の私が幽霊ってこと!?



 状態が分からず困惑するも、天使は愉快そうに笑う。


「死んではない。アレは魂が抜けた状態だ。ほら、ここに『中身』がでちゃってるんだから」


 私とエルロリスを示すように両手を広げている。だが全く笑いごとじゃない。これは一大事だ。


「どういう事……それってやばくないの?」

「そりゃ、ほっといたら肉体も死を迎えるよ」


 なんでもないことのように言う少年天使。


「戻らなきゃじゃん!!」

「ハハッ! それで戻れたら苦労はないよ。それに、条件足らずで戻れないよ?」



 この天使、まさか悪魔と手を組んだ私への嫌がらせを?



「フハッ。ないない。オマエたちヒトには分からないかもしれないけどね。あんなモノを消す事は大した労力じゃないさ。だからオマエが天界に悪魔どもを連れてきたいならやってみるといいよ。オマエたちヒトには、どちらの権利も与えているからね」


 謎めいた事をいう瞳は深い青。

 何もかもを見通すように私を見ている。


「つまり、ここは何なの? 夢、じゃないよね?」

「言ったろう、ココが天使の町。一段階上の世界。ヒトからは見えないが、こちらからは見通せる。更に段階があがれば、もっと見えるよ」



 いや、本当にわからない。



「オマエが倒れているのは聖女が光の……まぁ分かりやすくいえば生気を吸ったからだな」

「生気!?」

「気にするな。見ての通り、オマエ元気じゃないか」


 幽霊みたいな姿を元気扱いされても困る。

 子供天使は手をつないだまま歩き始める。つられて足を動かせば、彼は私の体の上を踏みつけて歩く。


「ちょっ」


 流石に立ち止まる。

 彼の足は私の肉体を突き抜けて立っている。



 あれ? こいつも……いや、まぁ天使だし? 幽霊みたいなもんか。



「一段階高いっていうのはこういうことさ。触ろうと思えば触れるけど触る必要がなければ触らずにいられる。そして知ろうとすれば、知ることができる。なんでも、だ」

「心が、みえる……」


 少年天使の反対側で手をつないでいるエルロリスが呟く。


「そうだよ。オレたちは見えるし触れる。肉体、精神、魂、全てに触れ見る事ができる。それが一つ上の世界だよ。ヒトには辿り着けない世界でもある」

「……なるほど? つまり、何でもお見通しだぞって言いたいのよね?」


 エルシアは私の手を離した。

 途端に世界は元の白い靄の何もない空間になる。


「分かるか? 今のがヒントだ」



 え?



「この子を抱いてくれた、オマエへのサービスだよ」


 そうして少年天使はウィンクをした。本人はチャーミングなつもりかもしれないが、今度こそ私はその頬に向けて、拳を繰り出した。



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