◆ 6・探る者たち(中) ◆


 スライ先輩が入ってきたライラに告げる。


「掴んだ情報を話すぞ」


 目を閉じていても、シャーロットの親友ライラからは怒りが漏れているのが分かった。彼女は何も言わない。それでも私は――何故だか、安心した。

 シャーロットを思っている人がいる。それがとても嬉しい。だから私は椅子に縛られた状況でも聞けた。


「お願いします。私はたぶん……色々と知らなければいけないんだと思うから」


 縛られたまま、頭だけを下げる。

 目は合わせない、もう二度と――。



 二人の説明からシャーロットという人物のヒトとナリが分かった。

 それでもやはり、違和感しかない。



 シャーロットは、やはり私じゃない気がする。私はそんなに強く、堂々とものを言えるだろうか?



 欠点はあれど、躍動的で自分を持っている強い女性――シャーロット・グレイス・ヨーク。基本、彼女は嫌われているという。

 はっきりと物を言うし、強気で何でもやってしまうのだという。やらずに後悔よりはやって後悔。それが『チャーリーなの』と、ライラは笑った。

 

 婚約者のカエル王子も、まるでルフスとは正反対だ。思慮深く穏やかで、人に命じるよりは命じられるくらいが丁度良いのだと話していたという。

 スライ先輩にとっても大事な友人なのだと、言葉の端々から伝わってきた。


「はっきり言えば、俺たちはお前が成りすましているとばかり思っていた」

「……ごめんなさい。本当に、記憶がないの」


 申し訳なくなって声が小さくなる。


「いや……調子が狂うな。お前の見た目はシャーロット・グレイス・ヨークそのものだし……」


 先輩は戸惑ったように呟く。



 どうしてこうなったんだろう?

 ルフスとカエル王子が別人なら、どうしてルフスは王子のフリをしているんだろう?



「お前は、実際のところ……人間なのか? さきほど俺を魔法でもない不思議な何かで命じただろう?」

「……ごめんなさい、分からないの」


 何も分からない。

 悲しくなって俯く。


「なら、聖女に逢うのが一番だろうな。先日、聖女はあらゆる病を治すという。……俺たちが怪しんだ理由の一つがそこでもある。聖女は、先日見つかった。勇者たる王子の呪いを解き、闇を払った」


 それは聞き覚えがある。

 家でも皆がその話をしていたし、ルフスも話していた。


「聖女は……お前の妹だ」

「妹……」



 なぜだろう、しっくりこない。

 私に妹?

 兄じゃなくて? 兄……どうして兄……?



「あ、に」


 ポツリと漏れる。

 閉じた瞼から涙があふれる。



 わけもなく悲しいよ……、ここは、どこなの……? まるで知らない世界に、置き去りにされたみたいだよ……!



 ライラが近づいてくる音がする。

 縛っていた紐を解いてくれたのだと、体で分かった。


「……可笑しな真似をしたら、刺します」


 真剣みを帯びたライラの声にウソはない。

 私は頷いた。


「妹、会います……案内していただけませんか?」


 彼と彼女は顔を見合わせ、頷いた。



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