◆ 5・探る者たち(前) ◆


 夕日のさしこむ大きな窓。

 私は椅子に縛られている。

 縛った人は怖い顔で、さっきから何も言わない。


 学校の生徒全部をまとめる長――生徒会長オズワルド・スライ。一学年上の先輩だ。最近の私は、人の心を見る事に疲れていた。

 彼の呼びかけにも、目を合わせなかった。


 だから彼が「忘れ物がある」と言った時、その言葉は挨拶のように普通に聞こえたのだ。

 言われるままついていき、部屋に入るなり縛られるとは思っていなかった。


「あの?」

「誰なんだ?」


 真意を聞こうと口を開くも、先輩の方が強い口調でかき消してくる。



 え……と、意味が。



「お前はヨーク嬢じゃない。見た目はそっくりだがな。それに、あの王子も王子じゃない。お前らは何者だ。ヨーク嬢とアレックスをどこへやった?」



 アレックス……は、ルフスの事よね。



「アレックスも、……違うの?」

「も?」


 先輩が耳ざとく繰り返す。

 私は目を合わせる。


「 〈 どういう事だ? 自覚がないのか? そんな言葉で騙しおおせるとでも思っているのか? 〉 」



 やっぱり、何かが可笑しいって思ったのは私だけじゃないんだ……! でもそれって、ルフスが……。



「あの……教えてもらえませんか? 私、記憶がなくて」


 言葉を切り、考える。彼は警戒している。何を言えば穏やかに話せるだろうと思考する。

 思考する。

 思考する。


 彼の瞳を見つめ『思考』する。



「 〈 教えて、シャーロットの事、全てを 〉 」


 私の口は動かないのに、心が命じていた。

 先輩の唇が、目が、戦慄く。


「か、え……カエルじゃないっ。あの男は、お前のっ、騎士だった男だ! あの男は人間でもない! お前も!」



 騎士……? ルフスが……騎士? 違う。それは絶対に違う! 私を守る人は、……守る人? 守ってくれた人? 守ってくれてた人……が、いた。

 そうだ。

 いた。

 誰?



 ふいに意識の底で何かの断片がよぎる。



 金色。



「きんいろ……」


 視線を外せば、先輩が膝をつく。

 肩で息をしながら、忌々し気に舌打ちをする。


「貴様っ、本当に……、何者だ!」

「私、『シャーロット』だって、言われたの。でも、違うのね」


 それはストンと心に落ちて定着した。


「私は『人間』じゃない」


 心が見える。

 思うだけで命じられる。

 この地面を歩く違和感。

 どれもが私に『可笑しい』を伝えてくる。


 私は目を閉じた。


「教えて、スライ先輩。シャーロットの事、カエルの事、……ルフスの事」


 今度は命じない。

 沈黙の時間。

 彼は逡巡しているのだろう。そうして、ガラガラと扉を開ける音がした。


「お待たせいたしました、無事完了ですわ」


 ライラの声――『シャーロット』の『親友』と聞いた人だ。


「もうしばらくなら、あちら……足止めできそうですわ」



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