◆ 3・真相と密談 ◆
カエルと顔を突き合わせ、気分は沈んでいる。
神が敵とか、勘弁してほしい。どこの英雄小説だ?
そりゃぁ、妹は聖女で? 聖女が勇者を選んで? 二人で魔王討伐とかに出かけちゃったりとかするわけだけど?
ついでに言えば私の婚約者も、覇王予言とかされてるわけだし……。
「ないわ!!!」
叫ぶ。
神が敵とか……もう全方位に狙われてるというか、呪われているというか!? どうやって生き残るよ??
いっそ知りえた情報を全部、神に差し出して保護を求めたい。
……悪くない案かもしれない?
目指せ、スパイの道か。
捨て鉢的な思考がグルグルしていると、くだんの婚約者ことカエルが冷静にオリガの背後に広がる森へと歩いていく。
「チャーリー。今から取れる手段は三つだよ」
「あるの?? 手段が!!!」
ついていけば、本物の草の匂いがした。
柔らかな風が頬を撫でる。
カエルはおもむろに座り込み、草の大地から草を引き抜き始めた。
「ふぁっ!!!!! 何をするっっ、貴様っっ、生物は皆がんばって生きているのだぞっ、しかも! その芝生はオレが丹精を込めて育てて……っ!!」
「すみません、オリガ様。チャーリーにも分かるように、ちょっと書きたいモノで」
「そうね。目で見た方がわかりやすいわ」
オリガがパチリと指を鳴らす。
白墨と黒い板が床に現れる。
「ソレに書け! オレの庭をいじめるな!」
「ありがとうございます」
カエルはさっさと白墨を手に取り、座り込んだまま書き始める。
≪ 啓教会=主神は初代聖女。 ≫
「天使にとっての神も、オリガの言う神もエルキヤを指してるね。ボクらにとってはエルキヤは神話の中の存在で、古き神だ。むしろ名前も知る者が減り、授業などでも習わないからどんどん風化している神だね」
「そうね、私もただの呪文だと思ったし」
「その理由が今判明したよね?」
カエルをじっと見る。
カエルは何かを察したように言葉を付け足した。
「オリガは人間の信仰が神の力になると知り、封じた。つまり忘れさせようとしたんだよ、そのために別の神格化存在を作り出したって事さ」
「ほぅ?」
「つまり啓教会を作ったのはオリガ、あなたですね?」
≪ 忘れられし神(昼)エルキヤ=オリガの敵/封じ手としての啓教会。 ≫
地面に書かれた文字を見て、オリガが鷹揚に頷く。
「そうだ。オレが聖女だった彼女を称える為に作った団体だ。神の力を削ぐ為のアイコンに仕立て上げたんだ。お陰でこの千年、神は――ってわけだ。まさに啓教会そのものが――と言えるな」
啓教会が、オリガの作った集団?
だったら、あのイノシシの……あれらの意味、モンスターの意味……!!
本来オリガに会おうと思った理由を思い出し、勢い込む。
「チャーリー、天使が何者か知ってる?」
「へんた……、まぁ変わった人たちよね?」
「そうだね。不思議な存在だよ、さっきのオリガの記憶でもそうだけど、神とは分離して自由に動いているようにさえ見えた。少なくとも、天使はオリガの提案を受け入れた過去がある。神への裏切り行為だよ。一つ目の方法としては天使と手を組む案」
「あいつらと?!」
「天使には天使の理があって動いているように見えたんだ。だから神が与えているという『祝福』について、もっと知れれば……」
オリガを見るカエルに、彼女は目を逸らす。
「天使とは協定がある。オレには答えられない。だが、一つ言える事は人間が思ってるよりは天使は有能で強力だ。神と違い、――ができない。オレの行きついた『祝福』に関する情報も確実性はない。第一、それの為に神に――する意味が分からなかったからな」
「そうですか……」
カエルはまた白墨を動かす。
≪ 夜の神エルティアが支配する獄界=悪魔と魔王の世界。 ≫
「文献によれば夜の神エルティアは獄界に堕ちたとある。獄界は天界侵攻を目論んでいる。これは一見すれば地上は二の次の話だよ。そこで、二つ目の案は悪魔や魔王と手を組むって事」
「私はそれに一票ね!」
「でもこれには問題がある。魔王vs聖女の構図は大昔から揺らがない現実だよ? 聖女を生贄のように差し出す事で協定を結ぶ事になりかねない。代わりに向こうにも魔王を差し出してもらえる可能性もあるけど……」
フローレンスを差し出すのは、ちょっとね。
天使のおっさんの言葉をまだ信じるなら、フローレンス死亡系の選択肢は一番最後に回しておきたいわ。本当に差し出して全て事もなしってんじゃないなら。
「三つ目はちょっと難しい話になるけど。まず聖女を見つける」
聖女なら家にいるわね!
「アレックス、それで?」
「勇者を見つける」
あんたが勇者候補と思いますが?
「で?!」
「魔王と連合軍を作り、上を攻め落とす」
うん、あんた予言の通りの男だよ!!!!
「実際はそこまでうまくも行かないだろうから、せめて調停のテーブルにはついて貰えるくらいの『打撃』を与えたい所だね。勿論、簡単な道じゃないよ」
「そ、そーだね? いやいや、よく考えて?! あんたは分かってないよ、天使ってのは時間も止められるし、刑罰とか言って永遠ループに叩き落としたり、ホントやばい存在だよ。第一、啓教会はどうするのよ。天界に喧嘩売るなんて、とんでもない宗教戦争になるわ」
カエルは不思議そうに首を振る。
「いや、それはないよ。啓教会は別名聖女教で主神は初代聖女ヴィクトリア、人が信仰されて神となったパターンだから、エルキヤ達は関係ない事になる。啓教会の聖地も産まれた廃村に巨大な神殿作ってるし」
確認するようにオリガに目を向けるカエル。
オリガは頷いた。
「魔王との連合軍は良い案と思うぞ。だが、問題は魔王を見つける事の方が大変だろうがな?」
いやいや、あんたら知らないかもだけど、啓教会は現状一番ヤバいんだって!!!
「その啓教会の主神と『すたれた神』は互いに敵って事は分かったわ。でもね、問題は何だって、その啓教会が変なこと始めてるかよ! モンスター作ってんじゃないの?! 私、見たんだからね! 変なイノシシとか、ヤバそうな部屋とか!」
カエルは驚いたように立ち上がる。
「そうなの?! 啓教会がモンスターを製造???」
「そうよ、変な部屋にイノシシの置物あって割れてたもん。オリガからの手紙もあって、私はココに来ることにしたのよ? ちゃんとそこら辺の説明して。正直オリガの不幸自慢とか過去とか結構どうでもいいし」
話の長いオリガの事だ、下手をしたら何時間でも話し続けるだろう。
ガツンと言っていく必要があった。
たとえ、涙目になって「オレの頑張りを不幸自慢とか……」と嘆いてもだ――。
「オリガ、本当にミランダ達はココにいるの? 大体なんで連れ去ったのよ」
「あの者らなら、別の所に閉じ込めてる」
「私ね、こうみえて相当……啓教会とミランダに思うところがあるのよ。だからちゃんと答えてくれる? 啓教会の目的とかその辺の事ね。大体何度も殺しにきたあいつらを助ける意味があるのか、私には分からないんだから」
「え? 殺しにって、チャーリー??」
カエルが驚くのを無視して、オリガをにらみつける。
彼女ははこてんと首を傾げた。
「啓教会の目的? オレは引きこもってるんだぞ? 知るわけない」
「じゃ何で私を呼んだし!!!!!」
「だが想像はできるぞ? 恐らくお前と同じ『悪役』を全うしようとしたのだろう。聖女覚醒に闇が必要だ。そもそも夜の神が戻れない事で色々と不都合が出ているのも確かだ」
どんだけ『悪役』がいるのよっっ!!!!
そんなんだから、地上真っ黒になるのよ!!!
「双子神は昼と夜を司る。闇であり光である。だが、今は片方しか存在していない為にバランスが崩れてしまった。地上は――、神が――世界になった事で――も戻れない。そこで、――をしようとしたわけだが、天使たちとて地上の――なわけだ」
相変わらず、オリガの話は穴だらけだ。
本当の意味で穴だらけで伝わってこない。
つまり、夜の神が戻れない事で『ことわり』とやらがグチャったと。
「オリガ様、結論だけお願いします」
長くなりそうな予感がして遮れば、彼女は少し悩み応える。
「人間の闇が魔王を生み、光が聖女を生む。闇が強すぎて、聖女は殺され続けた。今の聖女も純粋な光たりえず弱き存在となっている。今の聖女もすぐ死ぬぞって事だ。なので、――を強め、光の力を聖女に集めようと悲劇を起こしているのだ」
カエルを見れば、コクリと頷く。
「人智を超える辛い時、祈るって構図だね。その力を見込んで災害を起こしてるって言ってるんじゃないかな?」
成程。
なんて迷惑な事を……。
「結局、ミランダ達を捕まえた理由は何なの?」
「オレはいつもお前を見ていた。シャーロット・グレイス・ヨーク、オレも『理』を外れた者だ。箱庭外の存在だ。なので、ループも全て見ていた」
ほう?
「何度かココに呼ぼうとも思ったが、危機回避能力だか何だか知らないが、実に見事な避けっぷり。今まではそれでも良かったが、今回初めて、停止した時間があった事に気づいたのだ。オレは何としてでもお前と会う必要があった。荒らされた部屋、槍、黒塗りの手紙、あれだけの不穏さを出せば否が応でも来るだろう?」
「イノシシの置物が割れていたりで、気になってきました。手紙は無視る予定でしたが?」
オリガは悲し気に俯く。
「で、そうまでして何で私を呼んだのよ」
「覚悟を決めてもらう必要を感じたからだ」
「覚悟? 私が??」
「オレの事をどう聞いている? お前たちは」
「どうって……オリガは魔女でしょ、悪い魔女」
「概ね、チャーリーの言う通りのイメージですね。魔女という言葉の概念すらも変えてしまいました」
高位の魔法使いへの相称が、オリガ以降は悪い魔法使いを指す言葉になってしまったのは有名な話だ。
「オレの有能さの所為か、……罪深いな。実は本には嘘もある」
そこは覚悟してましたし、もう了解してますが。
「オレはお前と同じだ。歴代の『悪役』たちにも話してきた事だが……オレもお前と始まりは同じだった」
「……箱庭刑?! 死に戻りまくったの????」
「いや、ソレはない」
「ないのかよ!!!!!!」
「すまん。天使の陰湿な術など、オレは掛けられる前に気付くしな。同じというのは『悪役』に割り振られた事だ」
「悪役令嬢……?」
「それは今風の呼び方か? オレはすべき事を為した。立ち位置が違えば正義も悪だ。気にするな。オレは割り振られた道を歩み、別の道を選択し、勝ち得た」
重苦しい顔で私を見るオリガ。
「お前はオレと同じ道を歩めない」
「……でしょうね?」
オリガは天才と呼び声の高い人物だ。
たとえ人間的にバカでどうしようもないタイプの人間だったとしても、その評は間違いなのだと――この空間を見れば分かる。
「お前の半分が『天使』だからだ」
思っても見なかった言葉に、私たちは黙り込んだ。
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