第42話 東洋艦隊壊滅
第一艦隊ならびに第二艦隊から発進した二五三機の零戦と一〇一機の一式艦攻が東洋艦隊上空に到達、その陣形を確認した攻撃隊総指揮官の三宮中佐が命令を発する。
「攻撃は先に零戦、その次に一式艦攻の順とする。零戦隊は『天城』と『葛城』、それに『笠置』と『阿蘇』のそれぞれ第一中隊が無傷の駆逐艦を狙え。
残りの零戦については第一艦隊は機動部隊、第二艦隊は水上打撃部隊の損傷した巡洋艦ならびに駆逐艦にとどめを刺せ」
一呼吸置き、三宮中佐は命令を続ける。
「雷撃隊の目標は『天城』『葛城』敵戦艦一番艦、『大和』『比叡』二番艦、『笠置』『阿蘇』三番艦、『武蔵』『霧島』四番艦とする。
全機突撃せよ!」
三宮中佐の命令一下、零戦が中隊あるいは小隊単位に散開して目標と定めた巡洋艦や駆逐艦に向けて降下を開始する。
「『葛城』第一中隊続け!」
無線に叫びつつ、三里大尉は目星をつけた無傷の駆逐艦に機首を向けつつ降下に入る。
一〇機の部下たちも遅れずに追躡してくる。
三里大尉が直率する「葛城」第一中隊は午前中は一式艦攻とともに東洋艦隊撃滅の任にあたっていた。
しかし、迎撃戦闘機は現れず、三里大尉と部下たちはただ一式艦攻が奮闘している間、警戒飛行を続けるしかなかった。
そして、帰投した三里大尉に「葛城」艦長から直々に新たな任務が言い渡される。
「第一中隊で無傷の英駆逐艦を撃破してもらいたい」
午前中の攻撃で英空母がすべて撃沈された、つまりは敵戦闘機はいなくなったからと言って零戦の仕事が無くなるわけではない。
零戦を戦闘爆撃機として機能させるよう、搭乗員はその誰もが緩降下爆撃の訓練を受けている。
主な目標はもちろん水上艦艇だ。
さらに付随して対潜訓練や地上襲撃訓練もこなしていたから、爆撃機搭乗員としての腕も兼ね備えている。
特に「天城」や「葛城」、それに「笠置」や「阿蘇」といった帝国海軍の中で最も古い空母は、それゆえに熟練者の数が多く、搭乗員の平均技量も他の空母よりも一段上をいっていた。
中には訓練爆弾を戦車のダミーのような極小の的にあっさりと直撃させるような化け物までいたが、これはまあ例外だろう。
「葛城」第一中隊はもともと一二機編成だったものの、しかしそのうちの一機が発動機不調で出撃出来ず、一一機での攻撃となってしまった。
しかし、三里隊長はそのことについてはさほど気にしていない。
無傷ゆえに英駆逐艦は全力で回避運動を行い、さらにすべての対空火器をこちらに指向してくる。
しかし、太平洋で干戈を交えた米駆逐艦に比してその火力は小さい。
米駆逐艦の主砲が対空戦闘を見据えた両用砲であるのに対し、英駆逐艦は旧態依然とした平射砲なのだろう。
それに、明らかに機関砲や機銃の装備数も少ないからなおのことその差は顕著だった。
零戦の防弾性能に絶大なる信頼を置きつつ、英駆逐艦上空の投弾ポイントに遷移した三里大尉とその部下たちは次々に二五番を投じていく。
真っ先に投弾した三里大尉は下方に視線を向けつつ、英駆逐艦の艦上に二つの爆煙が、さらに舷側すれすれに九本の水柱がわき立ったことを確認する。
防御力皆無の駆逐艦が複数の二五番の直撃を食らい、そのうえ九発もの至近弾を食らってしまっては浮き続けることはまず無理だ。
狙われた英駆逐艦の水線下は二五番の水中爆発の衝撃によって多数の亀裂や破孔が生じていることだろう。
「帝国海軍屈指と言われた『葛城』第一中隊としては不満が残る命中率だが、それでも英駆逐艦撃沈という目標は達成したから、まあこれで良しとするか」
そうつぶやきながらも、三里大尉は満足を覚えている。
被弾した機体はあったものの、それでも誰一人として部下を失わずに済んだからだ。
零戦隊の攻撃が終了するのと同時に一式艦攻隊もまた突撃を開始した。
敵四番艦を狙うよう指示された「霧島」艦攻隊長の湊川大尉は目標とした戦艦が自分たちに対してその横腹を大きくさらけ出してきたことにほくそ笑む。
「霧島」艦攻隊は「武蔵」艦攻隊とともに敵四番艦を雷撃するよう指示されていた。
攻撃方法は雷撃としては一般的な挟撃であり、「霧島」艦攻隊は左舷から、「武蔵」艦攻隊は右舷からこれを行う。
戦闘開始時点で「霧島」艦攻隊は一八機、一方の「武蔵」艦攻隊のほうは実に四八機もの一式艦攻を擁していた。
そして、第二次攻撃に投入された「霧島」艦攻隊の一式艦攻が八機なのに対し、「武蔵」艦攻隊のほうは単純な比率で考えても二〇機以上、場合によっては二五機近くに迫るはずだった。
敵四番艦の艦長は常識的な判断として、数の多い「武蔵」艦攻隊への対処を優先させたのだろう。
敵四番艦が「霧島」艦攻隊に対する回避運動を切り捨てた以上、命中は約束されたも同然だった。
湊川大尉は胸中で欣喜雀躍しつつ、部下の機体を理想の射点へと誘う。
「撃てッ」
湊川大尉がそう号令をかけ、魚雷を投下しようとしたまさにその時、彼の一式艦攻が爆散する。
いかに防弾装備が充実した一式艦攻といえども、機関砲弾かあるいは大口径の艦載機銃弾の直撃を、しかもカウンターで食らってしまってはさすがにもたない。
しかし、彼の部下たちは指揮官を失ってなお慌てることもなく次々に魚雷を投下していく。
左右両舷から迫りくる三〇本近い魚雷の包囲網から逃れることは、たとえ高速戦艦や身軽な駆逐艦であっても至難だ。
まして、脚に難のある「リベンジ」級戦艦であればなおのことだった。
敵四番艦は両舷に巨大な水柱を次々に立ち上らせ、それこそあっという間に波間へと没してしまった。
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