03 パワーワード

「何この凄い魔力……」


 ティファーナは僕から溢れる魔力を見て驚いている様だ。


 でもね、1番驚いてるのは僕!だってこんな量の魔力出したことないもん!

 

 しかもいつもより何か魔力の輝きみたいなのが強かったし、それにティファーナの腕に光っている“紋章”みたいなのは何だ。僕の魔力とは関係ないのか? 色々どーなってるの……⁉


『ヴオ"オ"ォォォォッ!!』


 お前もしつこいんだよリヴァイアサン。もういい、取り敢えずごちゃごちゃ考えるのは後だ。


「ティファーナ! これでいける?」

「いけるも何も、これ……力が漲ってしょうがない。こんな“強力”な魔力使えるならリヴァイアサン倒せるかも!」

「え⁉ いや、無理して戦わなくていいから兎に角逃げよう!」

「そうね、分かった。じゃあしっかり捕まって!」


 ティファーナはその魔力で何やら僕の顔を覆った。


「これで大丈夫! それなら海の中でも呼吸が出来るから、振り落とされない様に頑張ってね!」


 え、振り落とされない様に……? それに今何かした? ビックリするぐらい変化がないんだけど。


 そう思う僕の気持ちは無視し、ティファーナは人魚族本来の力を発揮したのだった。


「う‟る‟ぁばばッばばッばッばばッばッば!!」


 ロケットスタートを切ったティファーナの遊泳は最早拷問。


 ティファーナのお陰で確かに水中でも息が出来るみたいだがそれどころではない。全身に力を込めて何とか捕まっているが、水圧が凄まじ過ぎる。こんなのいつ振り落とされても可笑しくないぞ!まともに呼吸が出来んッ!


 とてつもなく長く感じたが、時間にして僅か3,4秒の話だ。


「大丈夫?」


 一旦水面へと浮上したティファーナは、気を失いかけている僕にそう声を掛ける。


 全身に力を込めていたせいか、掴んでいた力を抜いた途端急に倦怠感と眠気に襲われた。だからと言ってこんな所で眠れるわけない。僕は必死に意識を保ち、ティファーナに言葉を返した。


「う……うん。なんとか……ね。リヴァイアサンは……?」

「もう安心よ。ほら」


 ティファ―ナが僕の後ろを指差す。

 振り返ってみると、水平線の遥か先、小さいリヴァイアサンの姿が確認出来た。リヴァイアサンも完全に僕達を見失ったのか追ってくる気配はない。


 これが人魚族の遊泳スピードか。恐ろしかった。


「ちょっと待っててジル。私やっぱり“イケそうな”気がする!」


 疲れているせいか?


 絶対に違うのに、ティファ―ナの今の発言が如何わしく聞こえた。16歳の健全な男の子なら普通でしょ? それに僕は今とてつもない疲労感に襲われているんだから。


「何の話?」

「だ・か・ら! 今の私なら倒せるわ、リヴァイアサン」


 逃げ切ったんだからわざわざ倒さなくて良くね?


 これが瞬時に出た僕の率直な意見。でも流石にそこまでストレートに言える性格ではない。


「無理に危険な事しない方がいいよ」

「ダメよ! 私の婚約者を“2人”も襲ったんだから、ガツンと食らわせなきゃね! それに今、凄い力が溢れているの。抑えきれないわ」


 そうだ、忘れてた。

 急に言い出したこの婚約者発言から僕の頭が可笑しくなったんだ。僕の脳では処理が難しい。


 婚約者ってワードだけでもまだ理解出来ていないのに、2人ってまたどういう事ですか?


 ティファーナ。

 君の過去に何があったのかとても気になるよ。


「待っててね! 秒で片づけてくるから!」

「ちょッと⁉  って、本当に行っちゃったよ」


 ティファーナが潜った3秒後。


 彼女はリヴァイアサンの近くで勢いよく海面から飛び上がると、その勢いのまま全身から溢れる魔力で攻撃魔法を繰り出した。


「“人魚の涙ラクリマ”!」


 辺りの海水が渦を巻いて上空に上がっていき、体長の大きいリヴァイアサンを遥かに凌ぐ程の海水の竜巻が、空から強烈な一撃となってリヴァイアサンを襲った。


 ――ズガァァァァンッッ!!

 攻撃を受けたリヴァイアサンは、暗い海底へとその巨体を沈ませていった。


「やったやった! やっぱり倒せた。凄い魔力ねコレ!」


 リヴァイアサンを倒したティファーナは、速攻で僕の元に戻って来るや否や抱きついて喜んでいる。


 僕はそんな抱きつかれている彼女の柔らかいおっ〇いで窒息しかかっているが、これで死んでも別に文句はない。むしろ贅沢だ。こういう人生の終わりも悪くない。本当に馬鹿な事が頭に浮かぶな僕は。


 そんな事より、何故僕はあんなにも魔力を渡せたのだろう?

 それにいくら魔力を渡したからといって、そもそも戦闘力が高くない人魚族がリヴァイアサンを倒せるとは到底思えない。いや実際に倒しちゃってるんだけどさ。


 魔力があれだけ出たのも不思議だし、ティファーナの言った通り魔力が強かったな。腕に光っていた紋章の様なマークも何だったんだろう?今はもう付いていないみたいだ。


「それにしても、今日は運命の日だったわ! 婚約者を失った日にまた新しい婚約者と出会って、しかも初めての共同作業まで済ませてしまいました。ジル、これが結婚なのね!」


 おぉ~~~っと。コレコレコレコレコレコレッ。これだよコレ!

 リヴァイアサンと同じぐらい僕を襲ってるこのパワーワード。


 ティファーナ、君は一体全体何を言っているんだ?

 海のど真ん中でするような話じゃないけど気になってしょうがない。僕は思っていた疑問を全て彼女にぶつけた。


「ティファーナ、改めて助けてくれた事はありがとう。君は命の恩人だよ」

「婚約者のあなたを助けるのは当然よ!」

「うん。それなんだけどね。さっきからず~~っと気になっているんだけど、僕は君に婚約者って言われてる事に間違いないは無いよね?」

「ええ」

「よし。ここからはもっとゆっくり順序良くいこう。そうだな……最初から言っているその婚約者が何故僕なのか教えてほしい」

「ああ、それね。今思い出しても腹が立つわ……!」


ティファーナはそう言って事の成り行きを全て話してくれた――。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【あとがき】

お読みいただき有り難うございます。

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