第55章 陰謀と答合わせの結婚式(2)

第240話 新たな軽便鉄道の予感と洒落にならない事態

「何と言うか、大変だな」


 本音でそう感じる。

 カールの処理能力でそれなら通常人なら潰れるだろう。


「仕方ないといえば仕方ない。元ゼメリング家の一員としての責任も感じるしな。来年度の終わりくらいまではこんな感じだろう。


 それに手をつけた部分そのものは順調だ。まだ3ヶ月だから後でどうなるかはわからんがな。

 それでも現状が酷すぎるから何をやってもそれなりに効果はある。その点だけは気が楽だ」


「とりあえず現状が大変なのはわかった」


 何と言うか、とんでもなさそうだ。


「ただ、そのうち鉱山関係で北部大洋鉄道商会そっちに頼む事になるだろう。調査が終了した後だから3月くらいだろうと思うが」


 そう言えば鉱山について以前にも言っていたなと思い出す。


「具体的にはどんな感じだ?」


「鉱山関係一式だ。マンブルズ鉄鉱山ほど大がかりでは無いがな。

 具体的には選鉱施設、溶融型分離炉、トンネル工事一式、カスタムの小型鉄道一式だ」


 カスタムの小型鉄道一式か。

 何と言うか鉄的にもう興味しか無い。


「カスタムの小型鉄道とはどんなものだ。森林鉄道パッケージでは駄目なのか」


 駄目であって欲しい、新たな鉄の世界を広げて欲しい。

 そう思いつつ尋ねる。


「鉄道は鉱山内と選鉱作業所、精錬場、そしてディルツァイトを結ぶものとなる。

 経路を考えるとどうしてもほとんどはトンネルだ。ならトンネル断面積は最小にしたい。


 しかしあまり小さいと人を運べない。距離が最大区間で9離18kmあるから坑内用そのものでは速度が遅すぎる。

 その辺りを考えた場合、森林鉄道車両より小さくマンブルズ鉄鉱山のトロッコより大きいサイズが最適だ。


 既存パッケージそのままよりは高くつくだろう。しかし工事費と維持費を考えれば、それでも小さく作る方が結局は金がかからない計算になる」


 おお、完璧だ! これで新たな鉄道が!

 もう少し詳しく聞いてみよう。


「具体的にはどれくらいの大きさで作るつもりなんだ?」


「レールは森林鉄道支線用6重レール18キロレール※、軌間60指60cm、車両は長さ3腕6m4半3腕1.5m高さ1腕2m程度で考えている」


 サイズ感としては立山砂防工事専用軌道くらいだろうか。

 何と言うか、鉄的に非常に楽しみだ。


「わかった。何なら今から準備しておくか?」


「その必要はない。こっちの計画が出来次第、北部大洋鉄道商会そっちの様式で設計図や要求書を作って直接行く。他に溶融型分離炉や選鉱施設、採掘ゴーレムも必要だからな。更についでに頼みたいゴーレムもある。その辺含めてまとめておく」


 カールは鉱山関係設備については専門家だ。

 そもそもうちの工房は元々は鉄鉱山所属。

 下手に誰かにやらせるよりカール自身が設計なり何なりした方がよっぽど良さそうな気がする。


「わかった。楽しみにしている」


 本当に楽しみだ。

 うちの量産規格とは異なる独自サイズの鉄道が。


 さて、もう少し時間があるようだ。

 他の事も聞いておこう。


「それにしても結婚式を此処で、王族まで呼んでやるとは思わなかったな」


 カールは何とも言えない表情をして、ため息をついた。 


「元々は両殿下やダーリントン伯、そしてリチャードの実兄と義理兄の陰謀だ。ただ実利的な理由も出来たらしい」


 実利的な理由?

 カールの口調から微妙に危険な雰囲気を感じる。


「聞いてもいいか」


「今はやめておこう。まもなくわかる筈だ」


 まずます危険な予感がする。

 カールは本来こういった隠し事はしない性格。

 つまり今回は言えない確固たる理由があるという事だろう。


 ふと思い出す。

 そう言えば騎士団車両、1編成をここに留置するなんて運用をしている事を。

 その事がこの件に関係あるのだろうか。


 ただこの件を今考えてもどうしようもない気がする。

 少なくとも僕に出来る事は無い。

 そう思った時だった。


 こちらに向かって急いでいる魔力反応を感知した。

 この反応を僕は知っている。

 今回同行しているシックルード家の警備担当の1人、イナクトさんだ。


「今の質問の答が来たようだ」


 どういう事だろう。

 嫌な予感しかないのだけれども。

 

 扉がノックされる。


「シックルード家警備担当のイナクトと申します。大変申し訳ありませんが、当家のリチャードに至急報告で参りました」


「入ってくれ。鍵は開いている」


 カールの言葉でイナクトさんが入ってきた。


「失礼します。リチャード様、こちらになります」


 メッセージ用のカードを一枚渡される。

 とんでもない内容が書かれていた。


「騎士団車両、王都バンドン直轄領エイダンで襲撃される。

 皇太子殿下及びアメラ妃、第二王子殿下及びアイシャ妃、フェーライナ伯爵夫妻に被害無し」


 僕は理解した。

 改革派の中心人物とみられていた皇太子と、同じく改革派であるフェーライナ伯、そして新たに文部卿に就任した第二王子を狙ったテロだと。


 そしてこのテロはおそらく仕組まれた、もしくは誘い出されたものだ。

 他ならぬ皇太子側によって。

 カールが言った実利的な理由とはおそらくその事だろう。


 しかし何処がどう動いてこうなったのかまったくわからない。

 より詳細な情報が欲しいところだ。

 たとえ僕自身が動ける事が何もないとしても。

 

「此処の事務室へ行ってきた方がいいんじゃないか。リチャードがここにいるとわかっているなら、商会も続報を寄こすだろう」


 確かにカールの言うとおりだ。

 ならば……


「イナクトさん、僕はこの施設の事務室に行ってきます。ローラとウィリアム領主代行に連絡を御願いします」


「かしこまりました」


「じゃあカール、行ってくる」


「ああ」


 僕は部屋を出て施設の事務室へ向かう。

 前に来た時も連絡を受けて事務室に向かったな。

 そんな事を思いながら。

  

※ この世界では1腕(2m)あたりの重さなので、日本のレール(1m単位の重さ)にすると半分になります。

  ですので1腕で6重(2mで36kg)のレールは、日本的表記では18kgレール(1mで18kg)です。

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