第228話 製作ジャンキーの現況

 ヒルデ課長には資材の提供と風呂実験施設横の空き地提供で了解して貰った。


「参考までに聞くけれど何を作る気だ?」


「女子用の仮眠室とトレーニングルームです。いまのところは」


 また商会長や総務部の管轄外となる福祉施設が増える模様だ。

 ただ現在の風呂実験施設は女性陣には概ね好評。


 そしてこの国フェリーデやシックルード領には建築確認なんて制度や不動産取得税なんてものはない。

 ついでに言うと固定資産税も都市計画税も無い。

 というかフェリーデこのくにではそもそも建物にかかる税金は存在しないのだ。


 これらに類するものは土地使用税が土地の場所と面積に応じてかかるだけ。

 国や領主から土地を借りる為の賃料みたいな扱いだと思ってくれれば間違いない。

 だから建物を勝手に建てても問題は無い。

 というのはまあ余談として。


 とりあえず話がまとまったので、安心して工場内を見物、いや視察する。

 現在この工場のメインはフェリーデ北部縦貫線用高速車両の増産。

 具体的には特急用車両の中間車モイ582や高速車両の急行版クモイ504系列を作っている。


 特急用車両はこれまで基本が5両固定編成で、増解結用が2両編成だった。


 領都特急は基本的に3階建て編成で、

  ○ ダラム⇔アオカエン・ノマルク・ガナーヴィン行き

  ○ ダラム⇔ガナーヴィン・スウォンジー北門・エーロング行き

の2系統。


 当初は客が多そうなガナーヴィン行き車両は5両、他は2両としていた。

 しかしアオカエン行きを筆頭に、付属編成の2両編成では座席数が足りなくなっていた。


 結果、付属編成基本編成全てを3両編成に組み替えるという案が出て、当初はそれで作業していた。

 ガナーヴィン行きは2編成足して6両、他は3両で運行するというつもりで。


 しかしそれでも足りないという話が出た。

 特にアオカエン発着の朝夕便は『せめて倍程度は欲しい』と。

 しかしガナーヴィン行き2編成のうち1編成をアオカエン行きにすると、今度はガナーヴィンで座れないという苦情が出そうだ。


 そんな訳で、列車1本あたりの座席数を出来るだけ多くする方針で再度計画を練り直した。

 条件は次の3点だ。

  ○ 領都特急は基本的に3階建て編成までなので、3つの編成に分割可能である事

  ○ 現在のゴーレム制御技術では、編成制御の為に最大時の編成長が80腕160mまでである事

   (なお領都特急用の車両は運転台付車両が全長6腕12m50指50cm、中間車が全長4腕半9m

  ○ 領主家等が移動する時の為に、専用車両を1両は増結可能である事。

  

 この条件で考えた結果、

  ○ 基本編成が5両(編成長26腕52m

  ○ 付属編成が4両(編成長21腕半43m

という組み合わせが最適と判断された。

 

 この場合、ダラム発着時が13両、編成長が69腕138mとなる。

 限界長の80腕160mまで11腕22mある訳だ。

 全長8腕16mの車両なら1両、全長5腕10m50指50cmの車両を作れば2両の増結が可能だ。


 という訳で、現在は中間車を増産して、付属編成を2両から4両にしている状態だ。


 高速車両の急行版クモイ504系列とは、

  ① 特急用車両クモイ582系列の4両付属編成と同等の車体を

  ② 従来の急行用車両クモイ502と同等の座席、座席間隔、窓配置、扉配置にして

  ③ カラーリングをクリーム色と青色のツートン塗装

にしたもの。


 4両固定編成で、運転最高速度は時速80離160kmと特急用車両と同等。

 定員は4両で120名、つまりクモイ502の3両編成117名とほぼ同等。


 現在使用中のクモイ502をクモイ504に変更する事によって、

  ① 急行列車の所要時間を短縮する

だけでなく

  ② ダイヤを更に高密度化する事

が可能になる。

 速度差が減った結果、急行列車が後続の特急列車に追いつかれにくくなるからだ。


 これらの高速列車製造作業は製作第二課が中心だ。

 ただし現在の製作担当の最優先業務なので、一課や三課からも応援を出している。


 一方で一課のマリオ課長と部下数人は運転最高速度120km/hという高速機関車を試作中。

 これは今後の貨物輸送で必要になる可能性が高いという事で、試験的に製造する事になったものだ。


 こういった試作品、一品物の製作は一課の本業。

 そして役職持ちが一番面倒かつ複雑なところ、彼ら的に言えば美味しいところの最前線にいるのは、製作ジャンキーだから仕方ない。


 一方、エルダ課長も高速車両ではなく別の作業をしている。

 本来、彼の第二課は製造作業の中心であるにも関わらず。


 彼がやっている作業は森林鉄道・軽便鉄道提供用パッケージに使用する車両の試作作業。

 これは現在シックルード領内の森林鉄道で使用している車両をベースにして、更に

  ○ 車両本体の簡素化及び低コスト化

  ○ 整備性の向上

を計る事を目的としている。


 エルダ課長が得意とするのは、既存物の再設計による最適化。

 つまりまさに今、森林鉄道車両に対してやっている事だ。


 例えば森林鉄道の最新標準型自走客車クモロ308をたたき台に、

  ○ 車体を再設計しより軽量かつ生産性の高い構造に変更

  ○ 最新の強力な動力ゴーレムを採用

  ○ 台車を再設計し、整備性が高い構造に変更

等の改良を加えている。

 

 そしてヒルデ課長率いる三課が現在製造しているのは、鉱山用トロッコ用新型ゴーレム。

 傾斜が70‰以下のレール区間では車輪で、それ以上の傾斜やレールがない区間では山羊型に変形して四脚歩行する構造だ。

 これで区間によっては輸送効率を2割以上上げられるという計算になっている。


 なおヒルデ課長が当初試作したゴーレムは、機関車型と山羊型の他、二足歩行の人型にも変形が可能だった。

 鉱山側の検討の結果、人型への変形機能はオミットし、その分軽量化や簡素化した物が採用となった。

 何故人型に変形する必要があるのか、僕にも鉱山の採掘管理担当にも理解出来なかったからだ。


 決定の時、僕は思った。

 ひょっとしたらリーランド大叔父あたりなら人型へ変形させる理由がわかるのかもしれないと。

 変形はロマンだと言っていたらしいし。

 

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