第49章 リモートワークは遠いけれど

第207話 食事パターン把握完了?

 朝7の鐘で目が覚めた。

 夜が遅かったせいか、目覚めはあまり良くない。


「リチャード、大丈夫ですか? 昨日は夜遅かったですし」


「別にここで何かする訳でもないしさ。問題ない」


 朝食は7半の鐘の時間だ。

 歩いて10半時間6分もかからないし、少し目をしっかり覚ましたい。


「ちょっと朝風呂に入って目を覚ましてくる」


 昨晩の事が気になるが、どうせ情報はまだ入っていないだろう。

 フェリーデこのくにの場合、新聞は早朝に配られる訳ではない。

 印刷所がある大きな街では朝9の鐘過ぎ、それ以外の街では印刷したものがゴーレム車等で到着した後、店頭で売り始めるのが普通だ。


 しかも毎日とは限らない。

 シックルード領の場合『シックルード新報』が週3回発行されるだけ。

 以前は週2回発行だったからこれでも多くなった方だ。


 さて、ウィラード領サルマンドの場合はどうだろう。

 朝の鉄道で運んできてくれればいいのだけれど。


 ささっと湯浴着を着て、身体や口内に清拭魔法をかけて部屋についている露天風呂へ。


 外は快晴だ。

 サルマンドは国の最北端で標高もそこそこある。

 秋になったばかりだから寒いとまではいかないが、それでも涼しい位の気温。

 ただ太陽はしっかり眩しい。


 湯に足の先からゆっくりと入る。

 朝一番だからかすこし熱めに感じる。

 魔法で湯温を冷ましてもいいのだけれど、この方が目が覚めそうだ。

 だからあえてこのままで。


 うん、やはり温泉は気分がいいし、朝風呂なんて贅沢で宜しい。

 これでゼメリング家関係の色々が無かったら最高だったのだけれども。


 ◇◇◇


 少し浸かって目を覚ました後、他の部屋の皆さんが動き始めたのが魔力でわかったので、さっと着替えて食堂へ。

 朝食もバイキングだ。

 パンやジャム等一部のメニューは夜と同じだけれど、半分以上は朝食用の別メニューになっている。


 卵焼きもベーコンも、サラダ類も美味しそうだ。

 ヨーグルトとフルーツグラノーラなんてのも良さそう。


 ただ僕の胃袋、朝食時にはあまり働いてくれない。

 だから卵、薄切りハム、サラダにバターロール1個、牛乳という組み合わせで他の人が食べるのを観察する。


 ローラはやはり山菜とキノコがメイン。

 蒸したり塩漬けになっていたりする山菜、キノコ類をほぼ全種類確保。

 主食は大麦御飯で、とろろ芋と鶏出汁をかけるなんて食べ方をしている。


「そんな食べ方があるんだ」


「端の方で説明書きがありました。美味しいですしさらっと入るので朝食にちょうどいい感じです」


 料理全部をしっかり見なかったから気がつかなかった。

 誰か日本人の記憶が残っている人がメニューを考えたのだろうか。

 美味しそうだし、これなら僕も食べられそうだ。

 家でも今度、とろろ芋を取り寄せてやってみよう。

 

 ローラとパトリシア以外の女性陣3名はこんな感じ。

  ○ エミリーさんがサラダ、パンケーキ、ジャム5種類、ハーブティ2種類

  ○ ハンナさんがサラダ、トースト、目玉焼き、ベーコン、ヨーグルト

  ○ リディアさんがパンケーキ、フルーツグラノーラ&牛乳&ヨーグルト

 それぞれ趣は異なるけれどいかにも朝食という感じだ。


 マーキス氏もやはり朝食っぽく、サラダ、ベーコン、卵焼き、スープといういかにもな選択。

 よく見ると奥様のハンナさんと似たような組み合わせ。

 きっと似た者夫婦という感じなのだろう。


 ダグラス氏は夕食同様に肉盛りで、ソーセージ、ハム、蒸しヤマドリが中心。

 昨晩同様ジャガイモサラダが主食と野菜を兼ねている。


 そしてパトリシア、ゲオルグ氏、エリオット氏はまたしても『端から順に3人で全部とってみました』という感じだ。

 ただこの3人の胃袋は昨晩のバイキングでよくわかっている。

 だからきっと大丈夫だろう。


 だいたい2日目朝にして、食べ方のパターンがわかったなと感じる。

 

「さて、今日はどうしましょうか?」


「部屋にこんな散策案内がありました。河原に温泉が湧いている場所や蒸気が出ていて野菜やお肉を蒸したり出来る場所、あと滝や見晴台もあるそうです」


 ローラが散策ガイドマップを出す。

 部屋にあった案内ファイルに『ご自由にお持ち下さい』と挟んであったものだ。

 なおローラの言葉、特に見晴台というあたりで女性陣の表情がひくっと引きつったように見えたのは気のせいだろうか。

 僕も夏休みに何処ぞへ行った時の筋肉痛が一瞬蘇った。


 しかし残念な事に僕は行く事が出来ない。


「すみません。僕は今日は出来るだけ連絡がとりやすい態勢でいなければならないようです。だから申し訳ないですが、皆さんで行ってきてください」


 もちろんローラに振り回される可能性があるハイキングを避けたいという理由では無い。

 緊急で何か連絡が入るかもしれないので、連絡がとりやすい施設内にいるつもりだから。


 何もないかもしれない。

 しかしもし緊急で何かあった場合、連絡が取れないのではまずい。

 何せ内乱の可能性なんて状況だ。

 勿論実際に勃発する可能性は低いのだろうけれど。


「それなら皆でこの施設でゆっくりしましょうか?」


「いえ、折角ですから行ってきて下さい。どんな感じなのか、感想を聞きたいですから」


 これは本音だ。

 勿論報告書で知ってはいるけれど、実際の体験として知っている人の感想を是非聞きたい。

 本当は僕自身が行きたいのだけれど、それが出来ないから。


「そうですね。この温泉蒸しセットなんて持って行って、向こうで調理してみるのも楽しそうです。温泉で茹でる卵なんてのもあるようですし、見てみると今後の参考になるかもしれません」


 パトリシアが口調こそよそゆきだが、彼女らしい提案をする。

 じつはその温泉蒸しや温泉卵、僕も試してみたかったのだ。

 ここの温泉蒸しセットは芋や野菜や肉、卵だけではない。

 お焼きのようにおかずが入った蒸し饅頭なんてのまである。

  

「そうですね。全部回ってこの料理を体験してもお昼頃には戻れるようですので、行ってきましょうか」


 ゲオルグ氏もきっと食欲先行だろう。

 でもおかげで行く方向で話がまとまりそうだ。

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