第47章 温泉へお出かけ

第196話 鉄道でお出かけ

 嵐の前の静けさという感じがしないでもない9月1日の朝。

 僕とローラは久しぶりに2人で鉄道でお出かけだ。


 勿論事前にウィリアム兄には報告してある。


「ウィラード家の方にも連絡済みだし問題は無いと思うよ。個人的には羨ましすぎて不許可と言いたいところだけれどね」


 確かにウィリアム兄、情勢的に大変そうだ。

 逆恨みはまあともかくとして。


「今度希望があったら最優先で予約を入れておきます」


「今の情勢が一段落しても当分は動けないだろうね。子供が生まれて、ある程度余裕が出来るまではさ」


 確かにそうだな。

 ならせめて土産でも買って帰って来るとしよう。


 久しぶりに駅弁を買って急行に乗る。

 僕はお馴染みアヒル弁当、ローラは山の幸弁当という僕が初めて見る弁当を購入。


 急行列車は夏休みシーズンでもないのに6両編成。

 始発ではないスウォンジー北門駅からでも6半時間10分前に並べば2人掛け席を確保出来る。

 もっとも北門駅で乗った人でほぼ満席。

 次のシノマ河川港駅ではちらほら立ち客がいるなんて状態になったけれど。


 そろそろ急行も指定席なんてのを考えた方がいいかもしれない。

 特急だけは半分は指定席で予約を取れるようにしてあるけれど。

 貴族の皆さんが警備込みで移動する為に必要だろうから。


 ただしこの予約作業、まだ自動化されていない。

 特急の始発駅に座席管理台帳を置いて、その台帳で管理している。

 通信端末を使って始発駅購入問い合わせを入れ、手動で帳簿を確認して記載し、返信するというやり方だ。


 出来ればこれも自動化したい。

 あとは宿の予約なんてのも一緒に出来れば便利だろう。

 こちらも今は別窓口で手作業でやっているけれど。


 キットの歯車型コンピュータでそこまでの機能が実現出来るだろうか。

 実現する為に費用はどのくらい必要だろうか。


「リチャード、また何か考えています?」


 ローラの言葉でふっと我にかえる。

 そうだ、今は旅行中だった。

 仕事のことは後で考えよう。


「いや、単に業務上の改善点をちょっと考えていただけだ。仕事が頭から離れなくてさ、すまない」


「環境的に仕方ないですよね」


 何せ今乗っている鉄道そのものがうちの商会によるものだから。

 ローラはそこまでは言わないけれど。

 さて、お弁当を食べるとするか。

 急行だとハリコフ駅まで3半2時間40分ちょっとしかかからない。


 そう言えばローラのお弁当は新作だったな。

 どれどれと見てみる。

 アヒル肉と大根とキノコの煮物、山菜系の野菜のフライ、栗といったおかずと炊き込み御飯という中身。


「確かにローラ向きだな、これは」


「ええ。北門駅で買えるお弁当ではこれが一番好きです。特にこの煮物のキノコがとっても美味しんですよ」


 ローラは僕と違って月に2回以上は鉄道で出かける。

 行先はダラムだったりダラム経由で王都バンドンまでだったりガナーヴィンだったり。


 セリーナさんが大事を取って出かけられない以上、ローラの仕事が増えているから。

 だから最近は僕より鉄道に乗っているし、こういった買い物にも詳しくなる訳だ。


 ◇◇◇


 急行をハリコフ地区駅で下車。

『特選市場』という名の実質デパートで今日一緒になる皆さんへのお土産を購入した後、ガナーヴィン駅へ。


 路面鉄道のハリコフ駅、シックルード本線のハリコフ地区駅、そしてガナーヴィン駅は『特選市場』のあるビルで繋がっている。

 駅名は違うけれど乗り換え割引の対象で、事実上は同じ駅。

 ただホームの場所や高さが違い、ガナーヴィン駅は建物の中二階くらいの高さになっている。


 フェリーデ北部縦貫線の北方向行きはガナーヴィン駅の2・3番線ホーム。

 ここから領都特急に乗ってアオカエンへ向かう。


 これから乗る領都特急7号は領代表駅と領都全てに停車するタイプ。

 ダラムを8両編成で出発して、

  ① ビーシーツでエーロング行き2両を分割し

  ② アベルタでスウォンジー北門行き2両を分割し

  ③ エズフィルでノマルク行き2両を分割し

  ④ アオカエンに先頭2両だけが到着

という4階建て列車だ。


 つまりガナーヴィン駅に来た時点では4両編成。

 先頭から2両がアオカエン行きで、うち先頭の1両が指定席車両だ。

 先頭車両の扉から乗りこんで前方向に向かうと、見慣れた顔が揃っていた。


 そう、つまりこれ、前々から企画していたローラの同窓会だ。

 夫も連れて、ウィラード領サルマンドにある温泉で2泊3日楽しもうという。


「どうも、お久しぶりです」


「こちらこそ、今回はこのような機会をありがとうございます」


 簡単に挨拶した後、空いている5列目の2人席へ。

 名乗らないのは安全の為だ。


 でも実はこの車両、全席僕が予約済み。

 特急用の車両は連接式で全長が短く、そのうえアオカエン行き先頭車両は流線型なので客室が小さめ。

 結果この車両の客席は横3列縦7列の21席しかない。

 つまり座っているのは仲間か警備担当ばかりだったりする。


「ところでローラ、スージーちゃんは元気?」


 パトリシアがローラに話しかけてきた。


「ええ、元気ですし真面目に頑張っていますわ。うちの御菓子を幾つか作れるようになったので持ってきました。どうぞ」


 ローラは小さな籠に入った御菓子詰め合わせを皆さんに配る。

 中身は、

  ○ 小●軒のレイズン・ウィ●チもどき

  ○ 銀座ウ●ストのダークフ●ーツケーキもどき

  ○ リンデンバ●ムのラ●レーズンもどき

という、要はラムレーズンお菓子セットだ。


 なおうちのラムレーズンにはラム酒ではなくブランデーを使っている。

 だから厳密にはブランデーレーズンというべきなのかもしれない。


「待っていました! 新作も入ってる! でも小さめのばかりだね」


3半2時間40分かからないうちに乗換だからこれで充分だろ。大きいのも一応持ってきたし、ガナーヴィンでもお土産を買ってきたからさ」


「あのガナーヴィン駅のお店、いいですよね。実は時々見に行くんです。列車で1時間ちょっとあれば行けますから。

 そうそう、うちの公社の特製ワインとチーズを持ってきたのでどうぞ」


「ありがとうございます」


 エミリー嬢と結婚したエリオット氏は現在ブローダス家の農業振興公社の公社長をしている。

 だから家もブローダス領の領都ビンシントンにある訳だ。


「いいなあエミリーは。王都からだとダラムに行くだけで2時間使っちゃうんだよね」


 これはパトリシア。

 パトリシアの夫のゲオルグ氏は国王庁国土開発局、リディアさんの夫のダグラス氏は国王庁大蔵局、ハンナさんの夫のマーキス氏は王立研究所にそれぞれ務めている。

 つまりうちとエミリーさん&エリオット氏のところ以外は王都バンドン暮らしな訳だ。


王都バンドンならそれなりにお店も物も揃っているのではないでしょうか?」


 エミリーさんの問いにパトリシアが首を横に振る。


「そうでもないよ。確かにあちこち探せばそれなりにあるのだろうけれどね。ガナーヴィン駅にあるような全国名物を一度に見る事が出来るようなお店は今の所無いかな」


 さて、それではエミリーさん達からのワインを頂こうとしよう。

 ブローダスのワインはフェリーデこのくにではブランド品だ。

 僕はあまり酒に強くないので、少ししか飲めないけれども。


※ リ●デンバウムのラムレー●ン

  横浜の日吉にあるバームクーヘンやさん『リンデンバ●ム』の逸品。

  砕いたバウムクーヘン、ラム酒漬けのレーズン、バタークリームを混ぜ合わせた球をチョコレートで コーティングしたもの。大きさはゴルフボールよりやや小さいかな位。

  結構お高いが美味しい事は間違いない。


  なお本店は何処も最寄り駅がない(強いて言えばグリーンラインの日吉本町駅から歩いて20分ちょい、東急の日吉駅からだと30分弱)けれど、日吉駅の東急に支店が入っているので、電車で買いに行く人はそっちが遙かに便利。


  前世のリチャード君の友人が骨折して近くの病院(川崎市立井田病院)に入院した際、お見舞いを買う為に近くの店で美味しそうなものを探した結果、発見した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る