第34章 ちょっとした息抜き?
第137話 発見! 新作弁当
買い物デート、ラングランド大滝2回目、ロト山登山2回目。
一通りやってローラが帰り、夏休みは終わった。
なお今回の夏休み、ローラに対しては紳士的態度のまま接する事に無事成功した。
ヘタレなんて思わないで欲しい。
合理的に考えた結果、余分な事をして婚約が取り消しになっては不味いと判断しただけだ。
決して勇気とか押しとか勢いとかが足りなかった訳では無い。
童貞的思考と行動のせいで手を出せなかった訳でもない。
本当だ、多分きっと。
さて、夏休みが終わった途端、仕事がフルノッチ状態になった。
当然と言えば当然の結果。
ただでさえ冬に開業するローカル線4路線の開業準備で忙しい時期なのだ。
そこに高速列車の試験線の土地折衝をしたり、ついでにスティルマン領に建設予定の第2、第3ローカル線の計画変更後の様子を確認したり、
本来の僕の仕事は新事業の提案ではない。
商会の方針の決断と、領主や市長、国等のお偉いさん等の折衝だ。
まあ領主関係は兄と義理兄予定だから比較的楽だけれど。
いや、なまじ兄と義理兄予定だからこそやってくる面倒な要望なんてのもある。
その辺を考慮すれば楽でもない。
差し当たって締め切りが一番早いのが講演会だ。
会場は夏休みが終わる前に王都の父らが確保した。
王立研究所第1レセプション・ホールなんてとんでもない場所を。
講演会の宣伝についても手配した。
媒体は主に新聞の広告。
更に招待状を送るなんて作業もある。
貴族関係はウィリアム兄と、研究者関係はキットと相談して。
面倒な事にこの招待状、少なくとも貴族関係分は手書きで書く必要がある。
主催者でもある僕の自筆で書かないと失礼に当たるなんて面倒な礼儀作法があるから。
これもまたとんでもない作業量だったりする。
ついでに言うとこの期間でも講演会以外の仕事は勿論ある。
朝の幹部会議、商会内の決裁、高速鉄道試験線の工事確認、ローカル線開通予定の村長等への挨拶……
家に帰っても寝るまで仕事の報告書や決裁を読む日々。
こんな仕事漬けの生活を2週間続けると精神が削られてくる。
しかも講演会までの日々は刻々と近づいてくる。
いい加減煮詰まりかけたある日の、もうすぐ昼12の鐘が鳴るかなくらいの時間だった。
「随分と景気が悪そうな顔をしているじゃないか」
部屋に入ってくる前から誰かはわかっている。
勿論カールだ。
「半ば自分でまいた種だけれどさ。流石にしんどいな」
そう言って、そう言えば最近カールとほとんど会話していないなと気づいた。
カールは高速試験車両の試験で夜出勤が多く、朝の幹部会議もキットが出てくる場合がほとんど。
更に僕は忙しすぎて工房への顔出しもほとんど出来ていない。
「ところでカール、講演会の準備は大丈夫か?」
「大した事はない。発表の準備なんて半日あれば出来る」
多分本当なんだろな、そう僕は思う。
カールは間違いなく天才と呼ばれる部類の人間だ。
その事を僕は充分過ぎるくらい知っている。
「ところでリチャード、今日の午後に抜けられない仕事はあるか」
今日の午後か。
「講演会資料のうち、営業部から来ている経済性関連の講演内容確認と質問、後は観光推進部の会議が3の鐘から。終わったら経理部からの資料の読み込みだな」
「さぼれ。ダルトン以下に話はつけておく」
いきなり強烈な提案が来た。
「何かあるのか」
「行けばわかる」
「わかった」
カールがそう言うならそれだけの何かがあるのだろう。
「なら急げ。
列車で出る。
そうなると行く場所は想像がつく。
「高速試験線か」
「話は後だ。駅で会おう。列車の最後部車両で待っていてくれ」
カールは部屋を出ていった。
僕はポケットから懐中時計を出して時間を確認。
まもなく12の鐘だ。
地球風に言うと11時57分。
今から出ればカールの言った列車には余裕で乗れるだろう。
支度なんてのは特に必要ない。
荷物は基本的にアイテムボックスに入れている。
「行くんですか?」
隣の部屋からマルキス君が出てきて声をかけてきた。
「ああ。カールがああ言うなら行くだけの価値はあるだろう」
「わかりました。それでは私は一度屋敷の方へ戻ります」
僕の屋敷か父や兄の屋敷かは微妙なところだ。
マルキス君の立ち位置的に。
でもまあ、そこに突っ込む必要は無い。
「わかった。それじゃ行ってくる」
僕は立ち上がり、歩き始める。
時間に余裕があるから、久しぶりに売店で弁当を買う事にしよう。
一応家からも昼飯を持ってきている。
しかし列車内ならやはり駅弁だ。
北門駅に比べると小さな売店を覗いてみる。
僕の記憶にない弁当があった。
僕が知っているのはボリュームサンドイッチ、長パンを使った肉チーズサンド、日替わりサンドイッチの3種類。
しかし新たに3種類追加されている。
しかもそのうち2つは米の弁当だ。
ひとつはアヒル弁当。
アヒルの形をしているのではなく、アヒルの肉と卵焼きががっつり入った弁当だ。
日本にもよくある鶏&卵そぼろの弁当と似たような感じだなと思う。
味つけはわからないけれど、見た目も茶色&卵の黄色で似た感じ。
なおお値段は
もうひとつは牛弁当。
御飯の上に焼いてタレがかかった牛肉が載っているという、名前そのままの弁当だ。
これも見た目が茶色。
お値段
残る1つのパン系弁当はジャックサンドだ。
バゲットっぽい長パンに焼いた塩漬けの魚を野菜やマヨネーズとともに挟んだもの。
何だ今回の新しい駅弁は。
どれも僕の好みど真ん中では無いか。
早速売り子をしているお姉さんに聞いてみる。
「これらの新しい駅弁はいつ頃から入ったんですか?」
「8月になってからですね。以前から弁当の種類を増やして欲しいという要望がありましたので、今までと違ったものを考えさせていただきました。
今では
なるほど。
確かに北門市場をローラと歩いた時、中に海鮮を扱う店が出来ていた。
それと同じか。
さて、どれにしようか。
僕はパトリシアではないから、全部買うなんて事はしない。
少しだけ悩んで、そして決める。
「アヒル弁当をひとつ、牛弁当をひとつ、紅茶を2つ御願いします」
両方食べる訳では無い。
念の為にカールの分も買っただけだ。
※ フルノッチ 電車や気動車等のマスターコントローラーを最大加速状態に入れる事。自動車のアクセル全開! とほぼ同じ意味。
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