第127話 チーズフォンデュを食べるだけの回
チーズフォンデュ、思った程くどくない。
というかむしろさっぱりしている気すらする。
チーズの風味は確かにするのだけれども、他にも何か入っている模様。
取り敢えずワインが入っているのは確かだが、他は僕の舌では判別不能だ。
味そのものも非常に美味しい。
なお好きな具を串につけて食べるという形式の為、何を選ぶかに各自の好みが露骨に出る。
例えばローラは芋、アーティチョーク、ブルスカンドリ、キノコ類が中心。
パトリシアはミニステーキ、パン、ソーセージ、パン、チキンという感じだ。
「こうやって種類色々を食べると思い出しますね。春休みで来た際、スウォンジーの自由市場で買ったお野菜やお肉を食べた時の事を」
「そうだね。明日あたり、また市場で好きなものを買って料理してもいいかもね」
あの時もローラは山菜と芋・キノコ中心で、パトリシアは肉中心だったなと思い出す。
「その時もこんな感じでチーズフォンデュにしたのでしょうか?」
「あの時は串に刺して揚げたのでしたね」
「そうそう。自分で揚げた後、何種類かのソースにつけて食べて」
そう言えばあの時は串揚げパーティにしたなと思い出す。
多少えぐい山菜系の木の芽も、揚げれば美味しく食べられるから。
「このチーズフォンデュも美味しいですけれど、それも試してみたいですね」
「なんなら明日あたりやってもいいんじゃないかな。お兄、大丈夫だよね」
「大丈夫です」
もともと市場巡りも予定の範囲内だ。
ソースも一通り在庫がある筈だし。
「それにしてもこうやって景色を見ながらのんびり食べるの、いいですよね。街と比べて段違いに風が爽やかですし、滝や川の水も綺麗ですし」
「そうですね。実は水浴着を持ってきたるので、少し泳いでみてもいいかなと思っています」
「実は私も水浴着を持ってきました。滝の一番激しい辺りは入れないようですけれど、脇の滝が落ちている辺りは涼しくて気持ち良さそうです」
ちょっと待てローラとクレア嬢、それはアウトだ。
確かに水浴着で水遊びしている人はいる。
中には滝つぼにジャンプして飛び込んでいるなんて人も。
安全対策でうちの商会から監視員として水属性魔法と生命属性魔法を使える魔法使いを常駐させてもいる。
更に本当に危険な場所はロープなり何なりで入れないようにしている。
だから安全面での支障はない。
しかし仮にも貴族家の御嬢様がそれをするのはどうなんだろう。
僕としても予想外の場所で水浴着が出てくると、心の準備というものが……
「とりあえずデザートを食べてから考えようよ。時間もまだまだ十分あるし。
それでデザートはどれにする? 食べながら考えよう」
パトリシア、ナイス話題転換。
まあ本人は単なる食欲でそう発言したのだろうけれど。
デザートメニューはテーブル上の紙に書いてあるから誰でもわかる。
「種類が多いですね。アイスとチーズケーキとシャーベットですか。しかもそれぞれ違う味があるんですね」
「アイスは車内で食べた美味しい奴と同じだよね。フレーバーが同じだし。
場所の雰囲気的にはシャーベットなんだろうけれど、でもこの4種のチーズケーキって美味しそうな感じがしない」
「そうですよね。私もそれが気になります」
「ならいっそ、ホールで4種類とも頼んでしまうのはどうでしょう。7人だから半分ずつで半分余る計算ですし、ちょうどいいのではないでしょうか」
確かにここのチーズケーキ、ホールと言ってもそれほど大きくはない。
1個が直径
それでもホール1個で3人前計算なのだけれども。
そして種類はプレーン、イチゴ、ブルーベリー、チョコの4つ。
どう考えても多い気がするのは気のせいだろうか。
皆、パトリシアの大食いに毒されていないか気になる?
そう言えばパトリシア、昔からよく食べるけれど太らないよな。
体質的にそうなのだろうか。
見えないところで努力しているタイプではない。
少なくとも僕が知っている限りでは。
「それじゃお兄、デザートはチーズケーキ。4種類ともホールで、取り皿7人前で」
「わかりました」
手を挙げて店員さんを呼び、頼んでおく。
そうだ、ここのチーズケーキやアイス、お土産に買って行ってもいい。
屋敷で働いている皆さんや商会の皆さん用に。
この国ではまだ旅行が一般的では無い。
だから当然、旅行の帰りにお土産を買っていくという習慣も存在していない。
だから買わなくても問題ないのだけれど、日頃の感謝という事で。
特にうちの屋敷の皆さん、甘党ばかりだし。
帰りも直通列車の予定だから、ラングランド中央駅の売店に寄る余裕はない。
なら買える場所は此処だけ。
なら今度店員さんが来た時に頼んでおこう。
そんな事を考えていると、あれだけあった具材が無くなりかけている事に気づいた。
パトリシアだけのせいではない。
皆さん結構食べている。
「このチーズフォンデュ、美味しいですよね。実家に帰ったら真似してみましょうか」
「確かに美味しいですわ。でもこれは此処の景色と空気の中で食べるから美味しいのではないでしょうか」
話している言葉は上品なのだけれど、食べる勢いは上品ではない。
こういう場では往々に残りがちな野菜類はローラとクレア嬢の2人がガシガシと消化しているし。
というかクレア嬢、さっきの水浴着発言も含め、ローラと似た趣味というか性格なのだろうか。
高い所好きというのは別として。
ただ無くなったからと言ってお代わりは無しだ。
もう十分食べている筈だから。
それにこの後、チーズケーキも大量にやってくる予定。
それで充分だろう、常識で考えると。
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