第23章 春休み開始

第90話 終着駅にて

 うちの技術部というか工房は無いところからも仕事を作ってしまう。

 今回工房が独自に取り組んでいるのは路面鉄道に使用しているクモロ600の改造計画。


 クモロ600は本来、基本的には単行運転(1両)、混雑時間だけ2~3両連結で運行するつもりで計画した車両だ。

 しかしガナーヴィンにおける旅客需要は予想を遙かに超えていた。

 5両編成が標準になるなんて考えてもみなかった。


 ならば常時5両編成を前提にもっと人が乗れる車両へと改造しよう。

 運転台は前後だけでいい。

 中間の運転台を無くせばその分多くの乗客を運べる。


 連結も中間車両は常時連結でいい。

 他の車両と連結する事を考えなければ連結器の位置を下げる事が出来る。

 貫通路が通りやすくなるだろう。

 機器も簡略化出来る。


 そんな理屈で勝手に改造をはじめてしまったのだ。

 確かにそんな低床車両があれば便利だろうし合理的。

 いずれ必要になるかもしれないと思えば悪い事では無い。

 だから止めるなんて事は勿論しない。


 ただ、ついでなので連接車両なんてアイデアもカールに投げておいた。

 なお新型の低床貨物用車両も同時に開発中。

 これでどんな車両が出来上がるだろうか。

 少しばかり楽しみだ。


 さて本日、僕は午前中の御仕事を終えた後、半日休を取ってガナーヴィンに向かう。

 ダコタ=ナム線が大型車両を運用開始、ガナーヴィン西線も試験運行を開始したので、その様子伺いだ。


 仕事と称して試乗してもいい。

 しかし有休や代休がたまっているので、少しでもいいから消化してくれと庶務に言われている。

 それに本日は他に私用もあったりする。

 そんなこんなで半日休を取ったのだ。


 いつもは急行で行くが、本日は時間に余裕がある。

 だからお昼ちょうどの急行の後に出る普通直通列車を選択。

 普通と言ってもモレスビー港駅まで1時間12分で走る。

 ゴーレム車よりよっぽど速い。


 普通直通列車用の車両はクモロ502が優先的に充当されていて、この列車もセミクロスシートのクモロ502が2両編成。

 なお直通でない列車はクモロ503が多いので全席ロングシートなんて事もある。

 ロングシートは混雑時には正しいが旅情的にはいまひとつ。

 飲食をしにくいのもマイナスポイントだ。


 最前列に並び、運転席すぐ後ろのクロスシート1人席を確保。

 乗り込んできた車内販売を呼び止め、ボリュームサンドイッチと牛乳を購入。


 急行形のクモイ502と違い、座席は固定式。

 テーブルは座席の後ろに少し大きめのものがついている。

 そして運転席直後の席は、壁に固定したさらにしっかりしたテーブルを使える。

 このあたりは急行形のクモイ502よりも旅向きだ。


 弁当と汽車土瓶に入った牛乳を置いてゆったり着席。

 なお車販の弁当や飲み物は結構売れているようだ。

 今のところ車販を行っているのは三公社前駅からジェスタ西門駅までの間だけれども、もっと拡大してもいいように思う。


 そうしたら今度は御飯と肉の弁当をリクエストしたい。

 ただ、サンドイッチは車内で食べる事を考えると御飯物の弁当より楽だ。

 汽車土瓶入り牛乳もなかなか美味しい。

 違和感はありまくるけれども。


 今のところガナーヴィン側には駅弁は無い。

 売店で牛乳やサンドイッチ等を売っているだけだ。


 ガナーヴィン発の急行や普通直通もそこそこの乗車率だと聞いている。

 だからそのうち、ジェームス氏に地元業者を紹介して貰い、駅弁を作ってもいいかなと思っている。


 それならやっぱり魚介類メインの弁当が欲しい。

 出来れば今度は御飯物、寿司系なんて是非是非御願いしたい。


 ◇◇◇ 

 

 モレスビー駅はかなり大きい。

 線路とホームは地下相当の高さ、駅舎と港湾直通の貨物線は地上という作りだ。


 ホームは現在のところ4面8線。

 1~2番線がダコタ方面行き。

 3~6番線がシックルード領方面行き。

 7~8番線がナム方面行き。

 更に9~10番線が作れる程度の空間もある。

 

 1~8番線の線路西側は行き止まり。

 頭端式ホーム、または櫛形ホームと呼ばれるタイプだ。

 そしてホーム間の通路となっている部分は地下、地上ともにかなり広い空間となっている。


 地上部分はまだ何も作っていない。

 しかし地下1階の中央に待合室と休憩所をあわせたような空間が有り、周囲を店が囲んでいるという作りになっている。

 

 この駅の設計や管理は商会ではなくスティルマン領主家側。

 つまりこの広さもエキナカ的空間も、領主代行以下が何かを企図して設計したものだ。


 そして店で扱っているのは休憩時に欲しくなるような飲食物だけではない。

 スティルマン領やシックルード領の産物で選び抜かれた特産品が展示販売されていたりもする。

 つまりアンテナショップ的な性格も持っている訳だ。


 ちなみに冬休みの時は、ここの店でパトリシアが散財した。

 綺麗な鉱石をちりばめたアクセサリーなんてものも売っていたので。

 勿論痛んだのはパトリシアでは無く僕の懐だけれども。


 そういった店や待合室、櫛形ホームなんてのがいかにも終着駅ターミナルという感じで良い。


 売店でジャックサンドと牛乳を購入。

 ジャックサンドは紙につつまれた形で、牛乳は瓶入り。

 日本にあった牛乳瓶よりやや狭い口をコルクに似た木栓で留めている。

 汽車土瓶より背が高い分倒れやすそうだ。


 5~6番線ホームへ移動する。

 このホームはつい最近、大型車両用にかさ上げされたばかりだ。

 ガナーヴィン西線のメッサー行きや、まだ建設していないガナーヴィン北線もここから出る予定。


 列車がやってきた。

 乗る予定の試運転列車ではなく、ダコタ=ナム線の普通列車だ。

 ダコタ=ナム線は急行は無く、

  ダコタ=ナム間の貨客混合列車が6半時間10分に1本

  貨物専用の路面鉄道直通列車が1時間に1本

走っている。

 

 この列車も貨客混合編成だ。

 クモロ503を2両、コンテナ用大型車クモワ503を2両、大型無蓋車ト104を1両、更に小荷物及び荷主用にクモロ503を1両連結している。

 計6両編成で50腕100m近い長大編成だ。

 この世界では、だけれども。


 これに乗ってもいいけれど、まずは初志貫徹でガナーヴィン西線の試運転車両だ。

 確かクモロ502の1両で来る予定だ。


 到着した列車から貨物を出し入れする作業が始まった。

 クレーン等は無く、基本的に人力、ただし身体強化魔法を使っている。


 こうやって見ると積み卸し作業もなかなか手早いなと思う。

 貨物用ヤードで入れ替えなんてのとはかなり違う。

 1分程度の停車時間で相当な量を積んだり降ろしたり出来るようだ。


 だからこそ荷物も旅客と大して変わらない速さで運べるのだな。

 そんな事を思いながら僕はホームで列車が来るのを待つ。

 

※ 頭端式ホーム、または櫛形ホーム

  頭端式ホームとは、始発駅、終着駅、又はスイッチバック駅などにおいて、線路終端側に改札口や乗り換え通路、階段等があるホームのこと。

  2面以上のホームがある場合、上から見るとコの字やヨの字のように見えたりもする。このようにホームが複数ある頭端式ホームを櫛形ホームとも言う。

 

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